第26話 真実に伏せ優しさに上がる顔
『ダイア家』
硝国カファロベアロのコアとされる世界の理と繋がれる唯一の血族であり王族。
その寿命は平均で250~300才前後といわれている。
彼等は産声を上げた瞬間体内から法石を生み出す。
その法石は世界の理と自身を繋ぐ中継の役目を果たし、王族が理にリンクをしやすくしてくれる。
『リンク』とは理と繋がり、世界の真理と邂逅する力とされているが、その内容や感覚はリンクが可能な王族にしか分からない。
『理の間』という世界の理が浮いている特別な空間内では法石無くしてもリンクは可能とされているが、外に出てしまえば法石なくしてリンクは出来ないらしく、故に歴代の王達は誰もが肌身離さず法石を持ち歩いていた。
リンクする能力が目覚めるのは14才だ。
髪と瞳の色が突然変化し、法石が力を持つのだ。
それこそが王位継承の準備が整った証とされ、王族にしか分からないリンクの仕方や、その他にも山程あるとされている能力を教わり、伝承していく。
この能力の詳細はほぼ伏せられており、名字持ちの家系にすら全貌は開示されていないが、数個だけ彼等の家に伝わっている能力があった。
恐らくはいつかの王が教えてくれたのだろうが、その多くは正直にわかには信じがたいものばかりで、都市伝説や噂程度にしか伝承されてこなかった。
だがその一つに『時を越える』というものがあった。
『王家は世界の理を通し時さえ操る』という…
もはや迷信に近いのでは?と疑われるものだったが、王家の不思議な力を目にする機会の多い名字持ちの者達は、その能力を信じていた。
それ程までに、王家には特別で不思議な力があるのだ。
不思議の中には世界の理に関するものもあった。
理の間は広い円形の空間なのだが、中央に数段の段差があり高くなっていて、その中心に巨大な光の塊が浮いている。これこそが世界の理そのものだ。
その光は理の間全体を常に灯し続けているのだが、この色がその時の王によって変化するのだ。
オルカの母も、王位を継承した瞬間に理が発する光がエメラルドグリーンに変化した。
これだけならば、名字持ちの家系の者ならば驚きはしない。彼等ならば当然知っている知識だから、『自分が色が変わる瞬間に立ち会えて幸運だった』と感動するだけだ。
王族は自分の色でしか理の光が見えないという不思議もあったが、これは小さな不思議というか『母の色が見えなくて残念』程度の感傷に近いものだった。
更には、どうやら王族には世界の理が宙に浮かぶ大きな光とは別の物に見えているらしい。
そもそも理の間への立ち入りは名字持ちの家系にのみ許されている。
その理由は公表されてはいないが、それは絶対的な決まり事だった。
それも名字持ちでない者からすれば不思議の一つだ。
そして世界の理、この世界のコアとの繋ぎ役である王族が途絶えてしまえば…
世界は均衡を保てず、滅ぶとされている。
――――――――
政府急襲から一夜明けた朝、ゲートに呼ばれたオルカは自分の出世を聞かされた。
ヤマトと海堂と共に椅子に座るオルカは、静かに話し聞かせる茂を大きくした目でじっと見つめ続けた。
その大きく開かれた深紅の瞳を盗み見ては、『今何を考えているのだろう』とヤマトと海堂は思っていた。
「…故に、法石はお前の手にあってようやく然るべき能力を発揮するんだ。」
「………」
「だからイルはお前に特別な教育を施したんだ。
『石を他者に見せてはならない』『髪と瞳を隠さねばならない』。…このお前にだけ課されたルールは、一言で言ってしまえば、またギルトがお前を殺しにくる可能性を示唆した上での、お前を守るためのルールだったのだ。」
「……」
オルカは終始無言だった。
驚愕という言葉では足りない程の衝撃を受けていたし、何よりも、何処か納得している自分が一番ショックだった。
(だからシスターはあんなに必死に。
…アイランドにすぐに就職出来たのも、…全ては僕を守るための仕込み…。)
ショックは受けたが、…ジルと茂、そしてイルへの信頼が損なわれたかといえば…違った。
むしろ、貴重な人生の時間を自分を守るためにくれていたことに、複雑ながらも感謝していた。
無言で話を聞き、時折とても複雑そうにうつ向くオルカの表情に…、海堂は居た堪れなくなった。
「…茂殿?」
「ん?」
「『王族の数ある不思議』。もう少し聞いても?」
「……俺は、構わんが。」
茂がオルカを窺ったが、目は合わなかった。
…代わりに合ったのはヤマトの目だった。
彼は茂とじっと目を合わせると、オルカに向かい何か言おうと口を開いたが、…閉じてしまった。
海堂は微かに苦笑すると、『実はですね?』…と、昨夜オルカと夜通し語ったとクスクス笑いながら二人に話した。
「彼だけが知る…いや、感じる?
『本当の世界』というのに興味を持ちましてね?」
「…!」
「…なんすかそれ?」「『本当の世界』…?」
「ええ。聞けば彼は、…王族故なのかは存じませんが?、この世界に違和感を感じ生きてきたそうです。」
「…なにそれ。そんなの知らねえ。」
「そりゃ知りませんよ。
…彼はずっとそれを『自分の妄想なのでは?』
『僕だけがどうしてこう感じるんだろう?』…と、その疑問を心に圧し留めてきたのですから。」
これは茂も初耳で、微かに首を傾げた。
オルカは急に自分の胸の内というか…違和感を海堂に話されて少々テンパり、顔を赤くしてしまった。
けれど海堂は、『恥じることなど一つも無い』とでも言うかのように堂々と続けた。
「彼の発する単語、言葉一つから非常に興味深くてですねっ?
昨夜は彼の発した言葉の意味を私が当てる。
…というゲームに熱中致しまして♪」
「こいつだけが知る…こいつだけの言葉~??」
「そうですよヤマト君。…例えば『冒険』。
…この意味を君は御存知で?」
「…『ボウケン』~💧?」
昨夜、塔の頂で心を吐露しオルカは泣いた。
海堂はその涙にそっと寄り添い続けた。
…そしてオルカが落ち着いた頃、海堂は『君程ではないけれど』…とオルカにまた自分の血筋についての不思議を語り聞かせた。
そうして二人は驚く程打ち解けた。
歳こそかなり離れているが、年来の友人のように互いを感じてしまったのだ。
彼もまた世界に疑問を抱える者だったからだろう。
そして海堂は『先程の…』と、オルカが口にした冒険家という言葉の意味を訊いた。
するとオルカは暫し思考し、『当ててみます?』…と笑ったのだ。
途端になんだか楽しくなってしまって、海堂はオルカの口にした謎のワードの意味を当てるゲームに夢中になり、……二人は見事に夜更かしをした。
「『冒険』とはこう書きます。
…さ、君には意味が分かるかな?」
「……冒す…危険… …いや、保険…?」
『また笑われちゃうよ💧』…とヤマトを窺っていたオルカは、眉を寄せ『う~ん?』…と思考するヤマトに驚き目をキョトンと大きくした。
そこに茂まで紙を覗き込んできて…、更にオルカの目は真ん丸に開かれた。
(……笑わない。)
そんな大きな目はふと視線に気付いた。
見ると、海堂が『ほらね?』…とでも言いたげににっこりと優しく笑っていた。
「!」 (…海堂さん。)
「……危険を冒しに行く…おバカのこと(笑)?」
「お。ある種近いですよ?」
「マジで!?」
「…ほーう。…『危険を冒す者』が近いと。……」
オルカには分かった。
海堂が、オルカのショックを受けた心を慰め、認め、守るためにこの場を作ってくれたのが。
それだけでもう、感謝が溢れて涙になりそうだった。
『ああ大丈夫』…と、そう思えた。
(…しっかり…しなきゃ。)
「駄目だ分かんねえ!!」
「…海堂には分かったのか?」
「ええ♪
…少し難しかったですかね。
では『雨が降る』とはどんな事象でしょう♪?」
「『アメガフル』~!?」
「! ……分かった。」
「おや早いですね茂殿。…答えをどうぞ?」
「『アメ』とは恐らく、空から落ちる水だ。
…という事は『フル』とは、水が空から落ちてくる…その…現象の名称なのでは?」
「おお!正解です!
つまりあの『塩辛い水が落ちてくる』現象とは!『雨が降る』という現象なのですよっ♪
…というか茂殿、知りすぎでは?」
「昨日の発熱事件の折にオルカが口走っていたのだ。『原因はアメのビセイブツだ』とな。
…それでピンときた。」
「へ?、…そんなん言ってました?」
「…お前は意識不明だったんだヤマト。」
『そういやそうだった』…とオルカは笑ってしまった。
昨日焦りすぎた故に、ヤマトが回復した今となっては強烈な安堵となったのだ。
やっと笑ったオルカに、ヤマトと茂は逆に驚かされた。
だがそんな彼等の目の前で、オルカは笑顔で海堂と話し始め……
(……なんかチョー仲いいんだけど。)
(…ほう。…意外なところが縁を結んだな。)
ただ、意外だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます