第83話 僕には……出来ない。

カラカラ…



 凜はオルカを別室に案内した。

今日使われていないその部屋は暖房がついておらずヒンヤリしたが、今の二人には丁度良い温度だった。


 凜は部屋の奥に行き、暖簾をパサッと手で退かした。そこには扉があり、開けてみると中庭に繋がっていた。

 小さな池はチャポチャポと心地良い音を奏で、一面に白い綺麗な石が敷き詰められた小さな庭園には所々に秋桜が咲いていて、綺麗だった。


 とても静かな空間だ。

まるで海堂と夜通し語り合った、あの塔の頂のような。



「……座ろっか?」


「…はい。」



 二人はそんな中庭に腰を下ろした。

竹で出来たベンチは適度に軋み、楽だった。


 凜はボーッと空を見上げた。

白い塗り壁に囲まれた、四角い空を。



「……まだまだ日が低いねえ?」


「お昼には日が真っ直ぐに入りそうです。」


「綺麗ですよ?

でもね、僕は夜が好き。

ライトが花と水面を照らしてね。…満月なんて見えたら、もう最高の気分になれる。」


「…素敵です。」



 オルカは、落ち着くと感じながら凜の横顔を忍び見た。

何処か疲れ果てて見えるのに、それを態度に出さないようなところまで、やはり海堂と重なった。



「……なんか、…ごめんなさい。」


「…え?」


「君の世界を考察…なんて。

柳さんと門松さんならばまだしも。

今日会ったばかりの僕らにあーだこーだと言われて、……良い気はしないでしょう?」


「!」


「僕もまさか、まさかこんな話になるとは。

…今更ですが、思慮の浅い行為でした。

本当にごめんなさいオルカ君。」


「いっいえいえそんな!」



 下げられた頭にブンブンと手を振ってしまったオルカ。

凜は苦笑いしながら顔を上げると、チャリ…と腕のバングルに触れた。



「僕にとって、…いや、僕ら凜にとって、一派の皆は魂を分けた…大切な存在なんです。」


「!」


「魂から、相手の魂に惚れ込んで。

…そして、『これからも傍にいて?』

『僕らに力を貸して』…と、渡すもの。

それがカタチという…、絆を結ぶ儀式なんです。」


「…それは、貴方達なら誰でも出来るんですか?」


「ええ。」



『君も知ってるかな?』と凜は歴史について話した。

西暦2000年代前期に起きた、大きな戦争の話を。



「人類史上最悪の戦争でした。

あっちこちで無関係な戦争が勃発した。

…つまり『一つの敵に対し皆で戦う』のではなく、『二ヶ国間の戦争が同時多発した』。」

 

「はい。世界は文明のリセット直前にまで追い詰められた。…と。」


「そう。…瓦礫ばかりとなってしまったこの土地を再建したのが、僕らの始祖、『原初の凜』。」


「!!」


「彼女は瓦礫と海に沈んだ人類史を嘆くと同時に、この土地を愛し、再建を夢見た。

あちこちに声をかけ、己の足で直に赴き…

少しづつ助力を得ながら、必死に美しい街作りに、人々の生活の立て直しに尽力した。

…その最初の街が、今僕が住む街。」


「……壮大なロマンですね!?」


「あ、そう?」



 オルカの大好物なお話だ。

『こんな話に食い付くなんて本当にユニークな子だな』と思いつつ、凜は続けた。



「だから僕らはこの土地に根強く生きていて。

正義の旗本に信念を貫こうと奮闘している。」


「…正義?」


「はい。僕らは形は違えど正義を愛している。

…そんな正義狂の集団が我々一派なんですよ。」


「……正義。……難しいテーマです。」


「難しいよ?、それに果てが無い問いです。

だってみんな正義の形は違うから。

…法と言う者も居ますし、道徳を説く者も居る。

結局ね、愛の形がみんな違うって事なんです。」


「!」


「何に重きを置くか、なんですよ。

…その証拠と言ってはなんですが、曾祖父は地域に密着した仕事をされてました。

警察官だったんです。…まあ、ただの警察官ではありませんでしたがね(笑)?

…ですが祖父は、発展途上国へ赴き、現地の人々が当たり前に人として暮らせるよう、衣食住を整えることに尽力した。」


「…凄いですね。」


「それが彼等の正義だったんですよ。」



 原初の凜の思想は、形を変え人を変えても彼等に根強く残っているそうだ。

そんな凜一族を支えてきたのが、カタチという絆を結んだ凜一派だそうだ。



「カタチというのが、一種の超能力的なものなのかはいまいち分かりませんが…、カタチを送るとね?、本当に見えない絆が繋がれるんです。

…無条件の愛情…と言いますか。

本当にね、口でいくら言おうが…、絶対に裏切らないと分かってる。

…凜に生まれるとね、それを自然と理解していて。

カタチの送り方もね、教わっていないのに自然と分かるんです。」


「……何か、口上とかあるんですか?」


「決まった口上は無いけど、…それぞれ『形』を持ってます。」


「……カタチの、形?」


「そう。例えば僕の曾祖父はね?」



 凜は立ち上がり、右手を胸に当て、甲を上にした左手をオルカの前に差し出した。

オルカはその仕草を『騎士の誓いを受け取る王のようだ』と感じた。



「ここで、一種の口上?を口にします。」


「それは、どんな事を?」


「…では曾祖父のカタチの一説を。」


「!」


「『夜明光。

どうか、君自身を大切に。

そしてその努力と直向きな姿勢で…

これからも人々を助けてあげて。

私達を、人を照らす光であれ。

…その魂に祝福を。 …夜明。』」


「……それは、まさか!」


「そう。最初の夜明が曾祖父に渡されたカタチ。

これが、曾祖父のカタチの形。」


「……凄い。素敵です!、王様っぽいです!」


「ハハ!、本当ですよね?

曾祖父は本当に苦労なされた方で。

…我々の中でも郡を抜いて有名なんですよ。」


「…そうなんですか。」


「ええ。…我々の中で、誰よりも失い。

そして、誰よりも深く繋がった人。」


「………」



 凜は少し遠くを見つめると、今度は右手は胸に添えたまま、オルカの頬に左手を添えた。


オルカは少しドキッとさせられてしまった。

なんだか、『君が本当に大切だよ?』…とでも言われた気分になってしまったのだ。



「…これが、祖父の形。」


「…ド、ドキドキしてしまいます。」


「ふふっ!、人が好きな人でしたから。

…かなりの天然で、いつも回りは驚かされていたそうです。

でも短気な一面があって、許せない事が起こると「ハーア??」と平然と喧嘩を売ってしまうような方だったと。」


「ふふっ!」


「…海堂と燕も、このカタチを受けました。」


「!!」


「我々は曾祖父の代で、国のクーデターに巻き込まれ…、仲間の六割を失ったんです。」


「!?」


「曾祖父は妻を目の前で射殺され、まだ五歳だった祖父まで取り上げられた。

…ですが曾祖父は多くの人と繋がり、この国を悪政から解き放つべく逆クーデター、『革命』を起こした。」



 その歴史ならば知っていた。授業で習ったからだ。

 とある女性が、自衛隊を利用し政界の人間を殺害したのを皮切りにクーデターを起こし、国を牛耳り独裁下してしまった。

国は悪政の余波で失業者が続出し、福祉さえも停止し何人もの人々が生活苦から自殺に追い込まれた。

『公安』という組織も実はここで終わりを告げた。


貿易さえほぼ停止した半鎖国状態の日本で、人の価値は平等でなくなった。

『独裁者に尽くす者だけが人とみなされ』、『その他はどんな目に遭っても仕方ない』と。


 だが30年後、悪政は終わりを告げた。

警察関係者を中心に組織されたレジスタンスによって、クーデターが起きたのだ。

そのクーデターは『革命』と名付けられ、レジスタンス達は『革命軍』と名付けられた。


革命は死者を出しながらも見事に成功し、国は、人々は、悪政から解き放たれた。



「まさか、その革命軍…の!?」


「ええ。リーダーを努めたのが曾祖父です。」


「握手して下さいっ!!!」


「…あ、はい。……僕でよろしければ。」



『こんなことある!?』…とテンション爆上げのオルカ。

『こんな若い子いるんだな~』と、少々沁々の凜。



「凄い…凄いですね凜一族!!僕ファンになってしまいそうです!

金色会が発足してしまったのも納得です!!」


「あ~ソコは蒸し返さないでほしいなぁ💧

…祖父はね?、また仲間を増やすべく多くのカタチを渡していった。

その中に海堂と燕があったんです。」


「わあっ!!、それ帰ったら必ず海堂さんとツバメさんに伝えますねっ!!」


「…!」


「祖父さんので、さっきの口上みたいなのないですか!?

是非やって頂きたいんですが。」



『あるよ?』と凜は笑った。

 どうやら凜一族は渡したカタチを記録などしないのだが、受けた側が『初まりの夜明のカタチ💖!』『加藤家一派参入記念!』…だのと言って記念に残すそうだ。

故にこうやって後々の世代でもカタチを渡した時の言葉が分かってしまうらしい。


 凜はクスクス笑うと祖父の真似をした。

右手を自分の胸に添え、オルカの頬に左手を添えた。



(やっぱりこれ、恥ずかしい。)


「では、加藤のを。

こちらは会話しながらのカタチだったようですし、君が知らない方の名も出てくるし…で、よく分からないとは思いますが。」


「そんな会話までもが丸々残っているところからロマンなので何の問題もありません。」


「あ、うん。…そう?」


「むしろ皆さんの記憶力の良さに感服します。」


「ああ、うん。…ありがと? …では。」




『加藤大地。

明を守るために一番に俺を疑った人。』


『…!』


『何より仲間を想い友を想い背負う人。

過去に負けず信念を貫き通す強い人。

…誰よりも思慮深い人。』


『…   な…  』


『もしかしたら…無事には帰れないかもしれない。家族の生活は間違いなく変わってしまう。

それでも俺にはお前が必要だから。

俺を選べ。…加藤。』



 ここまで言うと凜は一度目を閉じ、少しだけ説明してくれた。



「加藤大地は、本当に難儀な人生を送っていて。

性格にもかなり癖があったんです。

トークは今の夜明のような、フランクというか…正直もっとチャライ感じで。」


「へえ!」


「でも本当に優秀な刑事だったと。

…このカタチを渡された時、彼等はとある山に無断で突入する寸前でした。」


「…え?」


「理由はとある山に住んでいた一般人達を、当時の総理が…、革命後初の総理が、『犯罪者の巣窟』と勘違いし、恐れ、自衛隊で攻撃しようとしていたからです。」


「ど、どうしてそんな!」


「先に話したクーデター。

…その後の圧政は本当に人々を苦しめました。

革命にてそれは終わりましたが、『あいつらは元悪政政府だ』とイチャモンをつけたり、役所が嫌がらせをしたり…と、所謂ヘイト社会の発端となってしまったのです。

そのいきすぎた末の…大きな事件の一つが、この山の事件。

加藤大地は仲間を自衛隊に拘束されながらも、拘束されなかった仲間と共に山に向かおうとしていた。

…丁度発展途上国から日本に帰国していた祖父は、その指揮を自分が請け負った。

その瞬間だったそうです。

突然祖父が、加藤大地にカタチを渡したのは。」


「………」


「こうやって頬に手を添えられた加藤は驚き、動揺した。

人肌が嫌いなのに振り払えないことや、祖父に対し抱いてきた感情が本当に走馬灯のように頭を駆け巡ったと。

けれど頬にある祖父の手に、彼はゆっくりと震える手を近付けた。

祖父は微かに微笑んだそうです。

…まるで、『大丈夫だよ』と諭すかのように。」



『…俺、…は、……』


『加藤は本当に純粋な人だと思う。』


『…ハ…?』


『この手を取れたなら、お前の人生は終わる。

……そして、新しく、…生まれ変わる。』


『…!!』



「その時の事を加藤大地はこう残しています。

『喉の奥から渇望が溢れるようだった。

恐れ不安が一瞬で消え去り、…ただ渇望した。

『翼が欲しい』…と。』

…祖父はきっと、彼の一番求めるものを差し出したんです。

カタチとはこうやって相手に要望をしたり、時にただ幸せになってと願ったり。…様々なんです。」


「……なんか、壮絶なドラマを見た気分です。」


「ふふ!、…因みになんですが、曾祖父が夜明にカタチを渡したのは病室で、壮絶なお説教をかました直後だったらしいですよ?」


「え。」



 凜はクスクスと笑いながら少し伸びをした。

不思議な力を語る彼は、オーラから少し人と違うと感じた。



「夜明光は本当にね、無茶をする人で。

普段は本当におちゃらけて、荒い思考を持つ人間だったのですが、人を守ることに関しては恐ろしい程に眷顧で。

すぐに人を庇ったりして、刺されたりするんです。

…カタチを渡された時、彼は腹を刺され入院中で。

しかも嫁までその事件に巻き込まれたのでブチギレで…、犯人を逆に刺そうとしたんですよ。

彼の後輩が名を呼びどうにか踏み止まったが、彼はすぐに意識を失い病院へ。

そして二日後目覚めると、曾祖父からそれに関してチクチク嫌味を言われ、終いには『自分と向き合え!!、でなければいつかその狂気が家族を殺すぞッ!!!』…とガチギレされて。」


(うわぁ…。)


「そして素直に謝った夜明に、曾祖父はカタチを渡したそうです。

…愛のビンタってやつでしょうね?

むしろタコ殴りって位の捲し立ての説教だったらしいですが。」



 凜は苦笑いするとスッと手を引いた。


 オルカは擬似体験をして初めて、カタチという不思議な現象の複雑な背景を実感した。

誰もに痛みがあり、それぞれの人生があり。

そんな人生が交わり、そして絆となっていくのは…とても尊く素晴らしい奇跡だと感じた。



「凜さんのお父さんはどんな形だったんですか?」


「…父?、父は祖父よりもっと過激ですよ?」


「え?」



 凜はオルカの頬を両手で包み、ゆっくりと顔を近付けた。

綺麗な漆黒のつり目がどんどん近寄ってきて、オルカは「ちょ…!?」と思わず声が出た。



…コツン。



 だが凜はキスはせず、オルカの額に自分の額をコツンと当てた。



「…これが父の形。」


「か…っ、過激ですっ!!」


「ふふ。だから言ったでしょう?」



 オルカは恥じらいから顔が真っ赤になっている自覚があったが、ここまで来たらもう止まれない。

最後に目の前の凜の形を聞くと、彼は『うーん』と恥ずかしそうに肩をすぼめた。



「僕の…も~……やるぅ?」


「はい!!」


「…でも僕がコレを行うのは、相手にカタチを渡す時だけだから。」


「!」


「…ごめんね?」



 申し訳なさそうに断られたが、構わなかった。

むしろ頑なにその辺の筋を通すところまで全てひっくるめてカッコよく見えた。



「全然構いませんお気になさらず!

むしろ申し訳御座いませんでした思慮浅くて!!」


「あ、うん。…そこまで言ってないよ💧?」



 凜は苦笑いしながら座り、『きっとね?』とオルカと目を合わせた。



「ギルトもね、…僕の一派と同じように、君を心から愛しているよ?」


「…!」


「ギルトだけじゃない。ジルとイル、茂も。

…君は彼等に特別な、無条件な愛情を感じているのでしょう?」


「…はい。」


「その気持ち、分かるよ。

…だから君は僕が最初に絆の話をした時、『分かります』って言ってくれたんでしょう?」


「っ、…はい。」


「……選べないよ。」


「!!」


「そんな大切な人々を。

…繋がれてきた2500年もの歴史を…想いを。

無に帰していい理由なんか、……無いよ。」


「……凜さん。」



 オルカはこの時やっと、何故凜が自分達のカタチについて話してくれたのかを知った。

きっと凜だけが、オルカの立場を理解できる唯一の人間なのだ。

だからこそ彼はオルカを連れ出したのだ。


 オルカは『まただ』…とぐっと噛み締めた。

『貴方達はそうやっていつも僕に寄り添ってくれるんですね』と。



「…っ、海堂さんも、そうでした。」


「…え?」


「僕に広く高い世界を見せて、僕の孤独に、疑問に寄り添ってくれた。

…あの塔の頂での夜は、僕にとっては一生の宝物なんです。」


「っ、……そっか。」



『海堂は、生きる』。

そして、海堂という名を永遠に繋いでいく。

…僕の祖父から貰ったカタチを、永劫繋いでいく為に。


きっと僕に、『帰れなくてごめんなさい』

『でもきっといつか、海堂は帰ります』…と。

そんな意味も込められているんだろう。



「………」



今、もし、オーストラリアで起こる『何か』を止める事が出来たなら。

…海堂は海堂のまま、燕も燕のまま、帰ってくることが出来るだろう。


けれどそれは同時に、オルカの知る海堂の……

いや、もっと多くの海堂の消滅を意味する。


…オルカ君も、この世に生まれてこない。

ヤマトも、ギルトも、ジルもイルも、茂も。


誰も生まれてくる事が出来ない。

…生まれてくる権利すら奪う行為だ。



「………」



『何をしてでも、どんな手を使っても連れ戻す』と、そう決めたのに。…誓ったのに。

僕は目の前に現れたオルカ君を、『チャンス』だなんて思えなかった。


それを思ってしまったなら…

僕はもうこの先、当主なんて名乗れないだろう。

…いや、それはもう、人の下せる決断ではない。


少なくとも、カファロベアロの住民でもない僕が下せる決断ではない。



「……ねえ、オルカ君。」


「はい。」


「…ごめんね。」


「…え?」



ごめんね海堂。 ごめんね燕。


僕には、………出来ない。



「君の…運命の…先で……」


「……」


「その決断を下さなければならない…時が。」


「……」


「いつか、…来てしまったのなら。

…どうか、どうか自分を責めないで。」


「…っ、」


「君は、一方的に押し付けられた、…被害者。

誰が作ったのかは分からないけど、…カファロベアロを、コアを生み出した人間の、被害者。」


「……でも彼等だって被害者、なんですよね?」


「っ!」


「門松さんが教えてくれたんです。

一見加害者に見えたとしても、そうじゃないこともあるんだと。」


「………」


「…ありがとう御座います。

凜さんの慰めは、確かに受け取りました。

本当に嬉しいです。…ありがとう御座います。」



ああ、こんなにも、嘆かわしい。

まだ18歳のこの子が、こんなにも立派な子が。

…それ故に苦しむ姿を前に、何も言葉が出てこないなんて。



「……慰められてるのは、どっちなのやら。」


「…ふふ!」


「…どうしたの?」



 突然クスクスと笑いだしたオルカに首を傾げると、オルカは『実は…』と可笑しそうに話した。



「凜さんの『ナンセンス』が直で聞けるかなって楽しみにしてたんですが、話が話で聞けなくて残念だなって思ったら、可笑しくて。」


「…!」



 凜は特番のコメントでよく『ナンセンス』と口にする。

オルカはそれが好きで、実は今日聞けるかなと期待していたのだ。


凜にも『ナンセンスが口癖』という自覚があった分、プッと吹き出してしまった。



「この流れでそれを口にするなんて…

そっちの方が余程ナンセンスでは?」


「!! わ…ああああっ!!!」


「ふふ!、すみませんね不格好で。」


「いえ!、最高です!!

凜さんは不敵な顔でナンセンスと言い切るそのスタンスなんですよ!!」


「……」 (これ、褒められてるのかなあ💧?)



 二人はその後少しだけ語り合うと、元居た個室へと戻った。

二人の落ち着いた様子にホッとした夜明だったが、やたらと凜が消沈して見えて、複雑な気持ちになった。


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