2部 10話 2部終章
買い物が終えて帰宅すると、花子が雪子に2階の部屋を提供した。
「じゃあ、この部屋使っていいから」
「すみません。何から何までありがとうございます」
部屋の提供に感謝をする雪子。
「おい、ちょっと待て」
「どうしたのよ拓狼」
だけどそれは拓狼にとって不満しか無かった。
「何か文句でもあるの?」
「文句しかねぇよ。だって」
そう。拓狼にとっては雪子に提供した部屋は問題でしか無かった。
「ここ俺の部屋だろ」
何故なら雪子の部屋は元々拓狼の部屋なのだから。
「この部屋を雪子の部屋にして、俺の部屋は一体どこになるんだよ。まさか一緒の部屋で暮らせとでも言うのか」
年頃の男女2人同じ部屋で寝泊まりするなんて問題が起こってしまうだろう。
「そんなことする訳ないじゃない。拓狼には新たに部屋を用意してあるわ」
「そうか、それなら良かった」
部屋を追い出されて自室がないなんて嫌でしかない。
部屋を明け渡すにしても自室がないと納得できないのだから。
「拓狼の部屋は2階を上がって更に上、ハシゴを登った先にあるmonoーoーーkiよ」
「それただの物置部屋だろ。俺は荷物かよ」
「何言ってるの、昔貴方は物置部屋が自室でいいって言ってたじゃない。私とお父さんが何度ダメって言っても布団を勝手に持ち出して勝手に物置部屋に泊まろうとして、今その願いが叶うのよ」
「いつの話だよ。今の年齢になってまで物置部屋で住みたいとは思わないわ」
確かに小さい頃、特に小学校低学年の時は物置部屋が秘密基地みたいでそこに住むのに憧れていた時期もあった。
だけど高校生になった今では物置部屋なんて狭くてまともに過ごせるわけが無い。
「嫌なのかしら?」
「嫌に決まっているだろ」
「じゃあ仕方がないわね。昔飼っていた愛犬の小屋がまだ残っていたからそこにするしか」
「そっちの方が嫌だわ」
昔柴犬を飼っていて、その小屋も秘密基地のように思ってここに住むと言い出した時期もあったが、高校生になってそれは絶対に嫌だ。
「なんでそこまで酷いことを言うんだよ」
「なんか買い物中に四十前のオバサンが若者の下着を買うだなんて・・・とか聞こえてきたな」
「本当にすみませんでしたお母様。お母様は本当にお若い。何時までも綺麗なお母様でいてください」
綺麗な土下座である。
「まあ、これまでは冗談として、拓狼の部屋はちゃんとあるわよ」
「新しい部屋を与えてくれてありがとうございます。心優しくて、綺麗なお母様の息子に生まれてきて私は幸せものです」
「なんか嘘くさいけどまあいいわ」
そう言って、拓狼に渡した部屋は、昔父親が使っていた書斎室だった。
「この部屋を使いなさい。内装は既にあなたの部屋として変えてあるから」
父親の書斎部屋が拓狼の私物に置き換わっている。
「良かった。ちゃんとした部屋だ。ありがとう母さん」
だけど一つだけ拓狼に疑問が残る。
「そう言えば今朝まで雪子の部屋が俺の部屋でこの書斎は父さんが亡くなってからそのままだったのにいつの間にインテリアが変わったんだ」
妹は友人に会いに外出し、母の花子は拓狼と雪子と一緒に隣県の雪子の家に行っていた。
誰が部屋の内装を変えたのだろうか普通に考えれば不思議でしかない。
「それは、霊神獣(れいしんじゅう)に今朝部屋のインテリアを変えてくれるように頼んだのよ」
「れいしんじゅう?」
「いずれ分かるわ。貴方が霊媒師の仕事を本格的に行うことになれば私に仕えていた霊媒師を拓狼に受け継がせてあげるから」
霊媒師には霊神獣という動物型の霊体が妖怪退治の相棒として1人1体が仕えている。
拓狼はまだ未熟であるため授けられてないが本格的に霊媒師の仕事をすることになれば絶対に霊神獣は必要になる。
「そうだ。雪子ちゃんにはこれを渡さないとね」
花子は引き出しに閉まっていたお守りを雪子に渡した。
そのお守りには隠と書かれたお守りで不思議なオーラが放たれていた。
「このお守りは何ですか?」
「とりあえず、首にかけてみて」
言われた通りに首にかけると雪子の全身に漂っていた妖気、それが消えた。
「そのお守りは妖気や霊気を隠す力があるのよ。だから雪子ちゃんの全身から出ていた妖気が消えたのよ。というよりも見えなくなったという方が正しいわね」
「それじゃあそのお守りは力を封印する効果は無いわけか」
「そう。お守りしてても妖術は出せるわよ。ただし、お守りしている時は多少力は落ちるし、しかも妖術を使った時、一時的にだけど妖気が隠せなくなるからそのお守りをしてるからって安心しないようにね」
「分かりました。ありがとうございます」
雪子はそのお守りを大事そうに服の中にしまった。
一連のやり取りを終えた後、女の子が部屋の中からでてきた。
「あ、ママとお兄ちゃん。帰ってきていたんだ」
「あぁ、10分くらい前にな」
「そっか、私さっきまで寝てたから2人が帰ってきたことに気が付かなかったわ」
「あの、この子は?」
「私の娘の春香よ。今年で小学5年生で拓狼と違って優秀な子」
まるで息子はろくでなしとでも言うかのような言葉に拓狼は内心ショックを受けた。
「そこにいるお姉さんは、数日前から、寝室で寝ていた人だよね。目が覚めたんだ。それにしても凄い美人な人」
「え、ありがとう」
年下の女の子に美人と言われた雪子。正直、同性に容姿で褒められるのは誰だって嬉しいに決まってる。
「この人もしかして、お兄ちゃんの彼女。こんな美人な人がお兄ちゃんの彼女なんて勿体ない」
「違うわよ。家の愚子にこんな綺麗な子が恋人なんて言ったら雪子ちゃんが可哀想よ」
「おい、なんで二人揃って俺をそんなに貶すの、俺マジで泣くよ」
目線を逸らす母と妹にストレスが溜まる拓狼だった。
「それよりママ、聞いてよ。私、今日スカウトされたんだ」
「え、スカウト?」
春香の言ったスカウトと言う言葉に花子達は戸惑っていた。
「アイドルに興味無いかだって。私昔からアイドルに興味あったし、パパが亡くなって。少しでも私も家計の力になれると思うと悪い話じゃないと思う」
春香は浮かれていたが、雪子を含めて、その場にいた3人は浮かない顔をしていた。
「春香、その人他に何か言ってなかった」
「最初の仕事として、売れるために写真を取るとか言ってたわ」
「それ怪しいだろ」
「怪しいわね」
「どう考えてもおかしいと思うわ」
しかも3人揃ってそのスカウトが変だと発言した。
「え、何で。アイドルデビューした人の中にスカウトされて人気になった人もいるじゃない」
否定する春香だが、確かに怪しいことこの上ない。
別に春香の容姿が悪い訳では無い。見た目は100人に1人の内に入るほどの美少女で、ミスコンに参加すれば上位には絶対に入るだろう。
何故、怪しいのかというと拓狼たちが住む所は日本の都市じゃないからだ。
県外でスカウトされる事例は少ない、都内にいるかわいい女の子をスカウトするのが一般的だ。
次に言葉のかけ方、スカウトした時、才能を見極めるためにオーディションに参加してみないかというのが流れであり、最初から売れるかどうか分からない女の子の写真を取るなんてありえない。
そして最後に、小学生をアイドルスカウトした事だ。
小学生のスカウトも無くはないが、小学生アイドルを目指す場合は事務所に直接保護者経由で履歴書を送る場合が多い。
中学生や高校生をスカウトする方が普通だ。
何故なら小学生の場合はすぐに金にならないから。中高生ならダンスと歌のレッスンをして早ければ1、2ヶ月でデビューできるのに対して小学生は売り出すために時間と金がかかる。
子役として演技にデビューするというケースもあるが、演技に優れた子役が溢れている時代でアイドル子役を出すのはリスクが高すぎる。
「春香、アイドルはそんなに簡単な仕事じゃないの。アイドルになるなんてやめて、勉強しなさい。そのほうがママは嬉しいわ」
「何よ。私なりに少しでも家計の足しになればと思ったのに。ママ達のバカ」
そう言って春香は部屋に閉じこもってしまった。
その後、ご飯を作って呼びかけたが、春香は一向に部屋から出ようとはしなかった。
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