第2話 罪は罪
「今日はもう上がっていいぞ?」
「…え?」 「…早くないっすか?」
当然、終業にも正確な時間は無い。
…無いが、今日はやたらと早く切り上げられた。
ヤマトとオルカが首を傾げて目を合わせると、茂はドサッと二つ紙袋をテーブルに置き、食えや?…と言ってくれた。
眉間に皺を寄せ、二人を見下すようにニヤリと笑ってはいるが、これは脅迫ではない。
…純粋な厚意だ。
「お前らアレだろぉ…?、大学行きてえからって、慈善講習には毎回参加してんだろうが。」
「! …だからもう上がっていいんですか?」
「うっわマジでシゲちゃん最高っ!?」
茂はニタニタ(本人的にはニコニコ)と笑い、二人に特大のまかないハンバーガーを持たせてくれた。
二人は『ありがとう!』…とバーガーと鞄を持ち、制服であるエプロンを外し、外に駆け出した。
タッタッタッ!
「……お腹すいたな!?」
「今食べたらもったいなくない?」
「だってマスターのバーガー超ウマイじゃん!」
「…まあね? …!」
「……あ。」
オルカとヤマトはつい、目に飛び込んできた光景に足を止めた。
「オラ立てッ!?」 ゴッ!!
「やめ…っ、…ご…ごめんなさい…!」
「いいから立てっつってんだろッ!!」
スーツを着た男性が、警棒で男性を殴打していたのだ。
道路に倒れ殴られている男性の側には…パンが。
彼は物取りをしたが失敗し、保安官に捕まってしまったのだ。
この国の治安は保安局という組織に属する保安官が取り仕切っている。
あちこちに派出所があって保安官が常駐しており、国民、地域の治安を維持すべく日々奮闘している。
…だが、それは『善良且つ一般人』限定の話だ。
この国では法を犯した者は人間ではなくなる。
それがどんなに些細な罪であれ、『罪は罪』。
窃盗だろうが強盗だろうが殺人だろうが…、法を犯すという行為を行ってしまった者には犯罪者のレッテルが貼られ、それは一生拭えない。
そしてそんなレッテルが一度貼られてしまえば…、働く場を失くし、家賃が払えなくなり家を失い、ホームレスになるしかない。
そしてそんな彼等が食べて生きていくためには、また犯罪に走るしかない。
故に、こんな光景は日常茶飯事だった。
オルカとヤマトは、意識が無くなっても殴打され続ける男性、それに殴打し続ける保安官。
…そして自分達と同じ様に、ただ傍観する大人達を見つめた。
その胸中はとても複雑だった。
この国では弱い者を助ける法は無いに等しい。
それはこの世界が…この国が一度、『大崩壊』を起こしているからだ。
「………いこうぜオルカ。」
「…うん。」
ほんの15年前までは、この国にここまでのホームレスは存在しなかった。
むしろ『ホームレス』という言葉自体が15年前に生まれたのだと、シスターから教えられた。
そしてその元凶こそが『大崩壊』であり、その年こそ、彼らの生まれた年であった。
「……なあオルカ?」
「…なに?」
公園の入り口で足を止め、ヤマトは笑った。
口角だけを上げるこの笑い方は、ヤマトの無理をしている時の笑顔だった。
「俺らは…、『ああならない』ように、……
絶対、なんとしてでも、制服を着ような…?」
ヤマトの言葉にオルカはキュッと口を結び、「うん。」…と答えた。
「頑張って勉強して、大学行って。
そんで制服の仕事に就いて…。
……シスターに。…孤児院の役に立ちたいよ。」
「…お前ってばマジメ!」
二人は慈善団体が毎週2日、公園で行っている慈善講習を受けた。
これも大崩壊で溢れた失業者の為に作られた新しいシステムで、国民の学力向上を目的としていた。
受講は無料。…故にオルカ達のような、もっと勉強したいのだが金銭的に塾に通えないような人間や、職業のランクアップを狙う人間が多く集まり学んでいた。
『貴方達の人生は、貴方達が切り開くのよ。』
真面目に講習を受けていていつも甦るのは…、施設を出る時、シスターが掛けてくれた心からの応援の言葉だった。
そして人が人に殴打されるようなこんな光景は、オルカが最も忌み嫌う光景であり、目覚めたくなくなる理由だった。
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