第58話 覚悟を決めて下げる頭

カチャン…



 門松の家に帰ってきたが、オルカの口数は少なかった。

あんなに楽しかったショッピングでの戦利品も、今ではなんだか虚しく感じた。


 門松も流石に気を使ってしまっていた。

聞けば聞く程、知れば知る程、発見があればある程に謎しか残らないカファロベアロに、一番振り回されているのはオルカ自身なのだから。



「……おいオルカ!!」


「!」



 結局署には戻らなかった柳。

彼は消沈するオルカに大きく声をかけると、バシンと背を叩いた。



「いつまでもしょぼくれてんな!」


「…しょぼくれて…ますか?」


「どう見てもな!

…あのな。暗い顔してたらな、暗い現実しか待ってねえぞ。」


「!」


「…気持ちは、…分かるよ。

いや、分かりきるのは多分無理だけどさ。

…想像くらいつくよ。

……何処に向かえばいいのか分からない気持ち。

…何処にも帰る場所なんてないような…不安。」


「……」


「…そんくらい分かるよ。

だから言わせてもらう。

今、現状。…お前が帰る術は無い。

カファロベアロは不明だからだ。

…お前が帰る手段は現状無い。」


「………」 「…柳。」


「だったら!、今のお前に出来ることをしてればいいんだよ。」


「!」



 腰に手を突き話す柳は、真剣だった。

門松でさえ、彼がこんなに真面目に真剣に話すのを初めて見た。



「物は考え方だ。

…暗い顔して暗い事考えてたって何も進まない。

だけど楽しんでれば…、現実は必ず応えてくれる。

『カファロベアロってなんなの?

怖い。分からないことばっかだ。どうして?』

…そんな風に凹むくらいならな!?

『よし!、一つ一つ謎を解いてやる!』って前向きに考えてた方がいいに決まってる!」


「!」



…前向きに。……



「帰る手段が無いなら!!

帰る手段を見付ければいいだけだろ!?」


「………」


「お前はどうしたいんだよ!?

このまま凹み続けて根暗に過ごしたいんか!?

~~っ、…勝手に横浜まで連れて来られて。

勝手に服まで選ばれて!?、悔しくないんか!?」


「…!」



…そうだ。……そうだよ。

僕は今までも、いつだって、…自分で決めてこなかった。


周りの意見に、周りの現状に流されてばかりだった。



『お前は自由なんだ。…オルカ。』



「…っ、」



 柳の言葉と茂の言葉が重なって聞こえる気がした。

そうしてやっとオルカは、『自分で決めるとは何なのか』が分かった気がした。



「…そう…ですよね。」


「!」 (お。)


「現実は、…変わらないんだから。」


「……」 「……」


「どうしていきたいか。…は。

…自分にしか、決められないんだ。」



 強い目を上げたオルカに、柳は微かに口角を上げまるで安堵したような顔をした。

だがすぐにニッと意地悪く笑った。



「まっ、俺の見立てた服にケチはつけさせねえけどな(笑)?」


「ふふっ!、…気に入りましたよ?」


「うっわ可愛くねえの!」



 ペシッと頭をはたかれながらオルカは笑い、門松と向き合った。


門松は『なんかデカくなったなあ。』と沁々していた。



「門松さん。」


「ん?」


「…色々と、お世話になります。」


「!」



 しっかりと下げられた頭、そしてその言葉に、門松はにっこりと笑った。



「おう。」


「なるべくご迷惑にならないよう心掛けます。」


「堅。」



『カファロベアロに帰れるまでお世話になります』




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