第110話 傷の背後に見える影

ガチャン…



 深夜、ヤマトは家に帰宅した。

海堂の姿は無い。恐らくは面倒がって職場で寝ていると推測された。

モエはもうこの時間はいつも眠ってしまっている。


 ヤマトはジャケットを脱ぎタイをその辺に放ると、広い部屋のベッドにボフンと倒れるように寝転がった。



「………」



 腕を頭に乗せボーッと天井を眺めると、ふと窓の外に小さな光を見つけ、それを眺めた。



「……星。」



…あの日からだ。

夜空に、天に光が灯るようになったのは。


風が吹くようになったのは。

…雲が流れていくようになったのは。



「………」



…お前なんだろ?

この世界をこんなに色付かせてくれたのは。



ギシ…



 ヤマトは身を起こし、チェストの前に膝を突いた。

ガラス扉のチェストの中には、三つの箱が入れられていた。



「…もう三つ…か。」



 小さく呟くと、ヤマトは風呂に入った。

大きな温泉かけながしのお風呂はいつ入っても快適で、疲労がどんどん抜けていく気がした。

たっぷり体を温めると脱衣所に戻り髪を乾かし、寝間着に着替えた。


最後にいつも着けているネックレスを首に通した。

オルカの法石の欠片のネックレスを。



「……」



 脱衣所を出る間際チラッと見た、鏡に映る自分の右目下の傷跡。

それを見た途端、ヤマトの顔は異常な程の険しさを帯びた。



「……ハ。 …何が快挙だ。」



 ベッドに潜ればすぐに眠気に襲われた。

だが眠りそうになると、男の顔が浮かび目が覚めた。

何度も何度も男は脳裏に突然現れ、安眠を妨げた。


黒髪に紫の瞳の男の、笑顔が。



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