2部 7話 氷剣精霊の試練

氷剣精霊の氷菓と氷蘭は氷の槍を生成し、槍が雪子に振りかかる。

唐突の攻撃で戸惑う雪子。


行動が遅れて、槍を避けるが刃先が頬っぺを掠めた。

「何をするのよ」

「言ったでしょ。あなたの実力が見たいって」


「タダで僕たちの力が手に入るなんて思ったら大間違い」

槍が複数、空中で精製されていく。

「本気でかかってきなさい。でないとこっちは殺す気でいくわよ」


数十本もある氷が一斉に飛んできた。

「やるしかないのね」

今度は槍を避けることをせず、右腕を地面に付ける雪子。


目の前に氷の壁を精製して、槍は全て氷の壁に突き刺さる。

「やるね。あの氷の槍を全て防ぐなんて」

「私を認めてくれるかしら」

「まだまだ。あれだけでは力を貸してあげられない」


氷菓が一瞬で距離を詰める、そして右手から繰り出される攻撃。

それを腕でガードをした雪子だったが、その小さな体格には信じられないほどの力を有していて、後方に2メートルほど滑り飛ばされた。


「イッテー、危なかった。ガードしてなかったら大ダメージだったわ」

ガードをした腕に激痛が走る。

「私の拳を倒れずに受けきるとはね、半妖と思って舐めていたけど、なかなかやるようね」


普通の人間なら受けた右腕が折れているだろう。

それがない雪子は流石、半分でも妖怪の血を引いているのだから力は弱くても、体は柔(やわ)くない。


「今度はこっちから仕掛けるわ」

精霊たちの上空に巨大な氷の正方形物を作り上げる。

「うわ、マジ」


「こんなの作れるの」

雪子も想定外であった。

この洞窟は妖力に溢れていて、力が湧き上がってきたのだ。


巨大な氷の立方体なんて作れば疲弊してしまうのに、そんな気がしなかったのだ。

「くらいなさい」

その物体は重力に従って、勢いよく氷菓たちに降りかかる。


「でも甘いわね」

その攻撃は氷菓の拳ひとつで粉々に砕け落ちる。

「え、そんな馬鹿な」


直径10メートルもある正方体を片手だけで割る。

その力を見た雪子は身を構えた。

「これは本気でやらないと死ぬわね」

雪子は精霊達の力に脅えたが、状況が変わる訳では無い。


至る所に生えている氷柱を力ずくで切り落とし、氷菓達に向かって走り出した。

「無鉄砲になって、それでどうにかなると思ってるの」

氷蘭が、吹雪を雪子に向けて放った。


「ここが勝負どころだ」

その吹雪を雪子は塞ぐように壁一面に氷の盾を生成した。


壁に当たった吹雪は跳ね返り、氷菓達に襲いかかる。

「私の攻撃をそのまま返しても意味わないわよ」

吹雪を払い落とす氷蘭。

辺りがクリアになっていくのと同時に雪子が氷柱を持って突進してきた。


「吹雪の霧を利用して突進してくるとは、だけどそんなのが通じるとでも思った?」

氷菓が雪子のお腹に向けて拳を突き出した。


「これで終わりとは情けないわね」

そして雪子の倒れ込む。

体全体にヒビが入ったのだから当然だろう。


だけど次の瞬間、雪子の体をしていた物体は氷になった。

「まさか、氷で身代わりを」

吹雪で辺りを見えなくしている時に、自分の分身を作ったのだ。


「じゃあ本物は何処に」

「ここよ」

精霊たちの背後に回り込んだ雪子。

「これで私を認めさせる」

雪子は右手を大きく振りかぶった。



右手に持っていた氷柱を精霊達に投げる。

氷柱は氷菓に向かって飛んでくる。

「考えが浅はかね」


それを紙一重で避ける氷菓。

だけどそれを読んでいた雪子は、顔がにやけた。


「かかった」

雪子は次の瞬間、投げた氷柱に妖力を込めて爆発をさせた。


その爆風は少力だったが、氷蘭達を飲み込んだ。

「これならどう」

爆発させた氷は周りを再び凍らせて氷菓達の周りを囲むような壁を生成させた。


「これは私たちの周りを氷の壁が囲ってる」

「てかコレ虫じゃない」

一言で例えるなら虫かごだ。

「私たちを虫扱いして、こんなのでどうにかなるとでも。ってあれ」


その時氷菓はあることに気がついた。

「力が入らない」

囲まれたカゴの中で力を出すことが出来ないのだ。

「一発勝負で上手くいくかどうか分からなかったけど上手くいったようね」


雪子は自らの妖力を使って精霊たちの力を封じているのだ。

「氷の洞窟で、しかも10センチサイズの貴方達、この氷の壁はなかなか壊せないはずよ」


雪子の生成した氷は小さいがために氷の質を分厚く出来る。

直径20センチの立方体だがその重量は50キロもあり、そして外部からの妖気を遮断させた。


故に力の入らない結界のような物が出来たのだ。

「やるね。思った以上に戦えそうだ」

「だけど1つ思い違いをしているわ。この洞窟の放たれる妖力を吸収出来なければ弱くなると思っているならね」


双子の精霊達は氷の壁に手を当てて、雪子の氷を破壊した。

「この洞窟は私たちが長い間いたからこそ、妖気が至る所に溢れただけ」

「こんな壁を作ったところで僕達には無害でしかない」


「やっぱり一筋縄じゃいかないか」

実はさっきの精霊達を対象にした氷の壁はただの壁ではない。


精霊達の力を抑える妖力を込めたのだ。

逃亡生活の時に、追っ手から逃げるため氷で囲った相手を妖力で抑えることが出来るのを知った。


氷が溶けるまでという時間制限と、妖力の消費が激しいというデメリットはあるものの何度も雪子の命を救ってきた技の内の1つだ。


「それじゃあ、これで終わりにしましょう」

精霊達は再び吹雪を放ち、雪子に襲いかかる。

「何度も同じ手が食らうとでも」

「思わない。だからこれはフェイントだ」


吹雪で視界が悪くなっている中、氷の棍棒が風と共に近づいて来る。

それに気がつくのが遅れて、壁を作る前に雪子の腹部に直撃を受けてしまった。

「しまった」


その衝撃で雪子は体が動けなくなってしまう。

「それじゃあ。さようなら」

「まだ。まだおわれない」

氷菓の巨大の氷柱の攻撃が雪子に当たりそうになった時、体内に残っていた妖力の全てを出す。


雪子は己を中心とした所に無数の氷を生成させた。

その氷は全て爆発させると、氷柱の攻撃は上空で吹き飛んだ。


「何をしている」

精霊達の動きが一瞬止まる。

その一瞬を付き、今度は雪子が無数の氷柱を発生させて氷菓達に振り下ろした。


これが最後の攻撃よ。

そう思いながら出た攻撃は地面に突き刺さり爆発し、煙を巻き起こした。


最後の雪子の攻撃を受けた氷菓達。

その攻撃でも傷を付けることは出来なかった。

「ここまでのようね」

終わった。後はもう殺されるだけ。


そう思ったが、2匹の精霊は笑顔だった。

「いい力を持っている。これなら僕たちの力を貸してあげよう」

「それって貴方たちの試練に合格したのかしら」


「そうよ。貴方は私たちが力を与えるのに充分な戦いを見せてくれた」

「だから僕達は君の剣になろう」

双子の試練を突破したのだ。


 試練の突破に、安堵して全身の力が一気に抜ける雪子。

「でも、力はまだまだ未熟」

「雪菜の力の半分もないから。私達の力を得ても中級妖怪に太刀打ち出来るかどうか、だからあなたが自ら力をつけていかなければならない」


武器を得てもいきなり強くなる訳では無い。

能力が多少上昇するだけでしかない。

「君が強くならなければ生き残る事が出来ない。だから頑張って強くなって欲しい」


「私たちはただの武器精霊で使われる身。戦いに身を置くなら私達の力を過信し過ぎないように」

2人の精霊は指輪になり雪子の両手の小指にハマったのだった。


雪子は2匹の武器精霊を手に入れた。

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