第48話 カオス温泉

 目の前で突然爆発が起こり頭から温泉をかぶり、突然現れた少年と目が合い…


 突然息が苦しくなって立ち上がったら、裸の男性二人と目が合い…



「…………」


「…………」


「…………」



 三人はただ、……見つめ合った。



「……いやっちょ!?、…お前誰!?」



 沈黙を破ったのは柳だった。

彼はこの中で唯一驚きを形にするタイプだったのだ。


 柳の驚愕声にハッと我に返った門松は、温泉の嵩がかなり減っていると気付き、つい今さっきまでお湯があった胸元に親指を添えお湯の表面に人差し指を突け、消えたお湯の高さを計ってしまった。



「……約10センチ。」



 それを聞いた柳は「ハアッ!?」と門松の手を見て、「お…お前なあ!?」とオルカを指差し立ち上がった。



「温泉120リットルも吹っ飛ばしてんじゃねえよ!?」


「おお。流石早いな~。」


「放心してる場合すか門松さん💢!?」



 (そんなにこのお湯が飛んだの?)と未だ放心し、言葉も出ないオルカ。

我に返ったつもりでまったく返れていない門松。

この事態に唯一正常な反応を示す柳。


 こんなとんでもないカオス空間の中、門松はゆっくりと上を向いた。

そこには木製の屋根があり、飛んだお湯がボタボタと雨のように滴っていたが、穴が空いたり壊れたりはしていなかった。



(…ということは? …飛び下り…ではない。)



 目を細めよくよく回想してみたが、この温泉は今柳と自分が貸しきっていた。

お湯の中に隠れていた?とも思ったが、濁りの無いタイプの温泉だし、自分達が湯に浸かっている間ずっと水中で息を止めていたとは考えづらいし、もし隠れていたのならこんな派手な登場をする事に納得がいかない。



(…そもそもあんな爆発みてえな。

あんなん、…飛び込みでもしねえ限り無理だろ。)


「おまっ、お前ほんと…なんなの!?

…てかなんで服着てんだよここ温泉だぞ!?

……ってよく見りゃなんだその髪と目の色!?

染色体質にしたって奇抜だろ初めて見たよ!!

え!?なに…お前……日本人じゃない的な!?

だったら服のままドボンも納得だけどさ!?

やっぱソコは郷に入れば郷に従おうよ!?」


「………」 ←まだ声出ないオルカ


「ていうかどうやって爆発させたんだよ!?

…まさかオマエ、テロリストなのッ!?

いや流石に突飛すぎ!?……なあなんか言えよ!?

いい加減にしてくんないどうしてくれんのこの状況!?」


(…だよなあ。…そう…なんだよなあ?)



 柳が股間を隠すことも忘れギャンギャン吠える中、門松はキリッと顔を引き締め少年を観察した。

…未だ半身浴を続けたままこんな行動をするあたり、彼の動揺はまだ収まってなさそうだ。



(…年齢は10代後半?…白グレーの髪。…赤い目。

まあ今時珍しくもないカラーリングだな。

…いや、この配色パターンは初めて見たか。

…顔は~…あどけないが賢そうな顔してんな。

それにかなり整った上品な顔してる。

…ただの馬鹿の顔じゃない。…が、日本人の顔付きなのかと訊かれたら~…悩むな。

中東系でもなけりゃアジア圏でもない…、だからってヨーロピアンかと訊かれりゃそれも違う。

……強いて言うなら、『非常に整った、どっかに白人の血が交ざった日本人の少年顔』…てとこか?

…しかし、なんで喋らない。

やましいことがあるからなのか? ……

いや、この顔はどっちかっつーと放心してる顔?

……ん?、さっきこいつ日本語喋ったような?

だったらやっぱり日本人なんだろうし、柳の言葉が分からないって訳じゃなさそうか??)



 門松は眉を寄せじっと思考し、ギャー!?と頭を掻きむしりだした柳の腕をグイッと引き、温泉に浸けた。



「なあお前、名前は?」


「やっっっっとお目覚めスかあっ!?」


「悪かったよ柳💧

…あー…あのな?、今は俺らが貸し切ってるんだ。

だからな?、ちゃんと順番と時間を守って」


「お目覚めでねえじゃんよもおおっ💢!?」



 柳はまたザバッと立ち上がり、オルカをビシッと指差した。



「お前は誰だ!?、…名前は!!」


「………」


「どうやって現れた!!ってかなんでここに!?

…ってか潜伏してたなら素直にゲロれ!?

そしたらなんだ!?……軽くすっから!!」



 オルカはドクドクと鳴る心臓の音を聴きながら、真っ白な頭で答えた。



「…オルカ…です。」


「…『オルカ』。」


((あれ?、日本人じゃなかった系?)) 


「……出身は?」


「…え?、…えっと、第三地区…?」


「………」 「…何処の、第三地区?」


「…へ?、…えっと、硝国カファロベアロ…?」


「しょ…?」 「……は?」


「あ…の。……き、聞いてもいいですか。」


「お…おう。」


「ここは、……何処ですか?」


「…………」 「…………」


「僕はなんで、…ここに居るんでしょう…か。」


「「……………」」



 『はあ??』…と響いた二人の声。


オルカは気まずそうに顔を上げ、苦笑いするしかなかった。




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