第33話 崩壊と呪い
「も…!、申し訳御座いません…こんな!」
「……いえ。……大丈夫です。」
「申し訳…っ、ありま」
「いいんですギルトさん。…もう大丈夫です。」
キィィ…
『所詮全ては幻なのに
未完成なワタシの破壊は世界への大罪である』
『呪われなさい蛍石
金剛石を媒体に その幻の生が潰える時まで』
…… …え… …?
グラン!!
「!?」
「ツ…!? オルカ様ッ!!!」
グラグラグラッ!! …パリ…パリン!!
脳裏に声が木霊した途端、突然地面から突き上げるような衝撃を感じた。
更に直後には立っていられない程グラグラと地面が揺れた。
そこら中の建物がおかしな音を立て、窓ガラスがあちこちに散る中、ギルトはオルカを抱き寄せ身を屈めた。
オルカは真っ暗になった世界で、揺れと轟音、そして悲鳴を聞きながら…、理解した。
『これが地震だ』…と。
キィィ…!
そんな中、妙なリンクを感じた。
自分の意思に割り込むような……
今しがた聞こえてきた声と似た雰囲気の、干渉だ。
「ツ…!? 止めろッ!!!」
「!?…オルカ様…まだ揺れが!?」
オルカは思わず法石を握り、干渉を断とうとした。
…嫌な予感しかしなかった。
ギルトは急に自分から離れようとしたオルカの腕を掴み、必死に手繰り寄せた。
まだ地震は収まっておらず、あちこちから窓の破片が飛び散ってくるし、建物が倒壊する危険性もあったからだ。
「お願い…っ、僕から離れて!!!」
「駄目です…オルカ様!?」
「お願いっ…だから…!!」
ドオオオオン!!!
「な!?」
「!?」
キーーーン……
更には何処からか爆発音のような轟音が聞こえ、二人の耳は余りの音量にダメージを貰い、キーンと耳鳴りを起こした。
だが揺れは少し収まり、立って歩ける程にはなった。
…なったのだが。
「!!」
「な…んだあれはッ!?」
気付けば空が暗雲に覆われていた。
…いや、暗雲なんて色ではない。
まるで空が真っ黒な黒煙に飲まれてしまったように、暗く、辺りに焦げ臭さが漂った。
ギルトは本当に只事ではないと察し、立ち上がり周りに居た制服に次々に指示を出した。
「避難勧告を出せ!!
担当地方に散り、避難、救助に尽力せよッ!!」
そしてオルカを避難させようと振り向いたギルトは、ハッとして急いでオルカを気遣った。
オルカがまるで何処かが痛むかのように、歯を食い縛り脂汗を浮かせながら踞っていたのだ。
「オ…オルカ様!?」
「つ…来ないで…!!」
「!」
「お願い……だからッ!!!」
「…………」
ギルトの心に、それは拒絶として響いた。
だがオルカはその逆に、ギルトを守ろうと戦っていた。
見えない何か。自分に強制的に干渉してくる何かから。
「……オルカ様。」
「ハアッ!ハアッ!!」
「………申し訳御座いませんでした。」
「…!」
『貴方の母君を殺した理由を聞いてほしい。
…なんて。…虫が良すぎますよね。』
「!! …違…っ」
「貴方の優しさ。…僕の身に余るものでした。」
『呪われなさい蛍石』
「!!」
「…姉さんに。…イルに。」
「ギルト…さん!!」
「ゲイル兄さんに。…どうかお伝え下さい。」
『呪われろ
時の歯車を破壊した 愚かで半端な救済者よ』
「愛している。…と。」
「ギル…トさん…駄目…だ!!」
「…… !! …ウッ…ぐ!?」
「!」
オルカは確かに感じた。
自分の胸の内から、何か黒い禍々しいものが生み出されんとされているのを。
その対象がギルトであることも。
…そしてこの力に抗うには、自分の力では足りないと。
その証拠のように、ギルトは急に胸を押さえた。
…だが涙を落としながら苦笑し、そっとサーベルに触れた。
「つ…!! …嫌…だッ!!!」
シュ…ン…
きっとこの黒い何かが生まれ出ずとも、ギルトは微笑み引き抜いていくサーベルで自害するだろう。
もしかしたらそれこそが呪いなのかもしれない。
だがそれらはどちらも、オルカの望むものではない。
彼が望むのは、……
…僕はただ、平穏に暮らしたかった。
色とりどりの空を見て、おいしいご飯を食べて…
友達と話して、遊んで、…そして家に帰る。
……それだけでいいのに。
『何故呪いあわねばならないのか』
『何故こんなにも世界は悲しみばかりなのか』
…どうして僕は、冒険なんて望んでいたんだろう。
『何故わざわざ危険を望んだりしたのか』
『何故わざわざ安全圏から飛び出して 』
……ちがう。
『呪われろ』
………違う。
僕は危険が欲しかったんでも、安全圏から出たかったんでもない。
僕はただ、…憧れていただけ。
『自由な世界』に。
…ただ、それだけ。
それは願望だ。…無謀でも、危険を顧みない行動でもない。
当然の探求心だ!!
『呪われろ』
……そう。
…あなたが誰かは知らないけれど、僕はそれを望まない。
…罪は、きっと確かに在る。
けれど人は誰だって必ず間違える。
それに!!、ギルトさんには理由があった!!
それを聞いてもいないのに、…『呪われろ』?
フザケんなよッ!!!
キィ… ィィィ… …ィイイイイイイッ!!!
もう誰にも…っ、絶望してほしくなんかないッ!!
ギルトは微笑み目を閉じた。
最後の最後に、本当に伝えたい事が言えて…、満足そうに首にサーベルを当てた。
……グッ!
「…!」
だが引こうとしたサーベルが何故か動かず、何事かと目を開けた。
てっきり誰かに掴まれたのかと思いきや、サーベルは空中でピタッと停止しているだけだった。
「な…ぜ!?」
「剣を離して。」
「! …まさか、……貴方が…?」
驚愕し目を真ん丸にしたギルトに、オルカは息を荒げながらも目を合わせた。
まだ踞りながらも、胸に手を当て力を込めた。
「『話を聞いてほしい』…って。」
「……ですが、…」
「僕が聞きたいんだッ!!」
「!」
「僕の気持ちだって、何一つ聞いてないだろ!?
それなのにっ、なんで…!!
~~っ、今死んだら!!、貴方が今までされてきた仕打ちと同じ事を僕にすることになるんだぞ!!」
「………」
「『誰かに聞いてほしかった』んでしょう!?」
「!!」
「僕だって、…聞いてほしい事があるんだ!!!」
キイイイイイ…!!
「ぐ…ウッ…!」
「!?…オルカ様!?」
「こんな……ドス黒い物を…っ、勝手…に…!」
「!?」
「勝手に!!、僕を使って人を呪うなッ!!!」
ブチブチ…!!
オルカは胸の中心に爪を立て、黒い何かを石にして取り出した。
体の一部のような筋が石に引っ張られ飛び出し引きちぎれたが…、オルカは血の一滴も垂らさなかった。
愕然とオルカの握り締める黒々とした歪な石を見つめるギルトの前で、オルカはこれでもかと力を込めて石を地面に叩き付けた。
ガンッ!! パリン!
そして足の裏で踏みつけた。
石はガラスよりも軽い音を立てながら砕け、その破片は煙のように空気に溶け、消えた。
「ああスッキリした!!」
「………お…オルカ王。…今の…は」
「ああ気にしないで下さいどっかのトンチキの癇癪のようなものだと思いますので。」
「!?」
ギルトの驚愕を無視して、オルカは空を仰いだ。
謎の干渉が生み出そうとしていた呪い(?)は砕く事が出来た。
その力の源が、自分の強い意思であることもなんとなく察した。
…だが、未だ空は真っ黒に覆われたままだ。
それに地震だって収まってはまた揺れてを繰り返している。
キィィ…
「…!」
その時またリンクが起きた。
今度はいつも通りの澄み渡るような感覚だった。
『…早く。…オルカ。』
「!」 (…この…声。)
『早く、玉座に。』
…優しい女性の声。
酷く聞き覚えのある声で、それだけを伝えるとリンクは切れた。
オルカはクルリとギルトに向き直った。
『もう時間がない』と直感したのだ。
「…僕を玉座へ。」
「!」
「早く!!、早くしないと、もう時間が」
フッ… カランカラン!
「な…!?」
突然ギルトは一人になった。
目の前に居た筈のオルカの姿が、本当に一瞬で跡形もなく消えたのだ。
宙に浮いていたサーベルは、オルカが消えた途端に地面へと落ちた。
「オ…オルカ様ッ!?」
グラグラ!!
「つ、……オルカ様!!!」
ギルトは連発する地震の中、王宮を目指し駆けた。
突然消えてしまったオルカが何処に行ってしまったのかなんて分かりはしなかったが、直前の言葉から、王宮しか思い浮かばなかったのだ。
必死に汗を流し走るその脳裏にあったのは、オルカを案じる心だけだった。
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