第3話 硝国 CaFAlOBeAlOC
『
それがこの国の名前であり、世界の名前だ。
硝国は大きな大陸で出来ていた。
その大陸は水に囲まれていて、その水の先は誰も知らない。
白いモヤが常に大陸を取り囲んでおり、そのモヤを越える術など開発されていないからだ。
当然視界も悪く、モヤの先など見えはしない。
よってこの国は『世界そのもの』。
この世界の地図とはたった一枚を差し、『白いモヤに囲まれた横長の大陸』こそが世界地図だった。
大陸の中心には王都が存在し、その王都から放射状に5つの地域に分けられている。
カットしたホールケーキの真ん中に王都という球体を入れたような形だ。
どの地域でも中心に向かえば向かう程…、つまり王都に近くなればなる程にいい役職を与えられ、社会的地位が高くなる。
逆に離れれば離れる程、地位は下がる。
その地位は当然、賃金生活に直結していた。
保安局から上のカーストの役職者にのみ着ることが許される衣服『スーツスタイル』は、この国では成功者の証、上カーストの証だ。
ジャケット、ベスト、スラックスの三点を主に差す。
もしこれを、そのような役職に就いていない者が仕立てようものなら…それだけで逮捕されてしまう程特別な衣服だ。
主に治安や政治といった国に直結する組織がこのスーツに該当する。
仕事によってスーツの見た目は大きく違う。
完全統一されている組織もあれば、特に見た目の規制は無く、個人の趣味であつらえるスーツもある。
だがどれも等しく特別には変わり無い。
その特別に子供達は憧れ、親は子供がその世界に入れるよう熱心に子供を教育する。
それがこの国の社会の形だ。
人々は、スーツスタイルを身に纏う事を許される者達や役職を総じて『制服』と呼び、畏怖と同時に羨望の眼差しを向けていた。
それは、『彼等に間違いはない』『彼等は善良であり、善良な国民を無下にはしない』という…最早盲信に近いレベルだった。
だがあながち間違ってもおらず、制服と呼ばれる者達は相手が善良な国民ならば親身に尽くした。
彼等は彼等で『自分は制服なんだ』という自覚と誇りがあり、国民の為に尽くすという理念を強く持っているのだ。
だがそれは善良な国民限定の話だ。
一度犯罪に手を染めてしまった者を、この国では国民とみなさない。
それがどんな理由で犯した犯罪であれ関係無く、罪は罪という理念の元、全力で糾弾する。
社会だけでなく、それは家庭でも同じ事が言えた。
どれ程愛があったとしても、家族が法を犯してしまえばその者を家に入れる事は出来なくなる。
何故なら、犯罪者を庇う犯罪者一家と周りにみなされ、仕事を失ったり、地域から弾圧を受け、法も犯していないのにホームレスに陥る危険性があるからだ。
故に、子供の居る家庭は特に、身内の誰かが法を犯してしまったら…、その者を見捨てるしかなかった。
『それでも離れる事が出来ず夫婦で転落の道を選び、二人とも野垂れ死んでしまった』
……なんてケースも珍しくはない。
『一度犯罪に手を染めてしまった者はもう二度と真っ当に生きることが出来ない』
…それがこの世界の暗黙の了解であり、火を見るより明らかな事実だった。
だが、このような社会形成が成されたのはたった15年前からである。
それ以前のこの国には失業者という概念は疎か、ホームレスという言葉すら存在しなかった。
それに孤児だって多くはなかった。
精々一つの地区に二つ孤児院があれば事足りてしまう程。
だが今は地区内に5つは孤児院が在り、どこも満杯だ。
以前は快適な国民の移動手段の一つだった地下用路はホームレスで溢れ、治安の悪いブラックロードとなってしまっている。
別名アンダーグラウンドとも呼ばれ、闇取引の為に存在していると言っても過言ではない場所だ。
街中では犯罪者を過激に取り締まる光景が度々目撃され、それは特別な光景ではない。
明らかに世界は15年前から衰退していた。
治安の悪化、悪い意味の新しい言葉、症状、現象の蔓延。そして新しい社会システムの非道さ。
時計を狂わせる磁場狂いも15年前から起きるようになった。
これらの根本的原因、完全に世界を変容させてしまった原因が『大崩壊』と呼ばれる災害だ。
15年前までこの国は王政だった。
王族は、世界のバランスを保つという大役を担っており、何百年何千年と『世界の理』と呼ばれる『コア』という物を守ってきた。
王族の言葉こそが政治基盤であり、国民の道しるべであり、『人は人のために尽くし、そして己の幸福のため生きていく』という王族の理念が浸透し尽くした社会は…、平和そのものだった。
だが突然、災害が世界を襲った。
世界の理であるコアが暴走を起こし、なんと王族が全員亡くなってしまったのだ。
その時太陽は二つに割れ、突然時計は狂いだし、今まで起きた事もなかった地震が世界を襲い、川は逆流を起こし、天からは塩辛い水が降った。
人々は世界の終焉だと恐怖し、パニックに陥り、誰もが死を覚悟した。
だがそんな災害を止めたのが、政府だった。
彼等はどうにかコアの暴走を食い止め、出来る限り以前の状態にコアを戻そうと試み、成功した。
割れた太陽は一つに戻り、川の逆流も止まり、天から降る塩辛い水も止み…
そうやって一つ一つクリアしていく政府に、国民は深い感謝と尊念を抱いた。
だがいざほぼ世界が正常に戻っていっても、社会はそうはいかなかった。
世界には大災害により親を失った子供が溢れ、店や会社を失った失業者も溢れ、遂には路頭に迷う者が出始め…、そして犯罪者が溢れ…
それらを少しづつ改善しつつ落ち着いたのが、今の社会なのである。
これらの情報は教科書に載る程、誰もが知っている歴史だった。
成人とされる年齢もぐっと下げられ、義務教育が満了となる14才が成人とされた。
他にもあった変化を上げだしたらキリが無い程、世界は大災害から変貌を遂げたが…、人々はそんな中でも逞しく生き抜いていた。
王都は、王族を弔う意味でも名前はそのままに、そこに存在し続けている。
今現在そこがどんな用途で使用されているのかは明らかにされていないが、制服は皆王都を拠点に働いていた。
第三話読んで頂きありがとうございました!
この話ではカファロベアロという国の現在の概念を紹介させて頂きました。
少しでも、なんでカファロベアロってこんな国なんだ??…と謎が深まったような感覚に陥ってほしいです(笑)!
カファロベアロに興味がわいた!…かも?
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