2章 僕だけが見た世界

第46話 あの夜に導かれ

『僕ね、オルカ。

辛い時や孤独な時。…それに、不安だったり、自分を奮い立たせたい時に、父から教わったおまじないを言うんです。


そうするとね、不思議と不安がスーっと消えて。

『きっと大丈夫』『僕ならやれる』…って、冷静になれるんです。』




…あ。…これはあの夜だ。

海堂さんと語り合った…、あの屋上だ。


…楽しかったな。 ……


海堂さん、僕が海堂さんを『友達だと思ってる』って知ったら、何て言うだろう。

…海堂さんから見たら僕なんて子供だし、きっと迷惑に思うかな。…呆れられちゃうのかな。




『『金の龍よ大いなる加護を授けたまえ』

…これがそのおまじない。


…面白いでしょう?

とても現実的な仕事を選び、物質的なやりとりを何よりも得意とする僕がさ、抽象的な…見たこともない何かを神様のように崇めて…頼ってるんです。


それもこれもきっと、僕が、『海堂という存在』が金の龍から魂を授かった。…という物語のような逸話を信じているから。…なんでしょうね?』




…信じます、海堂さん。

だって僕にだって、物質的でない…とても抽象的な疑問や想いがあるから。


…ああそうか。

僕が海堂さんをとても身近に感じて、たった一夜で特別な存在になったのは…

僕らがとても似ていたから。…だったのか。


これが『分かち合う』…ってことなのかな?




『いつか、…いつか…ね?

僕はその金の龍に会ってみたい。』




…何処に居るのかも分からないその龍を、貴方は心の灯台にして。




『いつかきっと会える。…僕はそう信じてる。』




そして会った時に、胸を張れる自分で居られるよう…努力しているんですね…?




『僕の父も、最期にそう言っていた。

『会いたい』『やっと会える』『きっと』。

そううわ言のように呟きながら、逝きました。


…きっとねオルカ。

父の父もきっと、そうやって逝ったんだと思う。


そして僕もきっと、…そうやって逝くんです。』




海堂さん。…会いたいです。

…貴方に会いたいです。


僕はただ貴方がそこに居てくれるだけで、心が穏やかになって、笑顔になれるんです。


…遠慮も、気遣いもいらないんだ。


とても自然な僕で居られるから。





スゥ… ゥゥウウウウウウーー!!!





…あれ? すごい…早い。

なんだこれ。…何処かに吸い込まれてる…!?





 突然引力のようなものを感じ、オルカは身を返した。

自分を吸い込んでいくその先に、何か大きな建物が見える気がした。


思わず『ぶつかる!?』…と目を閉じた途端、オルカは熱い何かに衝突し…



「プハッ!?」



 訳が分からないまま立ち上がり、目を大きく開いた。





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