第27話 血の不思議
海堂は暫くオルカと歓談すると、『さて?』…と眉を上げ茂を見つめた。
「…で、茂殿?
オルカ王はたった今、王族としての自覚を抱いたばかり。…世間知らずのこの幼き王に、『王家の不思議』を語り聞かせて差し上げては如何です?」
「ちょっと海堂さん!」
「おやオルカ王?、どうぞ『海堂』と呼び捨てになさって下さいませ…?」
「やめて下さいよっ!?」
本当にリラックスしたオルカに、『それもそうか』と茂は苦笑いした。
『重い話ばかりでは気が滅入るよな』と。
ヤマトもオルカだけが知る世界に興味を持ったのか、話をねだった。
「…てか、俺からすりゃ『謎は全て解けた』し。」
「ん?」
「いや、…ほら。……だって…さ?
お前だけ外で遊べなかったり…就活ん時とかさ?
やっぱ俺もお前のこと不思議だったから。」
「…!」 (…そうだったんだ。)
「…こうなったらとことん追求してやんよ♪」
「なんかやめてよその言い回し💢!?」
「てかお前が王様なら…俺を親衛隊にしてくれたら一生安泰じゃん俺っ!?」
「うっわ。」
「うわとか言うなよ王様~♪」
「その『王様』って呼ぶの止めてよ💢!?」
子供二人の明るい顔に、茂も少し気が抜けた。
…だがやはり元親衛隊。
『朗らかに話し聞かせてやらねば』とは思っているのだが、…つい昔ギルトやジルやイルに聞かせたように、口調は固くなってしまった。
「因みになヤマト。お前は親衛隊にはなれんぞ。」
「えええっ!?」
「理の間に入れる者を総じて『親衛隊』と呼ぶ。…故にお前は王のお付きにはなれても親衛隊にはなれん。」
「じゃあなに!?親衛隊ってたった三家の組織なわけっ!? …何が『隊』だよ!」
「………そう言われればそうだな?」
「…??」
「…つまり理の間には、王族を除いては親衛隊以外は入れないと?」
「そうだ。」
「…どうしてなんですか?」
「理の間には、コアから発生する強烈なエネルギーが充ちているとされている。
…俺達名字持ちが王家の次に特別とされているのは、そのエネルギーの中に身を置いても無事で居られるからだ。」
「……普通は無事じゃすまねーの?」
ヤマトの質問に、茂は少し悩んだ。
やっと和んだのに空気を壊していいのかと。
だがやはり、本当に大切なことなので伝えるべきだと判断した。
「もし、名字持ちではない者が理の間に入ってしまったなら……」
「…なら?」 「?」 「……」
「…死んでしまう。」
「ハ!?」 「え!?」 「…!」
「理由は分からん。…だが、コアのエネルギーに耐えきれないのか…、体が砂となり朽ちてしまうんだ。」
「うっ…え!?」 「…… …」 「…ほーう?」
『興味深いですねぇ…?』と目を細め冷静に思考できたのは海堂だけ。
ヤマトとオルカは明らかにドン引きし、顔が青い。
そんな二人にまずい…と焦った茂はソッコーで話を変えた。
「理の間は不思議が多くてな?
…俺は聞いた事は無いんだが、新たな王が即位した際には『継承の鐘』というのが鳴るらしいぞ?」
「……へえ。」 ←まだ立ち直れないヤマト
「…なんですか、それ。」 ←立ち直れてないんだけど頑張るオルカ
「『継承の鐘』。…『鳴る』とはまた曖昧な。
貴方達、親衛隊が鳴らすのでは?」
「いや?、どこからともなく大きな鐘の音が響き、その音は拡張機も使っていないのに世界の隅々まで響くらしい。」
「……すげ!」 ←ちょっと持ち直した
「…なんか恥ずかしい💧」 ←自分事でなかったなら楽しめるのにと凹むオルカ
「…ほう。…しかしそれが聞けたとしたならとてもラッキーな事ですね?
なんせご長寿ですからね王族は。
…王位継承だってざっくり200年単位でしょうし?
200年もあったら我々一般人は何度代替わりしていることやら?」
「他にもあんのマスター?」
「…これは不思議なのかは分からんが、王家は代々女系で…、これまでの王も全員女性だった。」
「…え?」
「オルカはな。ダイア家始まって以来初の男児だ。
…それに、14才で力が開花し髪の色や瞳の色が変化するのに対し、お前は産まれた時からずっと変わらんのも謎だ。」
『いつの間にか僕の謎の話になってる』とゲンナリしてしまったオルカ。
茂曰く、本当にその辺の事はよく分からないらしい。
そんな空気を察したのか、ヤマトはニヤリと口角を上げた。
「…お前、実は女なんじゃね?」
「僕は男だよ知ってるだろバカヤマト💢!?」
「ギャハハッ!!」
「…君は女性でも綺麗だと思いますよ?」
「その慰め凹みます海堂さん!!」
「はははっ♪」
「…あっマスター?
僕の髪はどうして日に当たると」
「すまんそれも分からん。」
「ギャハハハハッ!?」
「…即答はあんまりなのでは茂殿?
ん?、…歴代の王達の髪は光らないので?」
「いや光る。…というか常に淡く輝いていて、『陽光に当たった時だけ』というのが謎なんだ。」
「……また僕の謎に戻った💧」
「…名前変えるかオルカ?」
「ん?…なに急にヤマト。」
「『ナゾカ』にでもする(笑)?」
「殴るよっ!?」
「ヒャハハハハッ!!」
『王族の中でも一際謎の多い子』…か。
海堂は複雑な思いだった。
彼の境遇はまるで、孤独の上塗りだと。
(入れ込みすぎ…かな。)
「マスター他にはっ?」
「ああ。…王族は何故か、コアの色が自分の色でしか見えない。」
「…ん?」 「…どゆこと??」
「俺達にはコアの放つ光が『現王の色』に見える。
例えば、15年前まではエメラルドグリーンだった。これは陛下… …先王がその色だったからだ。
コアはな?即位する女王によって色が変わるんだ。
オルカの母君はエメラルドグリーンだったが、お前が即位すれば お前の…色… に…」
「?」 「?」 「…!!」
この時、やっと茂は気が付いた。
更には海堂も『ん!?』…と目を細めた。
(……そう…そうだ。
まだ鐘は、鳴っていないんだ。)
(だとすれば、今現在『王の席は空白』…?)
(いやあり得ん。…空白ならば世界は均衡を保てないはずだ。)
(…だとしたなら、やはり茂殿の予測した通り…先代女王は…オルカの母親は………)
((首を飛ばされてなお、…生きている…?))
ゾッ…とする思考を遮るように『てかさ?』…とヤマトが首を傾げた。
大人二人はビクッと肩を揺らし、現実に戻ってきた。
「その…名字持ち?親衛隊?…の家系にも謎とかあるんじゃないすか?」
「…どうして?」
「え。だって不思議じゃね?
ジルのアネさん、若すぎんじゃん。」
「…あ。…ああそうか!
王族も見た目が若いままだから…みたいな?」
「そうそう。…どうなんすかその辺?」
『まあマスターは年相応な感じはするんだけど、顔が怖いからそう見えるだけかもだし?』…とヤマトは首を傾げて見せた。
茂は未だに嫌な鼓動を奏でる胸に軽く触れると、軽く息を吐き気持ちを切り替えた。
「まあ、無くはない。」
「おっ!、いいっすねえ♪」
「実に興味深いです。」
「どんなのがあるんですか?」
…三人は興味津々だ。
茂は『オルカになら話しても問題はないんだが』と少々渋っていた。
何故なら、本来ならば親衛隊の秘密は身内にのみ開示するものだからだ。
(…まあいいか。…時代は変わった。)
「…大したものは無いぞ。」
「ドゾドゾ♪」 ウキウキ!
「♪」 ワクワク!
「どうぞお気の済むまで秘密を吐露して下さい♪」
(海堂が一番嫌だな。)
茂は『口外禁止』を三人に約束させると、『んー?』と宙を見つめ考えた。
(…何があったか。
自分事となると当たり前すぎてピンとはこないものだな。)
「親衛隊には兄弟が産まれるが、王族は産まれない。」
「……」 (…ん?)
「…失礼茂殿。それは『王族の不思議』では。」
「ああそうか。……なんだろうな。
自分事だと当たり前すぎて直ぐには出てこんな。」
(マスターっぽい。)
オルカは少し笑ってしまったが、ヤマトと海堂は不満げだ。
『スッと出してよ!』…と。
「…ああ。俺達の寿命は一般人と変わらない。」
「なんだよそれ~💢!?」
「だが例外がある。」
「!」 「ほうほう。」 「例外…ですか?」
「『名字持ちの血を飲むと長寿になる』んだ。」
「とんでもないモン持ってんじゃないすか!」
「素晴らしい突っ込みですヤマト君。」
「…それは例えば、ジルさんのを…とか?」
「ああ。…イルでもギルトでも然りだ。
だが王族ほど寿命が伸びる訳ではないぞ?
…王族の血に関してはよく分からん。
そんな畏れ多いことを考える輩など我々親衛隊には居ない。」
茂が言うには、彼等親衛隊の血には不思議な力があるらしく、口にすれば様々な効果があるのだとか。
「例えば…、俺は強い。」
(急にですね茂殿。) (やっぱりそうなんだ!)
(…それ腕力すか?、それとも顔力すか(笑)?)
「戦闘能力を鍛えた事の無い者に俺の血を飲ませれば、途端に剣を振れるようになるだろう。」
「え!?」「ウッソだあ!?」「ほーう?」
「つまり血を飲むことで相手に自分の性質を分け与える事が可能なんだ。
…あとは、…そうだな。…そのくらいか?」
「意外と少ないっすね。」
「ヤマト💢!?」
ヤマトは少々ガッカリなようだが、茂は『もういいだろう』と話を打ち切った。
海堂は『ふーん?』…と目を細め、オルカに向き合った。
「…まっ?、君が即位した暁には『全てが』開示されるでしょうから。」
「!」
「私は一般人ですしね?
これでも無理して話してくれたと思いますよ?」
含んだ笑みの海堂に対して茂が居心地が悪そうに首を掻いたのを見て…、オルカは『やっぱ凄いな海堂さん』…と惚けた。
(賢くて…物事の核心が見えるんだな。
…凄いなあ。……憧れる!)
(…なんだよ。…別に教えてくれたっていいじゃん。
…なんか距離取られたみてえでムナクソ~。)
(分かってはいたが、本当に鋭い奴だな。
…こんな事にならなければ一生付き合いたくない男だまったく。)
…茂が海堂を苦手としているのが発覚した。
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