第111話 再会
「やっと3-1に着いた💧」
オルカはぐってりと膝に手を突いた。
彼は3-5地区から順繰りに見て回り、やっと故郷である3-1地区に戻ってきたのだ。
道中、彼は多くを学んだ。
この世界の畑や農家を初めて見て、家畜が居る牧場を見学し、鉱石を掘る穴や採掘方法を聞き、車やテーブルや椅子等の加工場も見てきた。
それらは殆どが3エリアと4エリアにあった。
学校の授業では王都から離れるにつれて賃金が下がると習っていたが、実際現地の人に話を聞くと、それも事実であったが三年前から急スピードで元の賃金まで戻ったらしく、生活は潤っているそうだ。
『大崩壊からこっちの生活も崩壊したけど、それも大二期大崩壊で終わった。
大崩壊に始まり大崩壊で終わるなんて、世界ってのは不思議だね?』
牛を育てている男性は、良い笑顔でそう言った。
『如何でしたか カファロベアロの全貌は』
「…絶滅って表現はほんと、オーバーだね。
実際は人に必要なフルーツや穀物は問題なく生産出来ていた。
…でも確かに、木材になるような木とかは無い。
花も無い。…なんでこんな世界にしたの?」
『その質問形態は不適切かと』
「ふーん?」
『それにしても』とオルカは足を止めた。
王都に、大陸の中心に向かえば向かう程、世界が色付いていくのだ。
「ん~~!
…ほんと、ビックリした。
まさかカファロベアロで風を感じれるなんて。」
これはとんでもない衝撃であり、感動だった。
空はボンヤリどころかスッキリと晴れ渡り、まるで本当の世界のように風が吹き、雲が流れていくのだから。
コア曰く、それはオルカが漠然と本当の世界というものを求め続けた結果、王位継承を果たした瞬間、つまりここがオルカの世界となった瞬間、世界の仕組みが書き変えられた故なんだとか。
『万物を操るオルカ王にしか成せなかった形成です』
「…そう。」
コアには素っ気なく返したが、オルカは内心では嬉しかった。
なんせ王位継承を果たしたとは言っても、彼は何もしていないのだから。
だから無意識でも、世界をこんな風に色付かせていたというのが嬉しかったのだ。
ドキドキ…
そして故郷である3-1地区に戻ってから、オルカは緊張していた。
なんせ三年ぶりなのだから。
空や風と同じように、街だって様変わりしていた。
当然ジル達だって変わった筈だ。
(う~~ドキドキする。
こんなに緊張する?ってくらい緊張する。
…どうしよう会った途端に怒られたら。
もう正直にコアが僕を飛ばした事実を話すしかないよね。)
『因みにオルカ王 ワタシの声は名字持ちはおろか 貴方以外の者には聞こえません』
「……あっそ。」
スン…としたが、緊張は消えない。
何度も深呼吸していると、左手に大きな建物が現れオルカはつい足を止めた。
「…なんだろうこの施設。
三年前には無かったよな。」
塀を見てみたが何の施設かの表記が無く、オルカはその施設から丁度出てきた人に声をかけた。
「あの、ここは何ですか?」
「あら貴方、変わった色ね~!」
「あ…はは。」
「白グレーの髪に深紅の瞳なんて、まるで伝説のオルカ王みたいねっ!」
『伝説…?』と顔を固めたオルカ。
実はここまでの道中もやたら見られるなとは思っていたのだが、まさか自分が伝説化していたなんて。
(ハッッッッズ…!!)
「まさか本当にオルカ様だったり!
なーんてねアハハハハッ!」
「アハ!?…は💧」
改めてこの施設が何なのかを訊くと、オバサマは『そうだったわね!』と施設を指差した。
「ここは第三地区の役所よっ?
転入転出、出店登録!、なんでもやってるわ?」
「!」 (役所!!)
「貴方も他の地区から来たんでしょ?
だったらここはちゃんと覚えておくといいわよっ?」
「!! ほ、他の地区に行けるんですか!?」
オルカが驚愕するとオバサマはキョトンと瞬きをし、爆笑した。
「そんなの三年前から自由に戻ったじゃない!」
「!!」
「そんなことも知らないなんてっ!
…不思議なお洒落をしているし、もしかして貴方!、とんでもなく田舎の出身なのっ?」
「あ~えっと、…そんなとこです!」
『ありがとうございました』とペコリと頭を下げ無理矢理会話を打ち切ったオルカ。
逃げるように役所に入ると、とんでもない人の数で、また驚かされた。
(すごい賑わってる。)
だがここが役所であるならば、恐らくは統治者である海堂が居るのでは?と期待が膨らんだ。
鞄にそっと手を添え決意を固めると、オルカは周りを見回した。
(ちゃんと受付とかの表記があって、分かりやすい。
…もしあの後凜さんが海堂さんを連れ帰っていたなら海堂さんは居ない筈だけど。……うん。
それはもうどちらでもいい。
とにかくアポを取ってみよう。)
案内板に従い受付に行くと、若い男性が『本日はどういったご用件で?』と穏やかに訊ねてきた。
オルカは何と言おうか悩み『海堂さんに…』と言いかけたのだが、突然受付の男性がハッとした顔をして立ち上がり、口を閉じた。
「……あな…貴方は、……まさか。」
「…ん?」
オルカも『あれ?』と眉を寄せた。
男性の顔に見覚えがある気がしたのだ。
…焦げ茶色の髪に、顎に二つのホクロ。
二人は暫しじっと見つめ合い、ほぼ同時にお互い指を差し合い大声を出した。
「オルカさん!?」
「君はアングラの!!」
二人は同時に口を押さえた。
周りの山程の視線を背中に感じた。
男性は慌ててオルカに『こちらへ』と目配せし、オルカは静かに従った。
すぐに階段を上がり三階に着くと、男性はグルンと振り返り上から下まで何周もオルカを確認した。
「オ…オルカさん…ですよね!?」
「はいそうです。…貴方は確か、アングラに避難した僕らに地下迷路を案内してくれた…」
「そ!、そうですそうです!!」
『お帰りになられたのですね!』と激励され握手され、オルカは不思議な気持ちにさせられた。
自分を待っていてくれる人が居たんだと、少し実感したのだ。
「ああっとこれは失礼を!!」
「あ、いえそんな。」
「ま!、先ずは海堂さんに!」
「…!」
…ああ。 …駄目だったのか。
オルカはにっこりと笑い、チクリと痛んだ胸に堪えた。
会えるのは嬉しかったが、言葉にならない空しさが押し寄せた。
男性はすぐにオルカを執務室に案内した。
オルカは大きな扉の前に立つと、ゆっくりと深呼吸してノックした。
コンコン!
ツバメは海堂に出そうとしていたお茶を接待テーブルに下ろし、扉に歩んだ。
そして『はい?』とドアを開けると、目を大きく開き停止した。
…カリカリ。
海堂は書類にサインをしながら『ん?』と目を上げた。
ツバメがドアを開けたまま停止しているからだ。
「……ツバメ?」
キイ…ともっとドアが開くと、海堂はガタンと椅子を鳴らし立ち上がってしまった。
「……まさか。…オルカ…?」
オルカは懐かしい海堂の顔に一気に涙を滲ませ、ポロッと溢しながら笑った。
「海堂…さん。」
「…オルカ。…オルカ!!」
「~~っ!!」
海堂は駆け、真っ直ぐにオルカを抱いた。
オルカは『本当に帰ってきたんだ』とこの時やっと実感し、堪らずに泣いた。
「どうして…今まで…何処に!」
「お久しぶりです海堂さん!」
「良かった!!…良かっ…た!!」
「会いたかった!!」
「…!」
「会いたかったです!、海堂さん!」
海堂も堪らず泣いてしまった。
彼の脳裏には三年前、塔の頂から見た空に伸びていった光が甦っていた。
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