第18話 余計に熱が上がる
…チラ。
帰り道、ジルは隣を行く少女をチラ見した。
身長は13才の割に低く140センチ程。
かなり細身ではあるが肌の色艶は流石若者で、色白の肌は思わずつつきたくなる程つるんときめ細かく、パッチリとした大きな瞳はつぶらだ。
金髪ボブカットでニコニコと朗らかに笑う彼女を見ていると…、『ああカワイイ!』…とギュッと腕に包みたくなる衝動にかられた。
普通の洋服に身を包み普通に歩いているだけで、彼女がアングラに住んでいるなんて誰も思いはしないだろう。
彼女もそれを分かっているので堂々と歩き、保安官に挨拶までする程の余裕だ。
…これぞ海堂の教育の賜物である。
「アンタ、若いのに胆据わってんね~?」
ふと苦笑いしながらかけられた言葉に、彼女はニッコリと笑顔で返した。
「そんなことないよっ?」
「…名前なんだっけ?」
「モエだよっ?」
海堂はモエを伝達係としてジルに付けた。
アングラの弱点は、地下故の伝達の遅さだからだ。
もしオルカに危険が迫るようならすぐに地下に逃げ込めるように。…という算段故だった。
『こんな可愛い子に危ない橋を~💢?』…とジルは少々苛ついてしまうのだが…、海堂の地下帝国で育った子供達はいつも地上の情報を地下に入れる伝達係として働いている。故に余裕の表情だ。
『強くなければ生き残れない』
『働かざる者食うべからず』
『どんな人間にも出来る仕事がある』
…が信条の海堂らしい選択と教育だ。
「…ねえ、お腹すいてる?」
「うん!」
「じゃあ茂に紹介ついでにご飯作ってもらおうよ!
あいつ顔に似合わず料理上手いからさ~っ?」
「ありがとう嬉しいっ!」
(あああああカーワーイーイ~~!!)
…元来子供好きなせいか男児とばかり接しているせいか、ジルにはモエがやたら可愛く見えた。
『娘、最高ッ!!』…と隠れて拳を握る程。
(……そこら中に居るな。
これじゃ気が休まらないったら。)
モエに萌えながらもジルは警戒を怠らなかった。
断水の影響で取られた対策の為に、いつもの十倍は政府の人間が街に溢れている。
…これじゃ、気が休まる筈がない。
無事にカフェに辿り着くと、ジルはふと首を傾げた。
もう開店している筈なのに、していないからだ。
中に入ると更にジルは焦った。
カフェはがらんと静まり返っていて…、誰の姿もないのだ。
「…まさかもう奴等が!?」
急ぎ二階に上がったジルは、ホッと安堵すると共に新しい疑問を抱えた。
茂もオルカもヤマトも二階の寝室に居たのだが、ヤマトが寝間着を着たままベッドに座り、オルカと茂がベッド際で不安そうな顔をしていたのだ。
「…ただいま。…どうしたの?」
「あっお帰りなさーい …ってアネさんなの!?」
「…ジルさん? …ですか💧?」
「……… …ああそうか見た目か!
悪いねちょっと変装…」
「ゴホン!!」 ←茂
「ッと違った!!……オシャレしたの~💖!」
…苦しい言い訳である。
だが可愛いもので、オルカはホーっとジルを見つめ『とっても素敵です!』…と笑った。
『はい紳士!流石は王様!』…とジルは心で絶賛した。…と同時にヤマトをはたく準備を整えた。
『うっわ似合わねえ!』『若作りしすぎっ!』…とヤマトが突っ込みを入れてくるだろうと察した故だった。
「………」
「………」 (…あれ??)
だがヤマトは憎まれ口を叩くどころか、顔を赤くしながら口を尖らせプイッと顔を逸らしてしまった。
『んだよつまんねえな』と思ったジルだったが、ドアの前で心配そうに様子を見ているモエを思い出すなり『ああそうか!』…とピンときた。
(モエに照れちゃったんだな~っ!?
分かる分かる可愛いもんなーっ!)
「あーソウダ紹介するねー?
こちら『モエ』ちゃん!……可愛いっしょーっ?」
「初めましてモエですっ!
…今日から少しだけカフェでお世話になります!」
「……えっと、初めまして。オルカです。」
「…ドモッす?俺ヤマトっす?」
だがモエを紹介されても、ヤマトは普通だった。
ジルは『おかしいなあ?』…と首を傾げたが、そんなジルとチラッと目が合うなり、ヤマトはまたプイッとしてしまった。
(……っんだよこいつ。)
「……フッ!」
「ちょ…マスター💢!?」
「いや、……フフ…すまんすまん。」
「…なーに笑ってんのさアンタ。」
茂にはヤマトの気持ちがバレバレだったようだ。
ヤマトは恥から茂の腕をバシンと叩いたが、岩石でも叩いたような感覚に余計にムスッとした。
だがつい、つい…、ジルを盗み見てしまった。
(あーもう…クソ可愛いんだけどマジで落ち込む💧)
(…どうしたんだろうヤマト。)
(…ジルにもモエにも無反応…か。
一番子供なのはオルカ…か。 …フフフフ。)
(…なんだこいつら急に黙ってよ。)
ヤマトはどうやら今のジルの姿がドストライクなようだ。
オルカも慣れない彼女の見た目に照れてはいるのだが、ストライクから外れているのか、はたまた本当に子供だからか、ヤマト程照れてはいなかった。
「…ところで、…どうしたのさアンタ。」
「ジルさん、実はヤマトが具合悪くて…」
「ええっ!?」
急ぎパシンとおでこに手を当てたせいで、ヤマトは小さくいてっ。と口から出たが、ジルにはそんなの聞こえていなかった。
そんなジルに、オルカは本当に優しいなと思った。
ヤマトに触れた掌はすぐにカアッと熱くなり、ジルは微かに眉を寄せた。
「……酷い熱じゃん。」
「そ…そんなことないすよ俺元気すよっ?」
「ガキが気ぃ使うなっつの!?」
「うっわギャハハハハッ!?」
わざとくすぐり笑わせ気に病ませないようにはしたが、病院に連れていくかを本当に悩まなければならい体温だった。
茂もヤマトの首に触れ、また上がったなと鼻で溜め息を溢した。
「実は、開店準備をしていた時にな?
なんとなくヤマトが変だなと。」
「…変?」
「ああ。…口数が少ないと言うか、…変でな?
その内に顔が赤くなってきてな。…熱だと。」
「マスターに言われてヤマトを寝かせたんですが、どんどん熱が上がってきて。」
「……そっか。」
『昨日の今日だし疲れたかな?』…と眉を寄せたジル。
ヤマトは気丈に振る舞って見えるが、先程よりも無理をして見えた。
「…とにかく寝な?」
「……すんません。」
「いいんだよ!、昨日疲れたもんな?
人間なんだ体調だって悪くなるさっ?」
心配ではあったが、少し様子をみることにした一行は一階に下りた。
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