3部 4話 人ざらい妖怪
雪子と拓狼、2人並んで家に帰る。
拓狼はバイトがあったのだが、病み上がりということで休みを貰うことが出来た。
ついでに母のいいつけで、シフトを土日だけにしてもらうようにお願いした。
平日は、帰宅して3、4時間目睡眠を取り夜に霊媒師の仕事をする事になったのだ。
「ねぇ、なんで私を庇ったの」
いくら幼なじみとはいえ、霊媒師である真凜にではなく妖怪の雪子の方を持った拓狼。
同じ霊媒師なら立場が危うくなるのは、雪子でも想像が着く。
助けてくれたのは嬉しいが、再び拓狼に身の危険が襲ってくる事になるのが雪子は嫌だった。
「あの時、雪子を見捨てて真凜の方に着くなら、最初に出会った時から命懸けで妖怪からお前を守ろうなんてしない」
雪子の事情を知っているからこそ、拓狼は真凜ではなく雪子に着いたのだ。
「それに、あいつはお前の事を雪女という理由で誘拐事件の犯人だと決めつけて退治しようとしていた。それが許せない」
別の雪女と、知っているからこそ冤罪で退治しようとしていた真凜に強く当たったのだ。
だから拓狼が真凜を嫌いで辛辣な言葉をかけた訳では無い。
ただ、真凜としては、拓狼の言葉と表情に内心ショックだったのは間違いない。
例え冤罪だとしても、妖怪は人間に害を及ぼすのだから、真凜の判断は正しい。
でも、半妖と分かったからこそ、最初拓狼達に害をなすつもりがなければ、まだ見逃していただろう。
だけど忠告して、それを聞かず拓狼達の近くに居座ろうとした雪子に腹を立てたのだ。
それがまさか拓狼も霊媒師であり、しかも妖怪を庇った。
真凜にとって不可解で、理解できないのもそれはそれで当然の事だ。
「ただいま」
家に帰ると、母親である花子が出迎えた。
「お帰り、晩御飯はもう作ってあるから、それを食べて寝なさい」
「春香はどうしたの」
家に帰るといつもはいるはずの妹の春香。
だけど今の玄関に、妹の靴がない。
友達の家に遊びに行ったと思うかもしれないが今の時刻は7時。
この日は7限まであり、学校の終わる時間は17時30分である。
春香はまだ小学生のため門限があり、17時に設定している。
習い事はしてないし、門限を破ったことの無い春香が家にいないなんて珍しいことだ。
「まだ帰ってきてない。スマホに電話したんだけど出ないのよあの子」
今の時代、親が心配して子供に携帯を持たせるのが普通になってきた。
高校どころか小学校や中学校にも携帯を持ってくる子供が増え、朝礼の時、授業の妨げにならないように預かる学校が増えている。
春香の学校も携帯を持ち込める学校に、最近なったばかりのところで花子は安全のため持たせているのだ。
ちなみに拓狼の時代は携帯の持ち込みが禁止だったため、春香が少し羨ましくもある。
「あいつがこの時間まで何も連絡なしに帰ってこないなんて珍しいな。スマホの位置情報は?」
「分からないのよ。あの子位置情報切っているようで、しかも今日は学校に登校してないって連絡あったし」
「ちょっと探してくるわ」
拓狼は心配になって家を飛び出した。
「もし帰ってきたら電話してくれ」
スマホと財布だけを持ち、制服のまま街中を走る拓狼。
春香が何処に行ってるか、なんて全然想像がつかない。
もう、片っ端から春香が行きそうな所を探している様子だ。
ショッピングモールや、ゲームセンター、アイス屋とかいろいろ走り回る拓狼。
「マジであいつどこに言ったんだよ」
街中を走り回り、1時間経過しても何もてがかりがなかった。
1度家に帰って、母親と一緒に捜索届けでも出そうかと思った拓狼。
その時だ。怪しげな会話が聞こえてきた。
「今日で少女が30人を超えたな」
「アイドル勧誘がまさかここまで上手くいくとは思わなかったな。しばらくは食事に困ることは無さそうだ」
「あいつの目論見通り、アイドルとか言えば簡単にヒョイヒョイ少女が集まる。本当にこれ以上楽な方法はない」
「それ、どういうことだてめぇら」
怪しげな男2人組は妖気を放っていた。
「うわ、なんだお前」
「それよりも答えろ。今の会話、どういう意味で話していたんだ」
拓狼の様子は怒りを必死に沈めている雰囲気だった。
「おい、話を聞かれたぞ、どうする?」
「馬鹿かお前、たかが人間1人に何を脅えているんだ。こんなやつ即殺せるだろ」
そう言って男たちは人の形を変えて、化け物になっていく。
その容姿はRPGのゴブリンとオークみたいな姿だ。
「天よ、我の前の邪悪なる化身に怒りの雷鳴を降らせよ。投雷、連撃」
突っかかってきた妖怪たちに拓狼の霊術である投雷が見事に直撃した。
「くそ、こいつ霊媒師か」
「体が痺れて動けない」
動きを止めた妖怪たちに距離を詰める拓狼。
「今の話、お前たちが少女誘拐事件の犯人だな。答えろ。誘拐した女の子たちは何処にいる」
そして怒りを顕にするように近くにある樹木を殴りつけた。
「ここから1番近い山の頂上に雪女と、誘拐した少女たちがいる」
「おい、教えるなよ」
「大丈夫さ、あそこは特別な妖結界が張ってある妖怪の力以外で、あの結界に入ることは出来ない。例え霊媒師であったとしてもな」
「確かにそうだ。人間が結界に入るには俺たちのような妖怪と一緒じゃないと入ることが出来ないんだったな」
強気でいた人ざらい妖怪たち。
結界に入るには妖気がないといけないからだ。
わかりやすく例えると、結界は玄関で妖気は鍵、ということだ。
だから妖気がない人間は結界の中入ることが出来ない。
しかも人間がその結界内に入ってしまうと方向感覚を失い、何時間歩いても中心の場所に戻ってしまうという厄介な妖術も効いている。
つまり、その場に行ったとしても森の中を永遠にさまよい続けることになってしまうのだ。
「残念だったな。その結界に入るには俺たちを連れていくしかない。まあ、連れて行けたらの話だけど」
「どうする。俺たちを殺せば人間であるお前は、結界に入れないぞ、例えお前が俺たちを拘束して連れていこうとすれば俺たちはお前の首を取りに行く。まあ、それが出来なければ自ら屍になるだけのことだ」
「つまりお前は結界の内にいる少女を助けられないということだ。残念だったな」
「いや、親切に色々と教えてくれてありがとよ」
拓狼は術を再び唱えた。
「雷よ、我の体に雇え。力を与えよ。我はその力を欲する、天地を切り裂く刃を我に与えたまへ、雷光剱」
雷の剣を出し、妖怪の首を切り落とす拓狼。
「え、そ。そんな・・」
仲間の首を切り落とされたオークの姿の妖怪は動揺していた。
拓狼は、屍になったゴブリン型の妖怪から出た妖石玉を拾って、今度はもう一体の妖怪の方に足を向ける。
連れていくなら1人でいい。という様子ではなかった。
「おい、俺たちを殺せば結界の中に入ることが出来ないんだぞ」
「結界の中にはいるのにお前たちの力はいらねぇよ。期待外れで残念だったな」
拓狼はもう一体の妖怪の首も雷光剱で切り落とすのだった。
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