2部 8話 霊媒師の仕事

武器精霊の仲間を得た雪子は、来た道を戻る。

「お疲れ様雪子ちゃん」

洞窟を出ると、花子と拓狼が待っていた。

「怪我してるけど大丈夫」


身体中、傷だらけになっていて、無事に終わったのか不安になった拓狼。

「大丈夫よ。試練は何とか突破して、2人の武器精霊が力を貸してくれるようになったわ」


笑顔で答える雪子。

だけど花子は逆に険しい表情をしていた。

「やっぱり。雪子ちゃん、今のあなたは全身に妖力が漂っているわ」


拓郎達の目には雪子の全身に紫の不気味なオーラが映っていた。

「妖力がダダ漏れ。これじゃあ霊媒師に妖怪であることをバラしているようなもの」

雪子の全身から妖気が放たれている。

これは普通の人間の視界には捕えられない。


だけど霊媒師相手なら話は違う。

妖気がくっきり見えてしまう雪子を霊媒師は無視する事なんて出来ない。

「確かに俺にもはっきり見える。そう言えば母さん。思ったんだけど」


「何?」

「俺の妖力を封じている霊術、これを増田さんに使う事はしないの?」

霊媒師の家計とは言えど、拓狼だって半妖。

それなら息子に施した封印を雪子にもやれば簡単に妖力の制圧が出来る。


拓狼には何故やらない理由があるのか、不思議でしかない。

「封印というのは一定の条件にないと意味が無い代物。拓狼に施した封印というのは生後1年以内に発動させないと全く効果がないのよ。今の16歳の雪子ちゃんには同じ封印術は使用できないの」


拓狼は花子がお腹を痛めて産んだ子供である。

だからこそ、誕生時から一緒にいて、拓郎の封印も条件内に行うことが出来た。

しかし雪子はというと、会ってから2、3日しか経っていない。


封印の条件である1歳未満は突然過ぎている。

だから妖力の封印が出来ないのだ。


「それにもし封印が出来たとしても、封印を解くのに霊術が必要なのだから雪子ちゃん1人でいる時に敵襲にあったら無抵抗に殺されてしまうわ。苦労して得た武器も何もかも使用出来なくなってしまうのだから、使うのは得策じゃないわね」


拓狼は霊媒師の血を引いていて、霊力が使えるからこそ、花子がその場にいなくても封印を解く事が出来る。

だけど雪子は母親が妖怪で父親は普通の人間だ。


封印されたら己で解くことが出来ない。

花子や拓狼のような霊媒師がいなければ雪子は妖力を使えなくなってしまうのだ。


「あの、気になったことがあるんですけど」

雪子の声に耳を傾ける花子。

「どうしたのかしら」

「拓狼君は、霊媒師は妖怪のハーフですよね?それってバレたら色々とまずいのでは」


妖怪と霊媒師は敵対する関係にある。

妖怪は人間を食べる生き物で、霊媒師は妖怪を殺すのが仕事だ。

つまり敵対する同士の力を拓狼は持っているのだ。


半妖はこの世界にまだいる、だけど霊媒師の血を引く半妖は拓狼だけだ。

「そうよ。拓郎も妖怪の血を引いているのがバレると雪子ちゃんと同じように霊媒師から命を狙われるわ」


拓狼だって霊媒師、そして妖怪にも命を狙われる危険性がある。

いや、それだけでは無い。

「だけど拓狼は雪子ちゃんと違って、気をつけないと己の力で己の身を傷つけるわ」


「どういうこと」

母親の言葉にはてなを浮かべる拓狼。

「詳しい話は、車の中でしましょう」

森林を抜けて車に戻る頃には17時を知らせるチャイムがなった。


「拓狼、さっきの話だけど。貴方は半妖だという事はこの前伝えたでしょ」

「うん。それは分かってる」

「問題は、貴方が霊力と妖力の2つを身にに宿していること」


拓狼は世界中探して、2人もいない唯一霊力と妖力の使える人間。

「この2つの力は、交わることの無い反発し合う能力なのよ。炎と水、磁石のSとNみたいに」


「交わらない力ですか?」

花子は雪子に御札を見せる。

「雪子ちゃん。この御札を触ってみて」

「え、はい」


一瞬戸惑ったが、言われた通りに触ろうとした時触ろうとした左手が痺れた。

「う」

咄嗟に手を引っ込める雪子。


「な、何ですかこれ」

「それが妖怪の特性よ。霊媒師の使っている御札に触ろうとすると体を痺れさせるの。いや相手によってはその御札だけで倒せる妖怪もいるわ」


「御札だけで妖怪を殺せるということ」

「当然全ての妖怪がそういうわけじゃないわ。御札も妖怪を傷つける物ばかりじゃないし、」

その話を聞いた拓狼は背筋がゾッとした。



2日前の妖怪集団、特に鬼童丸の惨哲との死闘の時。

拓狼は妖怪の力を解放した時、上着を脱いでいた。


それは拓狼の思考では妖怪化する時身につけている上着が邪魔であり、変身によっては破ける心配があったから。

だからあの時自分はあんな行動に出たのだと思っていた。


だけどそれは違った。

思考と真意は全然異なるものだった。

拓狼はその時、本能的に上着を脱がないといけないと悟ったから。


何故なら制服の上着の内ポケットに霊術の力を放つために必要となる御札、霊札を入れていた。

もしあの時上着を脱がずにそのままにしていれば自分の身を滅ぼしていた危険があったという事だ。


「つまり母さん。霊術の力の使い方を間違えると、俺は自分の力で自分を殺すかもしれないということだよね」


「そういう事よ。霊媒師、人間が霊気を受けても普通は死なないし、怪我だって負うことは無い。だけど拓狼は例え妖術を解放してない時でも霊気で死ぬかもしれないのよ」


それを聞いた時、今まで使ってきた霊術を使うのが拓狼にとって怖くなってきた。

もう無知のまま霊術を使うことは出来ない、常に自分の命をかけているのだから。


「無論、妖怪も妖気で死ぬことは無い、その根底を覆す力や能力が無ければ」

拓狼が何故妖怪集団との死闘の時、下級妖怪を倒せた理由は、物理攻撃で妖気を直接攻撃手段として使っていなかったから。


「拓狼、怖くなったでしょ。昔あなたは霊術の事を異能力としてしか考えてなかったから」

異能力、それは男の子にとって憧れで、誰もが1度は通る叶わぬ幻想と言ってもいいだろう。


戦隊ヒーロー物とかCGで扱う見せ方を異能として思い込んだり、テレビアニメとかで主人公が使う技を真似してみたりなど。

拓狼はそんな少年が夢見がちの異能の夢を卒業する年齢ではあるが、だけど霊術という力を使えるからこそ、それを使って人を守るヒーローになれると今でも心の底では思っていた。


それがいつも自分の命がかかっていることは知る由もない事だった。

「こんな話をした後だけど拓狼、雪子ちゃんもこれから2人にはある事をしてもらうわ」


「ある事?」

「霊媒師は毎晩、妖怪退治をしてもらうわ」

「妖怪退治ですか?」


「そうよ。拓狼。貴方は今まで妖気を使わずに今まで生活してきたわ。使うのは霊術だけ、だから今まで普通に人間として生活出来ていた。だけど妖術を使えること、いづれ2人の事は霊術師に知れ渡ると思う。だから2人には広まる前に霊媒師へ仲間として見てもらうため妖怪退治をして人間側にいることを証明するための準備をする必要があるのよ」


「母さん。俺バイトがあるんだけど」

父親が無くなり家計が苦しくなったからこそ、バイトを犠牲にして妖怪退治をしたら生活できなくなってしまう可能性がある。


だけど花子はそんな心配はなかった。

「バイトは平日に入れるのをやめなさい。土日だけ入ること」

「だけどそれだと」


「霊媒師の仕事は退治した妖怪の妖石玉を持って帰って来ればその玉を国に申請することによって1匹退治する事に千円入ってくるから心配しなくていいわよ」


「え、そうなの?」

「家系の心配してバイトをしているのなら、霊媒師の仕事をしてくれた方が金になるわよ」

霊媒師の家計の殆どがお寺の生計を立てる家である。


神社の生計は生活害をなす妖怪達から人々を守るため夜通しで戦う事で賄っている。(この物語はそう言う設定であってリアルの神社の生計とは全然違います)

だから花子的には毎晩妖怪退治を子供にしてもらうことが生計的には1番助かる事なのだ。


今までさせていなかったのは子供に毎回命をかけて戦わせることをしたくなかったからである。

「ところで妖石玉って何?」

「下級妖怪を倒した時、紫の玉が転がったでしょ。それが妖石玉よ」


確かに退治した時、玉が転がったのを見た。


「あれは1つ1g程度にしかならないけど、掛け合わせる分子によって、様々な物質に変化する貴重なものなのよ。強化ガラスを作ったり、携帯の部品や、その他色々多様性がある代物」


「それって言い換えれば鉄になったり、銅や金にすることが出来るということ?」

「そう。だから妖怪の命と言えるそれを持って帰ってくれば生活に困ることはないわ」


そうなると確かに妖怪退治に徹した方が金になるだろう。

「雪子ちゃんは帰ったら渡すものがあるわ」

「渡すものですか?」

「そう。これからの妖怪退治で霊媒師に敵として間違われないために必要なものよ」


そういった花子の笑顔は裏がなく、雪子にとってそれが帰って不気味だったりした。

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