3部 3話 雪子対真凜

「火矢雨(かやう)」

御札が光を放ち弓の形に姿を変える。

そのまま矢を引いて放つと、火の矢の雨が雪子に向かって降り掛かってきた。

「何これ」


これを全て捌くのは無理だ。

雪子は全ての矢をかわすことをせず、氷で自身の周りに囲いを作る。

「氷の盾か」

真凜の放った全ての矢は氷に突き刺さり、貫通することなく形を消した。


「まさかいきなり殺しに来るなんて、話し合いをするつもりは無いの」

「話してどうする。あんたみたいな妖怪を相手に一体何を」


「私は妖怪の力はあるけど妖怪じゃない。人間のつもりよ」

「悪いけど、今の貴女を野放しに出来ないわ。何故ならその氷を作る力は今世間に害をなす力なのだから」


「どういう事よ」

真凜の雪子に放った霊能力、実は当てるつもりはなかった。

火矢雨という技は雪子の手前で消すという、見掛け倒しの霊術であった。


無論狙って当てることも出来るが、真凜はこの術を雪子の技量を図るためだけに使った能力である。

「その氷、貴方雪女でしょ。最近少女の行方不明事件が多発しているの知ってるわよね」


「確かに、そんなニュース今朝流れてたけど、それが私と何の関係にあるというの」

「しらばっくれるつもりなのね。そのニュース世間では公表されてないけど、犯人の内の1人に子供を凍らせて運ぶという謎めいた女。雪女的存在がいるのよ。それは一体誰のことかしらね」


少女誘拐事件の犯人として疑われている。

雪子に身に覚えは無い。

当然の事だ。ここ1ヶ月生きるために逃げることで精一杯な毎日を送っていたのだから。


雪子と違う雪女が少女誘拐をしているのだ。

だけど真凜は知らない、雪女イコール雪子と見ている。

「私じゃない。別の雪女よ」


「じゃあ、あなたと違う雪女がいれば連れてくる事ね」

誘拐事件の騒動の直後に異常事態が発生し、そして雪子が転校してきたのだ。

疑われるのも当然の事だろう。


「拓狼の家に居候して、今度は春夏ちゃんを拐うつもりかしら。心優しい拓狼達を騙して」

「適当なことを言わないで、そんなつもりはないわよ」


「これ以上被害を増やさない。あなたは私が退治する。火刃(かや)」

火の刃が雪子に向かって飛んできた。

「だから私じゃないわよ」

雪子は氷菓を降り、氷の刃を飛ばす。


炎と氷の刃は、接触と当時に蒸発して消える。

「火炎陣」

今度は炎の渦が雪子の周りを囲んだ。

「氷蘭、お願い」


雪子の持つ刀、氷蘭が周りに冷気を放ち、炎を全て凍らせた。

凍った火の渦はヒビが入って、グズれ落ちていく。


「これは思った以上に強いわね。まさか半妖がここまでの力を持つとは」

「半妖。今半妖って言ったわよね。私が半妖だって分かるの?」


「純妖怪は屋根の下でないと日の光に浴びて消滅する。しない妖怪もいるけど雪女は日の光に耐性のある妖怪じゃないと伝承にあった。なら貴方は半妖ということでしょ」


半分は人間というのは真凜も気づいていた。

だけどそれはどうでもいい事である。妖怪の力があるのは変わりようがないから。


「なら私以外に本物の雪女がいるなんて想像が着くでしょ」

「私は、雪女が貴方だけしかいない、なんて言ってない。他にもいるでしょうね。だけどここ最近、近所で発生している誘拐事件の主犯の女を私は知らない。そして私は貴方しか雪女を見たことがない。だから貴方が1番怪しいのよ」


そう言って御札を強く握り、強力な技を出してくる様子が伝わってきた。

雪子は身を構えて真凜に、視線を向ける。

「火炎放射」

「氷菓、氷蘭。力を貸して」

真凜は炎を、雪子は氷を目の前に放射する。


それは衝突して、少しは蒸発しているが、競り合っていた。

少しでも気が緩めば押し切られそうで、2人とも気が抜けない状況だった。


そんな時、やめろという2人に聞き覚えのある男の子の声が耳に響いてきた。

「天の災よ強固な力にして災いの怒りを沈める力になりたまへ。電磁砲破(でんじほうは)」


電気の塊の光線が氷炎の競り合いに割って入り、2つを打ち消した。

「え、拓狼」

「拓狼君?」

拓狼を見た2人は驚いていた。


「何で拓狼君がここに」

「結界の中に入ってくるだけじゃなくて、今の電磁砲、どう見ても霊能力」

目を見開いている真凜に拓狼は距離を詰める。

「まさかとは思ったがお前、霊媒師だったんだな真凜」


「私も驚いたわよ。拓狼が霊術を使えるなんて思わなかったわ」

真凜と拓狼、幼なじみで一緒にいることが多かったのに、お互いに霊媒師であることを知らなかったのだ。


「それなら、拓狼はそこにいる転校生が半妖だということも気づいているのかしら」

「勿論知っている」


「じゃあ何で彼女を家に住まわせているのよ。妖怪の血を引いているのよ」


真凜にとって、拓郎が雪子を匿っているのが不思議でしかない。

 同じ霊媒師なら妖怪である雪子は退治しなければならない存在だ。


例え半分は人間でも、妖怪である事は変わりようがない真実なのだから。

「逆に聞くが、お前は何故彼女を退治しないといけないって思っているんだ」


「それは最近、少女誘拐事件が起きてるのは拓狼も知ってるでしょ。あれは雪女が事件の犯人なのよ。だから雪女である彼女が怪しいと」


「その現場をお前は目撃して、犯人の顔をよく見たのか」

その言葉に真凜は黙ってしまう。


何故なら、真凜は犯人の顔を目撃するどころか、その現場に居合わせていないからだ。


同じ雪女ってだけで確信がないのに、犯人呼ばわりしているのだから。拓狼は怒っている。


「それに俺は彼女が事件の犯人じゃないことに、気づいている」

誘拐事件の起きている所を、拓狼は昼休みを使ってネットで調べていた。


誘拐事件は、現在地から北側を中心に発生しているのだ。

雪子の出身場所は拓狼達が住んでいる所の南側である。


つまり雪子が来た方向と誘拐事件の方向が反対ということである。

それだけでは無い。


「誘拐事件は昨日、その前に起きたのは先週の月曜日なんだろ」

「そうよ。その時、霊媒師の目撃者がいて」


その霊媒師は全身氷漬けにされて、返り討ちにあったものの、別の霊媒師が来て急速な救助のおかげで一命を取り留めた。


真凜はそれを霊媒師の情報ツールで知った訳だが、ネットで誘拐事件の起きたところは載っている。


ただ、妖怪なんて世間的に公表が出来ないため、誘拐ではなく行方不明となっている訳だが。


「その事件、ここから30キロも離れた所だろ」

「そうだけど、それが一体何よ」

「じゃあ、彼女に犯行は無理だ。何故ならその日の夜は一緒にいたからな」


事件が起きた1週間前の22時。

その時、拓狼は雪子と初めて会って、一緒に行動しているのだ。

歩いて30キロも離れたところに行くなんて物理的に不可能である。


しかもその時の雪子は命を狙われているのだ。

そんな彼女が誘拐なんてする余裕なんてない。

「だけど、雪女の仲間がいて、グルになってる可能性も」


「それは無い。雪子は1か月前まで自分が雪女のハーフなんて知らなかったんだ。母親は真実を告げる前に亡くなっている」


「だけど拓狼。」

「真凜。悪いけどこれ以上、雪子に手を出すなら、俺はお前を敵対することになり」

「何で、何でなのよ」


真凜は泣きながら屋上から去っていった。

屋上は真凜がいなくなって数秒で結界が解け、グランドに野球部の練習風景が見える。


拓狼は真凜に酷いことを言ったなと。心の中で反省していた。

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