第49話 役に立たない聴取

「本当にすみません…。」


「…いや、……」



ボーーーー…



『とにかく上がろう』と門松に促されカオス風呂は終了した。


 脱衣所で『ここはホテル』と聞かされたオルカはそれは分かったのだが、『温泉』が分からず首を傾げた。

更に、脱衣所を出ようにも服も髪もびしょ濡れだしで出るに出れず。

柳がオルカの所持品を確認したが、箱を二つとクラスター型の石を持っていたくらいで『ダメだこりゃ』と匙を投げ、門松が乾燥機にオルカの服を入れ乾かす間、柳は温泉の入りかたをオルカに教え体を温めさせた。


『とにかく落ち着こう』と大人二人が冷静になって行動してくれたので、オルカもどうにかパニックに堪えられた。



「…ほら、乾いたぞ?」


「本当にすみませんありがとうございます。」


「…ん。」



 そして今、ドライヤーの使い方も知らないオルカの髪を乾かし終え、ようやく出ていける状態になったのだが……



「…お前の名前、本当に『オルカ』なんだな?」


「はい。オルカ・C・ダイアです。」


「…ここに泊まってる宿泊客じゃ…ない?」


「はい。」



 服を乾かし風呂に入る間に行った聴取にて、オルカが何故ここに居るのかも分からず、更には国籍さえ不明な…、所謂不審者だと判明してしまった。


こうなると刑事二人は困ったものだ。

自殺志願者が自殺に失敗したのでは?…と懸念される分、邪険には出来ないし、何よりも虚言が多すぎる。

自分はカファロベアロという国の王だと言うし…

世界を崩壊から救う為に王位に就いた。…と思うんだけど次の瞬間には真っ暗だけど不思議な光がある場所をさ迷い、気が付けば温泉の中に居たと言うし。

 所謂中二病をこじらせた少年?…とも思ったのだが、二人は刑事という仕事柄、虚言を吐いて誤魔化そうとしたり嘘を吐く人間を見抜く能力に長けていた。

そういった人間は大体地に足が着いておらず、どこかフワフワした雰囲気を纏っているものだ。


だが目の前の少年から感じるのは必死さや焦り、戸惑いばかりで…、そういった嫌な雰囲気は感じられない。

むしろ、真実を話しているようにしか見えない。


だが彼の語る世界は、余りにもアニメや空想としか思えない非現実的なものばかりだ。



(参ったなあ💧)


(なんでこんなクソメンドイ展開になんだよもお💧

本当なら今頃門松さんと二人で酒飲んで楽しんでた筈なのにぃ~💢!?)


(柳が風呂教えてる間にホテルに手帳開示して宿泊客に『オルカ』が居ないか確認したが居ないし。

…見目も突飛だし、ユーチューバーかなんかか?

なんか撮影する為に潜んでいたところに俺らが入ってきてしまった。……とか?)



 オルカはずっとうつ向いていた。

ここが何処かも分からないし、何故こんな場所に来てしまったのかも分からない。

むしろどうやって来たのかさえも分からない。

大人二人の質問に正直に答えても、返ってくるのは訝しげな顔ばかり。



(どうしてこんな事に。…どうやって帰れば。)


「…あのなオルカ君?、ここはホテルに泊まってる人達が決まった時間帯で借りてる温泉なんだ。

…だからな?、そろそろ出なきゃなんなくてな?

正直俺らも…?、そろそろ君の…その、……

作り話に付き合ってられなくなるんだよね。」


「おい…柳。」


「ですが門松さん。…このままじゃ埒があかないすよ。」


「…まあ、…そうなんだが。」



 門松は頭をガシガシと掻き、しゃがんでオルカと目を合わせた。

オルカはたじ…としながらも、しっかりと目を合わせた。



「…家、帰りたくないんか?」


「!」


「ちょ!?門松さん!?」


「黙ってろ柳! …で?、どうなんだ?

正直に答えてみ?」


「………」



 オルカは困りながらも、門松が真剣な顔をして、自分をリラックスさせようと笑顔を作ってくれていると察した。

こんな訳が分からない状況でそんな優しさを向けられてしまったら、どうしても胸にぐっときてしまった。



「……帰りたいです。」


「…そっか。…だったら送ってやるから。」


「でも、どうやって帰ればいいのか、分からないんです。」


「……住所、聞いても?」


「はい。3-1南、エレメント西2-15の二階です。」


「………エレメント…西…?」


「はい。…ここはどの地区ですか?」


「………」



 オルカの言葉に、『本当に埒があかないな』と門松はオルカを自分達の部屋に連れていった。


 柳はホテルの廊下を歩きながら、『ああもうまた始まった💢💧』とイライラと頭を掻いた。

『本当にこの人は要らんことにばっか手を出して』と。




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