2部 9話 買い物

車に乗って自宅に帰る道中。

雪子達は実家近くのショッピングモールに買い物に来ていた。

「拓狼。それじゃあ買い物に行ってくるから少しベンチで待っててね」


「はいはい。分かったよ」

拓狼を1人残して雪子と花子はランジェリーショップに入って行った。

『はぁ、雪子が一緒に暮らす事になったから下着を買わなければいけない事は分かったけど、母さんと妹の買い物で毎回1時間くらい服選びで待たされるんだよな』


車で話し合いをしていて、拓狼と雪子は名前で呼び合うほどの中になっていた。

「はぁ」

ため息を吐く拓狼。


現時刻は18時半、腹が減っている上に、ランジェリーショップの真ん前で待たされるとなると男としてはたまったものでは無い。


「下着を買うだけならいいが、服も一緒にってなったら一体何時までかかるんだろうか」

ぐったりとしている拓狼だった。

「拓狼じゃない。こんな所で何をしているの」

話しかけて来たのは拓狼の幼なじみである田中真凛だった。


「あれ、真凛。買い物か」

「あ、うん。そうなんだ」

真凛の持っている袋は雪子達が入って行ったランジェリーショップの店名が書かれた袋を持っていた。


「拓狼、そういえば今日の昼に、春香ちゃんと会ったわよ」

「春香と?」

「うん」

拓狼の妹と会った真凛。


朝から友人と一緒に出かけたのだ。地域内で1番大きいショッピングモールに行ってたとしてもおかしくないし、何も変なことは無い。


だけど、話はそう単純な事ではなかった。

「あの子、友達と一緒にいたんだけどスーツを着たおかしな男の人に話しかけられていたのよ」

「スーツを来ているって、ただのビジネスマンで道を聞いていただけじゃないのか」


「それは違うと思うわ。だってこのショッピングモール内の事だから」

ショッピングモール内は至る所に店舗の看板があり、現在地が記載されているため、迷った時にはそれを見れば解決する。


今の時代、文化の発達によるスマホがあり、滅多なことでは道に迷わなくなっているが、それでも充電切れや、住所と建造物名の誤入力によって迷うことはある。


だけど店内でそれはまず有り得ない。

それでももし迷ったら、普通は近くの店内の店員に聞くだろう。

客としてきた女子小学生に聞くことは絶対ない。


「なら学校の先生とすれ違って、たまたま話をしていたかとか」

「それも違うと思う。何故なら私が春香ちゃん達に近づいた時、その人後ろを振り返り何も話すことなく、まるで逃げるように去っていったのよ」


本当に話を聞けば聞くほどおかしな人だった。

「じゃあ何でその人春香に話しかけてきたんだろうな?」

「分からない。嫌な予感がするのよ」


「嫌な予感って何だよ」

「それは何か分からないけど」

「曖昧だな。別にそう対して大きな問題になるようなことでは無いだろ」


真凛が悪寒を感じているのに、拓狼はあまり気にしている様子ではなかった。

「そうね。ところで拓狼は、ここで何をしているのかしら」

1人ランジェリーショップの前のベンチで座っている拓狼。


普通に考えれば男子高校生にとって1番用がないところである。真凛はそれが気になった

「俺は人を待っているんだよ」

「人を待ってる?」

「そうだ。色々な事情があって・・・」


言葉が詰まる拓狼。

同い年の女の子と1つ屋根の下で一緒に暮らすようになったなんて、同級生の女の子に言えるわけが無い。


絶対に嫌な目で見られるからだ。

「ごめん。拓狼君待たせて」

そんな時、タイミング悪く下着店で買い物を終えた雪子が店から出てきた。


「どうしたの拓狼君。あれ、その子は」

雪子を見た瞬間、真凛の目付きが変わった。

「コイツは俺の幼なじみの田中真凛」

「ねぇ、拓狼この女は何」


「この子は増田雪子。訳あって俺の家で一緒に暮らすことになった女の子だ」

拓狼が雪子のことを紹介すると真凛は雪子に歩いて近づいてきた。


「ねぇ、貴方」

「な、何ですか」

雪子に耳打ちでこっそりと何かを告げる真凛。

それを聞いた時、雪子は全身をふるわせた。


「やっぱり。そうなのね」

「ち、違うわ」

「隠しても無駄よ」

そう言って真凛はその場から離れようとした。

一言残して。


「拓狼達に関わらないで、家から出ていきなさい」

「おい待てよ真凛」

歩いて立ち去ろうとした真凛の腕を拓狼は掴んだ。


「さっきの言葉はどういう意味・・・だ」

拓狼に腕を掴まれた真凛の手にはランジェリーショップの袋を持っている方だった。

腕を掴まれた真凛は持っていた袋を落としてしまい、買ったばかりの下着が外に出てしまった。


「あ、ごめん」

「ちょっと、見ないでよ」

袋と下着を拾う真凛、パットがずり落ちる

「あ」

サイズが大きいのが5枚、それは形を整えるためではなく胸を大きく見せるために使用していたことが一目瞭然だった。


「お前、そのサイズで盛って・・・・・」

「何発殴れば記憶が飛ぶかな?」

「殴る前提で話すのやめてくれ」


胸が小さい事にコンプレックスを持っていた真凛にとって、好意を持っていた拓狼に知られて精神的にショックだった。

「か、帰るわ」


恥ずかしくなり拓狼には隠すように振舞っているが、見てわかるほどに真っ赤になっていた。

気づかれないようにと、その場から走り去っていく真凛。


「おい、真凛」

雪子と関わるな。という言葉に拓狼は1つ疑問に感じていた。

「まさか、あいつ。いや、多分ないな」

考えて1つの答えを出したが、それは無いと否定した。


もし拓狼の考えていた通りなら1週間の間、雪子達を放置している事がおかしいからだ。

「なあ、真凛に何て言われたんだ」

「・・・・・・・・」

「雪子?」


「な、何でもない。気にしないで」

笑顔で答えた雪子だったが、何かに怯えている様子だった。


「ごめんね2人とも。遅くなって」

真凛とのやり取りが終えた後に、拓狼の母親である花子が下着店から買い物を終えて出てきた。


「遅いよ母さん。何してたんだよ」

「いや、雪子ちゃんのを買った後に自分のも欲しくなっちゃって、そしたらどれを買うか時間かかってね」


「・・・もう少しで四十のオバサンが若者の下着を買うだなんて(ボソッ)」

「拓狼、何か失礼なことでも言ったかしら。言葉によっては今日の晩御飯の牛肉のステーキがあなただけ、お父さんの使っていた革靴のステーキにするわよ」


「マジすみません。いや、お母さまは何時までも若々しくて、僕にとって自慢の母親です」

「まあいいわ、それじゃあ帰るわよ」

雪子の日用品を買い揃えて、自宅に帰る拓狼達。


帰る時雪子は真っ青のままなにかに震えている様子だった。

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