第84話 背負える罪の重さ
「本日は本当にありがとう御座いました。」
「いえこちらこそ。」
そして昼、会は解散となった。
駐車場で最後の挨拶を交わしていると、どでかいリムジンが入ってきてオルカ達は目を大きく開けた。
「迎えが来ました。」
「リムジンとかマジで…アハハハハ!!」
「やーなーぎ💧」
…柳の気持ちならよく分かるだろう。
『もう何処から突っ込みゃいいんだよ!』と爆笑する柳の前でリムジンの扉がガチャンと開き、中から神経質そうな顔をした黒髪の男性が現れた。
背は低めの170前後だが、若くしていいスーツを身に纏い、キリッとしたつり目で引き締まった顔をしていて…、顔は童顔な方なのに実年齢よりも老けて見られるだろうなと柳は思った。
「お初にお目にかかります、花丘と申します。」
「…どうも初めまして。門松です。」
「柳さんにオルカさんですね。
本日は急なお誘いにも関わらず凜との接見にお応え頂き誠にありがとう御座いました。」
彼は三人にピシッとお辞儀をするとスッと上体を起こし、それぞれに名刺を配った。
(…公安署一課 …花丘…!?)
「…え。公安の花丘ってアンタのこと!?」
「柳💢!?」
どうやら彼も公安に勤めているようだ。
夜明に次ぐ有名人の出現に門松と柳はまたもや度肝を抜かれた。
夜明はデーンと花丘の肩に腕を乗せ、『可愛いっしょこいつー!』と頬を指でツンツンした。
花丘は顔をムッとさせたが、振りほどきはしなかった。
「花丘は遥か昔………………っからの凜狂で~!
因みに俺のおじじはこいつの大伯父の上司でなっ?」
「えと、…オオオジって何ですか?」
「オトンのオトンのオトンの兄弟!
なんか花丘って双子遺伝子で~!、こいつのオトンも双子だしそのオトンも双子で~!その更にオトンなんて双子と双子の四人兄弟でさー!
こいつは当主の雨の子孫なんだけどなー?
その雨と片割れの晴の10コ上の双子の兄貴が明と杏ってんだけどー!、今言ってる大伯父は明さんな?
…んで!、こいつの大伯父は公安開設メンバーだったんだぜ?
そこにハマ署で働いてたおじじが移動して~、加藤のおじじと花丘の大伯父と他二名でチーム組んでたんだぜ~!」
なんだか頭がこんがらがるが、とにかく繋がりが深いのだけは分かり、オルカは『わあ!』とまたテンションが上がった。
彼はとにかく、歴史に萌えるのだろう。
門松はというと、加藤が苦笑いしてきて苦笑いで返した。
『なんか、大変そうですね?』と。
「こいつこんな神経質な顔のままの神経質だけどさー!超面白いし可愛い奴だから仲良くしてやってなー!」
「…ハア!、まったく夜明は何処に出しても恥ずかしい。
どうせ今日もそうやってマイワールドで捲し立て続けたのでしょう?
まったく!、御当主ももう少しこいつを制しては如何です!」
「はーいハイハイすみませんねー。」
(((棒読み。)))
「…僕はとても楽しかったです。
本当にありがとう御座いました凜さん。」
オルカに声をかけられた凜は微かに目を大きくすると、ふっと微笑みオルカの前に立った。
二人を包むオーラは独特だった。
分かり合えているからこそ生まれるような…、まるで戦友のような。
今日が初対面の雰囲気には見えなかった。
凜はそっと漆黒の瞳を細め、改めてオルカに手を差し出した。
彼が左手で握手をするのはきっと、金の龍がそこに居るからなんだろうとオルカは思った。
「僕の方こそありがとうオルカ君。
…もっと時間があったなら、もっと君と多くを共有したかった。」
「そんな、…それは僕の台詞です。
僕にとっては本当に、本当に素晴らしい時間でした。
お会いできて本当に嬉しかったです。」
「…ありがとう。」
凜はオルカと握手を交わすと、門松と握手を交わした。
オルカの時とは違って、こちらにはまだしこりのようなものが残っている感じがした。
「……本当に今日はありがとう御座いました。」
「いや、こちらこそ。
……取り戻せるといいな。……二人を。」
「っ、……ええ。」
最後に凜は柳と握手を交わした。
独特な熱を持った柳の瞳に違和感は感じたが、凜は普通にお礼を言った。
「驚かせてしまって申し訳ありませんでしたね?
ですが、ありがとう御座いました。」
「…いいっすよ。
むしろあんだけされなきゃ、こっちは信じられなかったと思うし。」
「…そうですか。…今後も頑張って下さい。」
「…おう。」
……カサ。
「…!」
二人は手を離し、別れた。
だが凜は掌に残された紙に、『何故?』と門松とオルカを忍び見た。
(二人には知られたくない…内容…?)
「そんじゃーお気をつけて。」
柳はヒラヒラと一行に手を振った。
夜明はリムジンに乗る間際、『電話してなー!?』と柳にブンブンと手を振った。
「街で会っても他人のフリしないでなー!?
超傷付くから!!」
「……どうすっかな~(笑)!」
「あ!?、なんだお前可愛い奴だな💖!?」
「本っ当にいい加減にしてくれませんか夜明💢!?
本当にすみません皆様!!」
花丘は夜明を無理矢理車に詰め込むと、スッと行ってしまった。
がらんとした駐車場に残された三人は、『なんか嵐のようだったな?』と苦笑いし合った。
「……さーて。偶然にも手に入れたオフだ。
…どっか行くかオルカ?」
「え?、午後勤じゃないんですか?」
「凜が加藤副署長に『二人非番で!』ってお願いしてくれたんだとさ?
…有り難いんだか、有り難迷惑なんだか。」
「有り難く頂戴すりゃいいっすよ!
…なんかどっと疲れたわ💧
……叫びたい気分。」
「気晴らしに叫ぶとなるとカラオケですか?」
「……ジェットコースターだろ💖!!」
柳はニッと笑い、『ほら門松さん!』とさっさと車に乗った。
門松は『今からテーマパークかい』と新たにどっと疲労を感じつつも、『まあいいか』と車に乗った。
今日は三人とも、色んな意味で疲れたのだ。
気晴らしは何よりも必要な気がした。
「近場でいいっすよね!」
「…んじゃあそこか。
まあカラオケよりかは楽しめるな?」
今回の接触で、『カファロベアロとは何なのか』の答えはほぼ得られた。
あと残る大きな謎は、一つだけ。
『どうすればオルカが帰れるか』…だ。
…カサ。
帰りの車の中で凜は紙を開いた。
柳との握手にてそっと渡された紙を。
『二日後の夜11時に電話する』
それだけ書かれた紙に、凜は訝しげに顔を上げた。
「ねえ加藤、夜明。
僕とオルカ君が席を外す間、柳はどんな様子だった?」
夜明は『凄かったすよ!』と、加藤に『なー?』と相槌を求めた。
加藤は静かに頷き、『柳の印象が引っくり返った』と話した。
「あんなに熱い奴だとは知りませんでした。
普段の柳からは本当に想像もつかない一面を見せつけられました。」
「もうブチギレ!
…門松と違って柳は素直に表現すっからなー。
…でも実は、門松のが素直なんだよな。」
「…ふーん?」
「しかし、考えさせられましたよ柳の言葉には。
『下手に起きた事をこねくりまわして、下手にいじろうとすっからこうなるんだ。
当事者の気持ちなんか何一つ汲みゃしない。
利己的で傲慢な…一方通行の解決法。』」
加藤が鼻でため息をつきながら柳の言葉を話すと、夜明がボーっと宙を見つめながら呟いた。
「『きっといつか結婚して、誰かの父親になる。
茂が願ったのは…当たり前の…
あいつの言葉は唯一無二の人道的発言だよ。』」
「………」
「……なんだろ。…なんだろな、この気持ち。」
「…夜明。」
「かなしい…のかな。
なんかそんなの通り越して……
くやしいも、かなしいも…むなしいも。
…みんな通り越して、………ただ、…いたい。」
「……」
「『コアを壊せ』とも言えない。
『壊さなくていいよ』…とも、言えない。
……勝手に涙が落ちてく。」
ボーっと宙を見つめポツポツと言葉を溢す夜明の瞳から、ポロポロと涙が溢れ落ちた。
加藤は見ていられずうつ向き、凜はぐっと口を縛ると、『分かるよ?』…と心で呟き、夜明に笑顔を向けた。
「彼等の言葉が嘘か誠か。
それを見てもらう為に同席してもらったのに…
考察までさせてしまって、ごめんね?」
「やー、いいっすよー。
俺の一番の得手だしー?
これで何もしなかったらおじじにブン殴られるー。」
「…そうですね?
君は皆が認めるおじじ似ですもんね?」
「そー。……涙脆いとこまで似てるって。」
「…」 「……」
「……いい奴が傷付くの、……しんどい。」
彼等は口数少なく、彼等の土地へと帰っていった。
そして、凜は決断した。
「……迎えに行こう。
起源が、『何か』が起こる前に二人を連れ戻してしまえばいいだけだ。」
もうそれしか手は無い気がした。
今海堂と燕を連れ戻してしまったなら、オルカが帰った世界に、海堂とツバメは居ないだろう。
カファロベアロで生まれ続けた、海堂とツバメの名を引き継いできた者達は存在ごと消えてしまうだろう。
それでも凜は二人を連れ戻すと決めた。
「これが僕が背負える…最大限の罪だ。」
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