第73話 にこやかの影で

「わあ叔父さん久しぶり~!!」


「おーうメイちゃん久しぶりだな~?

なんかすっかり大人の女の子になっちまって!」


「門松さん、それセクハラな上に意味不明です。」


「キャー柳ちゃん久しぶりっ!!」


「おうメイちゃん元気だったー?

奥さんもお久しぶりですね!、五年前のおせち料理、まだ味覚えてますよ(笑)?」


「あらまあ相変わらず上手いわね柳くん!

…アンタも久しぶりね?、元気してた?」


「おう久しぶり姉貴。…元気だよ?」



 挨拶はとても賑やかにフレンドリーに進んだ。


 門松家と本田家は親戚ということもあり仲が良い。

特にメイは子供の頃から門松と柳に懐いていて、今でも変わらぬ笑顔態度で接してくれる。


 こんなにありがたい再会のシーンなのだが、刑事三人の内心は余り穏やかではない。



「お帰りなさい門松さん、柳さん。」


「…おう。」


「ただいまオルカあっ!!」


「うわっと!?、…もう酔ってます(笑)?」


「言われたら飲みたくなんだろがー。」



 オルカもにこやかに二人を迎えた。

 本田はじっと、ただじっと、オルカに絡む柳や自分の目線を気にしている門松を観察していた。



「ね!叔父さん、ちょっと…ちょーーっと!」


「ん?、なになに。」



 そんな門松を角に引っ張ったメイ。

門松は穏やかに『小遣いか?』と笑って見せた。



「違うよ(笑)!」


「…本当に大きくなったなあ。

前に会ったの五年前だもんな…?

……なんだろな。子供の成長ってこんなに嬉しいのに時間の流れを急激に実感するよな。」


「オッサン(笑)!」


「だってオッサンだもーん。」



 メイは門松の腕をパシパシ叩き笑うと、ぐっと声を落とした。



「あんなイケメンが家に居るなら言ってよ!」


「…… …ああオルカの事か!」


「そうだよ!、もうお母さんも私もオルカ君のファンクラブ入りたいんだけど!」


「だっはっはっは!!」



 メイとお母さんはとてもイケメンが好きだ。

テレビを見ていても『ねえこの人カッコよくない!?』…とキャーキャー騒いでいる。


当然オルカなんて大好物だ。



「何処の国の出身なのっ💓?

国を越えた恋愛ってアリ派かな~💓?」


「彼は駄目だよメイちゃん?」


「!」



 娘と嫁がどれ程イケメンに騒ごうが。

娘が彼氏を家に連れてこようが一度も拒否、否定、批判などしたことが無かった父親の突然の割り込みに、メイはキョトンと目を大きくした。


門松は微かに口を縛り、柳と二人で奥さんの相手をするオルカに一瞬目線を送った。


 本田はそんな門松の目線をしっかりと確認しつつ、娘の頭にポンと手を乗せた。



「…文化の違いは大きいからね。

それにメイちゃんは年上好みでしょ?」


「…おっどろいた。

初めてそんな事言ったねお父さん。」


「……ほら門松、何してるの?」


「っ、……本田さん、その話は」


「どの話?」


「……」



 緊張する門松に、本田はスッと手を出した。

何かを貰うような掌に、門松はやんわりと首を傾げた。



「可愛い姪のメイちゃんにお小遣い?」


「……  」 (ってソレかよッ…!!!)


「ちょっと止めてよお父さん!」



 門松は(もうヤダ、ほんと、本田さんて…💧)と既に満タンの疲労を感じつつ、懐に手を入れポチ袋を出した。



「ほらメイちゃん?」


「…え!?、用意してたの(笑)!?」


「当たり前だろ?

少ないけど楽しく使ってあげてな?」


「もう~💦、…でも嬉しいアリガトっ!」


「はいよー?、これからも仲良くしてなー?」



 本田は、オルカと柳にお小遣いを渡した妻を確認すると、フッと口角を上げた。



「……メイちゃん。折角お小遣い貰ったんだから、久しぶりにこっちでお買い物したら?」


「あっいいね!、じゃあ皆で」


「悪いんだけど。」


「……」


「…ママと二人で行ってきて? …幸子!」



 声を掛けられた幸子は振り返り本田の顔を確認するなり、『はいはい』…と鞄を持ち立ち上がった。

メイは『せめてオルカ君と柳ちゃんと一緒に~!』とゴネたが、察しの良い幸子によって上手く言いくるめられ、買い物へと出掛けていった。



「………」


「………」


「さて。…座りなよ?」



 綺麗に主要人物だけが残った部屋で、本田は眉をクイッと上げて門松に促した。

 突然豹変した柳の雰囲気、それに門松の顔に、オルカはやんわりと首を傾げた。



「……本田さん、オルカは」


「『何も知らない』がまかり通ると?」


「…っ、」


「…え?、…どうしたんですか門松さん?」


「あのねオルカ君。実は俺は今日初めて、門松が君を保護し続けていた事を知ったんだよ。」


「……あ、…そう…だったんですね。」


「そう。

…三年前、君のDNA検査を行ったのは俺なのにね?」


「…!」



『DNA検査?』…と眉を寄せたオルカに、門松はガシガシと頭を掻き、今まで伏せていたオルカのDNAの照合結果や、調べるに至った経緯を説明した。



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