第108話 不健全な18才
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
「……ん…。」
家の外の賑わいで女性は目を覚ました。
まだ眠いのでもう一眠りするか悩んだが、寝返りを打つと隣で寝ている筈の人の姿がなく、『相変わらず真面目ね?』とあくびをしながら体を起こした。
白い寝室で彼女はその辺に落ちていたシャツを拾い、素肌に羽織った。
そしてドアを開け廊下に出ると、洗面所に立ち歯を磨き顔を洗い、時折鼻唄を歌いながらメイクをした。
「…うん。あいつ好みの美人さん。」
最後に髪を整えると、上はシャツ一枚下は下着だけという装いでまた廊下に戻った。
そして廊下の奥にあるドアを開けると、男性がコーヒーを飲みながら本を読んでいた。
知的で整ったタレ目。組まれた脚はスラッと長く、女性はキュンときて彼の後ろに立ち体に腕を回した。
「おーはーよ~?」
「はいはい。…昼前に起きたじゃん。」
「だってまたシたくなって…?」
「昼間っからお盛んなコトで。」
男性は、ノーブラにシャツ一枚で豊満な胸を背中に押し付けられながらも平然と返し、『いいから座れば?』と自分の向かいの椅子を指差した。
彼女は男性の首筋にキスをすると、彼の前の椅子にストンと座った。
すると今度は男性が立ち上がり、キッチンからサンドイッチを持ってきて女性の前に出した。
「食べるでしょ?」
「わーい♪」
女性の反応に微かに微笑んだ男性は背が高く、白い制服を着ていた。
室内なのでジャケットは脱がれているが、細身で引き締まった体に纏うベスト姿は彼をとてもセクシーに見せた。
女性はサンドイッチを美味しそうに頬張りながら、『次はいつ会える?』と男性に問いかけた。
男性は『さあね?』と笑った。
「俺以外にも男居るんでしょ?
だったらそんなに飢えなくても良くない?」
「えー、あんたが本命だよっ?」
「ハハ!、そりゃ俺の将来性が本命って意味だろ?」
「そりゃそれもあるけどね~?
…あんたが一番気持ちいい。」
女性が本を持つ男性の手に手を伸ばすと、男性はパタンと本を閉じながら手を引いた。
女性はプーっと膨れ、男性はフッと笑った。
「これから仕事。……じゃあね?」
「はいはい頑張ってね真面目君~!
寂しくなったらいつでもおいでね~?」
男性はクスッと笑うと、ジャケットを羽織り制帽をかぶり、家を出ていった。
ガヤガヤ…
家を出ると途端に賑やかだった。
人々が忙しく行き交うここは、王都だ。
あちこちに露店が並び、『安いよ~』『ほら見てって~!』と店員が声を掛けていた。
カチン!
「…ふぅ~。」
男性は煙草に火をつけ、そんな王都を闊歩した。
人々は時折足を止めては彼に尊敬の眼差しを向け、子供は手を振ってきたりもした。
男性は嫌な顔一つせず、子供に笑顔で手を振り返し、王都を出た。
もう王都の門は閉ざされていなかった。
茂が蹴り壊したままそのまま扉は廃棄され、今では出入口そのものが拡張され大きなゲートとなっていた。
カツン… カツン…
ふと男性は足を止め、振り返った。
王都入り口の右側には、石林が。
「………」
だが彼はじっと石林を見つめるだけで、特に何もせず去っていった。
カツン… カツン…
彼がなだらかな坂を下っていくと、王都より余程静かだが美しい街並みが。
彼は煙草を吸いながら、かつてカフェ・アイランドが建っていた場所を通りすぎた。
「…フゥー。今日も3-1地区は平和ですよっと。」
綺麗なレンガ調の床石で出来た道を、笑いはしゃぐ子供達が何人も通りすぎた。
買い物をする人、家業と忙しく向き合う人。
色んな人の姿が見えたが、犯罪者を厳しく取り締まる保安官の姿はなかった。
タタタ!
「ねえ!」
突然見知らぬ子供に声を掛けられ、男性は笑顔でしゃがんだ。
「なあに?」
「あのねっ?、パパとママがねっ?いってたの!」
「なんて?」
「えっとね、『せかいがへいわなのは、真っ白いせいふくさんのおかげなんだよ』って!」
「!」
男性は自分の制服を見て、クスクスと笑った。
「…そっか。」
「うんっ!、だからね、ありがとっ!」
「うん。兄ちゃんも嬉しいよ?、ありがとう?」
女の子はにっこりと照れながら笑うと、親に呼ばれて『バイバイ!』と行ってしまった。
親元に駆ける姿を見守っていると、両親が恥ずかしそうに自分に会釈してきたので、男性は制帽を取り胸に当て、礼をし、また歩きだした。
「…真っ白い制服さんのお陰、…ね?」
「ヤマト!」
背後から聞き慣れた声に名を呼ばれると、彼は少し目を大きくし『どしたん?』と首を傾げた。
「こんな朝から…こんなトコに。
珍しいじゃん。…何してんだモエ。」
「ヤマトこそ昨日何処行ってたの?」
「何処って、……王都だけど?」
正確には『王都の女のとこだけど?』であるが、それは伏せた。
モエは腰に両手を突きムッとした顔をしてみせたが、三年も経ち別人のように大人っぽくなっていた。
あれから三年経ち16才になった彼女は、背が伸びて体つきも少し女性らしくなったが、同世代の中ではやはり背は引い方だった。
だが愛嬌のあるほんわりとした雰囲気は、三年前と変わらなかった。
「また女遊びしたの!?」
「…えー。……ソレ聞いちゃう?」
「っ、」
「まあいいじゃんて。…女の子には分からんて!
こう…健全な18才の………事情は!」
そりゃそうだ。
「何人女居るのよ!」
「えー。……ソレ聞いちゃう?」
「言えない程居るっての!?」
「だーかーら、…ソレ聞いちゃう?」
「~~っ💢!!」
バチーン!! と殴りたかったのに、ヤマトはモエの張り手を綺麗に避けた。
モエは余計に怒り、『大人しく殴られなよ!』とヤマトの背をポカポカした。
ヤマトは笑い、『あーそこそこ。気持ち~!』とモエの怒りを清々しく流した。
「もうっ!ヤマトのバカ💢!もう知らない!!」
「怒るなよモエ~。…てか帰んなら送るよ。」
「ケッコーです💢!!」
「ケッコーでもなんでもいいけど。
時間あるし送るって?」
モエは『こういうトコ💢!!』とうんぐりと拳を握った。
『女たらしでムカツク事ばっか言ってしょうもない奴なのに、優しい💢!!』…と。
「フン!、いーいヤマト!!
不誠実なことばっかしてると、いつか皆に嫌われちゃうんだからねっ💢!!」
「…あーそれ、パパの台詞でしょ。
『女性に不誠実な男はいつか女性に寝首を掻かれればいいんです』…とでも言ってたんでしょ?」
「そうだよっ💢!!」
モエはそのまま、ヤマトには送られずさっさと行ってしまった。
ヤマトは鼻でため息を溢すと煙草に火をつけ、また歩きだした。
「…だってさ、健全な18才なんだもの?」
一人苦笑しながらのんびりとメインストリートを進み続けると、目的の場所が見えてきた。
三年前には更地だった場所に建てられた、新しい役所だ。
白く大きく清潔感のあるこの役所は、二年前に完成してからこの第三地区の統治者に権利を一任され、しっかりと稼働していた。
「さて。説教でも貰いに行きますか。」
ヤマトは携帯灰皿に吸い殻を入れると、颯爽と歩き役所に入っていった。
そのしっかりとした立ち姿、制服、キリッと整った表情は、これからお説教を受ける人間の顔ではなかった。
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