3部 10話 合体
妖怪達の様子の変貌に拓狼は少し戸惑う。
「おい、何をする気だ」
拓狼の質問に妖怪達は不気味な笑みを見せた。
「何、見てれば分かるさ」
「俺たちだって、こんな事はしたくなかった。せっかく苦労して見つけた綺麗な人間の屍が無駄になるからな」
一体何を言っているか分からなかった。
だけど次の瞬間、恐ろしい光景を目撃することとなる。
妖怪達は己の体を重ね合わせる。
そして一言、声を合わせて口にした。
「融合」
目の前の妖怪が、合体したのだ。
「な、何だこれは」
見た目は合成して、余計におぞましくなり。妖気が桁違いに向上している。
「これが俺たちの奥の手、融合」
「2人の時より妖気が、倍以上に上がる代わりに人間の姿になることが出来ないため、昼間は太陽から隠れないといけなくなる」
2体の妖怪にとってそれは避けたい選択であったがそんな悠長な事を言ってられない状況まで追い詰められていた。
妖怪達の融合は2体までしか出来ない。
3体目以上になると、己の肉体が崩壊していくからだ。
もちろん融合した後に戻ることが出来るが、1度融合することによって昼間の行動しか出来なくなるというデメリットがある。
ちなみにそれは何故かと言うと、人間の肉体が融合した時に消滅するからだ。
何故人間になれたのに、融合すると人間になれなくなるのか。その理由は後ほど説明しよう。
「一体一体なら何とかなったけど、これは流石にひとりじゃ無理だ」
融合することによってワンランク上の妖怪、下級なら中級、中級同士なら上級妖怪の力を持つ事になる。
大きさも倍になり、見てるだけで押しつぶされそうになる圧力を感じる。
これは間違いなく、以前戦った鬼童丸以上の強さだ。
これは最初から切り札を使うしかない。
そう思った拓狼は霊符に、霊気を込めるだけ込めた。
「天の災よ強固な力にして災いの怒りを沈める力になりたまへ。電磁砲破」
電気の光線が化け物目掛けて飛んでいく。
「ぬるいわ」
それをがしゃどくろの腕の部分、右骨1本だけで食い止めたのだ。
「マジかよ」
退治は出来なくともダメージは与えられると思っていた拓狼。
だけどそれを、右腕1本で簡単に止められてしまったのだ。
体内にある霊気を半分使って放った拓狼の最大の技は何も効果を得られなかった。
「融合してなかったら間違いなく死んでいたな」
「危ねぇ、お前の言う通り。融合していてよかったわ」
拓狼の霊力はまだあと半分残っているが、正直いって勝てる見込みはなかった。
以前妖怪達と戦う前に使った雨豪雷という術は複数の妖怪をしびれさせるだけで退治することが出来ない技だ。
あの術は複数の妖怪の動きを止めた後に雷光剱のような刃のある術で体を切り付けるのだが、その手も当然使えないだろう。
なぜなら、電磁砲破を受けて痺れ1つ出ていないのだから。
それなら例え、痺れさせる術を使っても効かないか、すぐに取れるかのどっちかになるだろう。
今の拓狼の霊術で、目の前の妖怪達に与えられる有効打が思いつかないのだ。
「でも、こいつより、さっきの霊媒師の女の方が、術の力が強く感じる」
「お前もか、確かにさっきの女の方が、霊媒師として優れた能力を持っているな」
妖怪の口から漏れた本音。
「俺よりも春香の方が強いだと」
それを聞いた時、拓狼はショックを受けた。
当然だろう。いつも、霊術の訓練をしているのに4つ離れた妹の方が、強いと言われたのだ。
兄なのに、妹に負けている。そんなの聞いたら誰だって心にダメージを受けるだろう。
確かに、拓狼が春香の年の時と比べて間違いなく優れていたのを見ていた。
だから自分よりも優秀だとは感じていたが、まさか現時点で抜かされた。と思っていなかった。
「それじゃあ春香が、母さんから電磁砲破を教えてもらっていたら勝てたのか」
拓狼が使える最大の術は電磁砲破である。
この術は小さい子供のうちは、身体に負担がかかるため、14歳を超えなければ使ってはならない術である。
だからこの術は12歳の春香には、まだ教えられない技だ。
だけどそれ以外なら拓狼の使える術の殆どが春香には使える。
正直、中学2年生になるまで雷矢や雷光剱、雨豪雷を使えなかった拓狼にとって、春香は凄いと思っていた。
「さっきの術、電気の光線みたいな技、あれをこの男じゃなくて、さっきの女が打っていたら例えこの姿でも片手で防ぐのは無理だったな」
拓狼の電磁砲破は効かなかったが、春夏が使えていたら倒せていたのか。
そう思うと、拓郎の精神が少しだけ、萎えてしまう。
だけど、そんな事でショックを受けている暇はない。
がしゃどくろの腕が、拓狼に向かって、飛んできた。
即座にジャンプして後方に避けたものの、叩きつけた時の土砂と風圧が襲いかかってくる。
それまで避けることが出来ないため、土砂を体に受けて、背中は樹木に衝突した。
「グハァ、く、クソ」
大ダメージを受ける拓狼。
体を少しでも動かそうとすれば痛みが襲う。
狼男の時は背中を打ち付けても体を動かせないほど激痛がすることは無かった。
人間の体は拓狼が思った以上に脆いのだ。
「ここまで来るのに妖気を使うんじゃなかった」
妖力を使い切った拓狼はもう狼男になることは出来ない。
いや、狼男になっても現状の打破は出来ない。
何故なら今宵は満月では無いからだ。
狼男は5段階級に別れた妖怪戦力の中で、最上級を超えた1番高い位の災害級妖怪に分類されるのだが、それは満月の夜のみ。
新月の日は能力が2段階下がり、上級妖怪になってしまうのだ。
それに拓狼は半妖、半分は人間の血が入っているため、純血の狼男より弱い。
しかも狼男の力を充分に使いこなす事が出来ないため、今の拓狼は下級上位ほどの力。
目の前の中級上位の力を持つ妖怪を相手に勝てるわけが無い。
そして拓狼は霊媒師として、妖怪退治の経験もしてない。
下級を相手したこともないのに中級と戦っても勝てるわけが無い。
そんなのRPGで初期ステータスのままレベル数十以上の敵を相手にするものだ。
そんなのと戦って、相手になるわけがない。
明らかな経験不足なのだから。
「これなら簡単に倒せそうだな」
再び拳をあげて攻撃を繰り出してくる。
拓狼避けようとするが、体が痛くて動けない。
このまま直撃すれば間違いなく死ぬだろう。
万事休す、そう思った時、拓狼の目の前で拳の動きが止まった。
「な、何だこれは」
いや、止められたのだ。
それは拓狼と妖怪達の間に分厚い氷の壁が立てられていたのだ。
「この氷、まさか」
疑問に思った妖怪達だが、拓狼はこの氷が何なのか検討が着いた。
それは間違いなく雪女の力。
「拓狼君。大丈夫」
声を上げて駆けつけてきたのは同じ半妖の雪女である雪子だった。
「な、なんでここにいるんだ」
雪子がここ来た事に、拓狼は驚いていた。
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