第2話 Aさんの人柄
Aさんと奥さん(Bさん)は、Aさんが大学を卒業して2年後に結婚した。
Bさんは20で卒業して4年も働いたから、そろそろ結婚したかったんだと思う。
Aさんが気の利かない人だと知ってはいたけど、エリートサラリーマンの彼氏を逃がさないようにするのに必死で、本性を見抜けなかった。昔は今より結婚が早くて年下と結婚する人は少なかった。だから、Aさんと結婚できなかったら、同じレベルの男性を見つけるのは困難だと思ったのだ。
もともと、Aさんという人は奥さんの誕生日を祝ってくれない人だった。
「今日、私の誕生日」
と、Bさんがすねると、「あ、そういうえばそうだった。何か買いに行こうか」と、毎年言っていた。クリスマスも奥さんが言わないと何もしない。
具合が悪くても「大丈夫?」とは言うけど、それでもラブホテルに行こうとする時もあった。
それに、レストランを予約していて、Bさんが風邪を引いた時なんか、当日キャンセルができないと、「お金がもったいないから行こうよ」と言うような人だった。
「じゃあ、一人で行って来て」
Bさんが言うと、Aさんは女の子の友達を連れて食べに行った。
「どうして、女の子と行ったの?」Bさんが怒ると、「男同士だと変だし、男にはおごりたくない」と答えた。
本心では、Aさんは浮気をしたかったけど、相手が見つからなかった。
ぱっと見はイケメンだが、話すと変だったからだ。
みなさんは、Aさんは奥さんのことが好きじゃなかったんじゃないか、と思うかもしれない。
でも、AさんはAさんなりに奥さんを大切にしていたつもりだった。本当はまだ結婚したくなかったけど、奥さんがせかすので籍を入れたんだ。他の人と付き合ったことがなかったから、Bさん以外と結婚できる自信がなかったんだ。
Aさんは大学時代はもてたけど、周囲の女の子たちが誰かと付き合って、男がどういうものかわかるようになると、「Aさんは無理」と言われるようになっていた。
Bさんは、多少Aさんが変でも我慢する覚悟ができていた。
この頃の女の花道はこんな感じだった。大企業への就職、エリートとの結婚、豪華な結婚式、瀟洒なマンション、子供は2人。こういう典型的なレールに乗ってないと友達に合わせる顔がなかったのだ。
そして、出産後すぐに幼稚園受験の準備が始まる。みんなが受験するわけじゃないけど、Bさんは私立に行かせたがった。Aさんは何もしないから、Bさんは一人で準備した。実家からも援助があったから、経済的な問題はなかった。取り敢えず、子供2人を小学校から私立に入れた。有名私立には落ちてしまったが、お受験したのに公立に行くと恥ずかしいからだ。中学受験でそこを出て、もっといい所に行かせるつもりだった。それに、習い事を複数掛け持ちし、塾は小1から。中学受験はもっと大変だった。小学校4年から大手進学塾に行って、情報収集し、親が勉強を見なくてはいけないからだ。
2人目の中学受験が終わってようやく一息ついた頃、奥さんに癌が見つかった。
子宮頸がんだった。
受験で忙しくて、何年も検診を受けていなかったからだ。
Aさんはまったくショックを受けていないようだった。
「あ、そうなんだ。入院するの?」
「うん。〇〇大学病院に入院するから」
「へえ・・・じゃあ、子供たちどうする?」
「私の実家に預ける。・・・私のこと全然心配してくれないのね」
奥さんは、この結婚はやっぱり間違いだったんだと思った。
「そんなことないよ」
Aさんは一人暮らしを満喫できると内心喜んでいた。
Aさんはお見舞いには全然行かなかった。
平日は無理だとしても、土日は行くだろうが、義理の両親が世話をしてくれているから行かなくていいと思ったんだ。それに、シリアスな場面は苦手だった。神妙にしていないといけない場所では、笑いそうになってしまう癖があった。
奥さんが抗がん剤で髪が抜けてしまって、帽子をかぶっているのを見た時は「顔色悪いね。・・・なんか一緒に歩くの恥ずかしい」と言ってしまった。
奥さんは何でこんな人と結婚したんだろうと思った。奥さんは高校時代にちょっとつき合った人はいたけど、若すぎてまだ見る目がなかったんだ。
そして、実母にAさんからこんなことを言われたと愚痴った。
当然、お母さんは激怒。
「変な人だったけど、子供がかわいいからこれで良かったと思うことにする」
Bさんは自分に言い聞かせた。
でも、もし、エリートじゃなくても、好きな人と恋愛結婚していたら、どんな人生だったのかな・・・。Aさんは個室に入っていたけど、見舞いに来てくれる旦那、仲のよさそうな他所の夫婦が羨ましかった。
Aさんは奥さんが末期でそろそろ危ないと聞いていたから、奥さんの洋服なんかもすぐ捨てられるように段ボールに詰めていた。子供は今後も奥さんの実家に面倒を見てもらって、再婚しようと思っていたんだ。
次は四大卒でもっと知的な人がいい。Bさんはちょっと教養がなくて、一緒にいるのが恥ずかしかった・・・。
Aさんは、マッチングアプリで女性を物色し始めた。
でも、独身じゃないと登録できないから、取り敢えず色んなマッチングアプリを比較して、登録するところを探していた。
それに、これからはもっと積極的になって、女性を食事に誘ってみようと思った。
俺にも、Aさんから「合コンない?」と、声がかかった。俺は20代の頃、合コンがあると、彼を誘っていた。大企業に勤めていて顔がよかったからだ。Aさんは結婚してからも来ていた。
でも、Aさんは喋るとダメなんだ。
「でも、奥さん入院してるんだよね?」
俺は奥さんが気の毒になって言った。
「でも、もうすぐ〇ぬから」
「奥さん可哀そうじゃない?」
「でも、ずっと病気で、もう何年もやってないから・・・」
「じゃあ、風俗行けば?」
「風俗は苦手で・・・」
「合コン行っても楽しめないんじゃない?そんな状況だと」
俺は良心が咎めたものの、Aさんが何回も連絡してくるから女を紹介することにした。知り合いで「誰でもいいから早く結婚したい」と言ってる女がいたから。奥さんに恨まれるかもしれないけど、マッチングアプリをやってるよりましだろうと思った。
俺はその女に事前にこう言った。
「Aさんの奥さんが末期がんで、精神的に参ってるから慰めてやってほしいんだけど・・・奥さんが亡くなったらすぐ再婚したいみたいだから・・・結婚できると思うよ。でも、頼むから奥さんには絶対ばれないようにしてほしい」
「え、その人、ひどくない?」
「まあ、そうなんだけど。もう4年くらい闘病してるんだって・・・。やっぱり、息抜きは必要だよ。ちょっと変わってるけど、イケメンだし、〇〇〇〇に勤めてるし」
結局2人は一回食事に行っただけだった。
Aさんが変だったからだ。
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