2部 6話 雪原の洞窟
拓狼達は再び高速に乗り、車を2時間走らせた。
地図にあった洞窟へと向かう。
だけど洞窟の在処は迷える樹海の中、普通に歩けば途中で迷ってしまうだろう。
「どうする。この樹海から洞窟を探すなんて絶対に迷子になるぞ」
その時、雪子の体に何か衝撃のようなものが走った。
「何かが私を呼んでる」
何者かは、分からない。声が聞こえたのだ。
「呼んでるって誰が、何処で?」
拓狼の質問を無視して雪子は歩き始めた。
「待て」
拓狼と拓狼の母親はその後ろをついて行く。
それから30分間、拓狼が雪子に何を話しかけても返答することは無かった。
目的地に着くまでは。
「ここから声がするのよ」
「ここって、岩の壁じゃないか」
雪子が案内して、到着した場所は洞窟なんてどこにもないような、崖下である。
「ここから声が聞こえてきた気がしたのに、可笑しいわ」
来る時に辿った道なんて覚えているわけが無い。
「どうするんだよ。ただ道に迷ってしまっただけじゃないか」
「拓狼それは多分違うわ」
拓狼の母親はなにかに気づいたようで、雪子が声をすると言った所、岩の壁に手を当てたのだ。
「やっぱりそうだわ」
「母さんどうしたの?」
拓狼の言葉に、壁から離れて言葉を出した。
「拓狼、耳を当ててみなさい」
「え?耳を当てる」
訳が分からなかったが、母親の言われた通りに拓狼は耳を当る。
するとその岩からヒュォー、と音が微かにだが耳に入ってきた。
「風の吹くが聞こえてきた」
「何でそんな音が、したと思う」
岩の壁から風の吹く音がする理由、それは小学生でも分かる事だ。
つまり、その岩の壁の先に道がある。
「隠し洞窟よ。普通の洞窟に武器を置いておくなんてしないわ」
自分の武器を使って自分を殺しにくる連中を避けるため。
しかも妖怪の武器だ、そんな愚かなことはしない。
雪子がこの場所に連れてこなければこんな樹海の奥の隠し洞窟なんて絶対に見つからなかっただろう。
「それじゃあ。この岩の壁の奥に、お母さんの使っていた武器が」
「あると思うわ、隠した場所が特殊だから誰も見つけられてないだろうし」
でもそこで、拓狼は1つの疑問が思い浮かんだ。
「何で増田さんにだけ分かったんだ」
「まあ、雪子ちゃんにだけ分かったってなると多分、ただの武器じゃないわね。恐らくだけどその武器は付喪神のように意志を持っているんじゃないのかしら」
「意志を持ってる?」
「要は知識がある、生命体のような存在である可能性が高いということよ。雪子ちゃんの母親が使っていた武器は意図的に雪子ちゃんだけを呼んでいると思う」
「私に来るように誘っているという事ですか」
「そうだと思う、洞窟に入る方法は雪子ちゃんがこの壁に触れながら妖気を込めれば多分開くわ」
雪子は言われた通りに、壁に触れ、氷を精製する要領で妖気を込めた。
すると触れていた部分の岩の壁だった物が氷と化してバラバラと崩れ落ちた。
「やっぱり、妖術で洞窟を塞いでいたのね」
洞窟の入口を塞ぐ壁は、雪子の母の妖術だったのだ。
「特殊な妖術ね、術主が死んだ今でも溶けない氷なんて」
その時洞窟の中から凍てつくような吹雪が拓狼達に襲ってきた。
「う、何だこの洞窟、とてつもなく寒い」
まだ9月というのに、すごい冷風、拓郎の体は硬直しそうになった。
「ここにお母さんの遺品である武器があるのね」
「雪子ちゃん、私と拓狼は外で待ってるから行ってきなさい」
「何でだ母さん。俺達は一緒にいけないのか」
「そうよ。これは雪子ちゃんに出された試練でもあると思うわ。私たちは入ることを許されない」
試練という言葉に拓狼は首を傾げた。
「これ、試練なんですか」
「そうよ、洞窟の中を見る限りね」
なぜ、拓狼の母がそう思ったか、それは入口から見て洞窟が迷宮区のように先が見えないからだ。
道具をプレゼントするだけならこんなに奥深い洞窟を選ばない。
何故ならただでさえ洞窟を探すのが難しいのにこんな迷宮にするんなら、プレゼントのわけが無い。
「きっと罠があると思うわ。気をつけてね」
「はい、頑張ります」
雪子は拓狼達に見送られながら洞窟の試練へと向かった。
・・・・・・・・
洞窟の内部温度はマイナス10~15度ぐらい。
普通の人間なら耐えられないが、雪子にとっては全く寒く感じられなかった。
それは雪女の特徴だろう、冬を1度も寒いと感じたことの無い雪子。
今ならわかる、自分にだけ寒さに寒さの体制があったのは母親の血のおかげという事が。
しかも寒さに対応する力だけではない。
「でもまさか、こんな力もあるなんて思ってもなかったか」
予想外の力、それは洞窟の中がはっきりと見えることだ。
今まで妖怪の力を使ってこなかったから、真っ暗なところは何も見えなかった。
妖怪に追われて逃げていたときはあまり意識もしてなかったし、夜中でも街灯は着いていたから真っ暗なことは無かった。
だけど今、真っ暗な洞窟の中というのに辺りがよく見えるのだ。
洞窟の中にある氷柱や凍っている場所、手で触れなくても壁のあるところだってハッキリと視界に捕えることが出来る。
洞窟の中に入った瞬間、妖力を解き放ち、真っ白な髪に変わり妖怪の姿になった雪子。
今の彼女はこの洞窟のトラップに何が来ても恐れることは無かった。
「これなら簡単に洞窟の奥まで行けるわ」
途中で頭上に氷柱が降ってきたり、落とし穴になっている所があっても、問題なく対処することが出来た。
洞窟は、だいたい10分程度ほど歩き、ようやく最深部に到着した。
するとそこには氷で造られた土台の上に、2本の氷剣が突き刺ささっていた。
「これがお母さんの使っていた剣」
見惚れていると、突き刺さっていた2本の剣が光り出す。
そして土台から勝手に抜き出て、空中で徐々に形が変化して人型のようになっていく。
何これ、突然の事で頭が回らない。
雪子の周りにここ1週間の内、現実離れした出来事が多々起こっているのだ。
混乱するのも無理はないだろう。
「貴方が雪菜の娘ね、顔立ちとか面影があるわ」
「僕たちを手放してでも守りたかった子がこの妖力の低い女か。ちょっとガッカリだな」
2本の剣は言葉を放つ双子の少女のような姿へと化けた。
ただ違うのは、その2人がまるで人形のように20センチくらいの大きさしかないということだ。
正しく言い換えるなら精霊という方がしっくりくるかもしれない。
「あなた達がお母さんの使っていた武器なのよね」
確認をすると精霊たちはうなずいた。
「そうよ。貴方の母親の雪菜とは200年以上の長い付き合いだったわ」
「それで、雪菜の娘が何をしに来た?」
ここに来た理由、それは妖怪と戦う武器を手に入れるため。
「私はここに来たのは、あなた達の力を貸してほしい、様々な妖怪と戦って生き残るための力を」
それを聞いた精霊たちは笑っていた。
「そうか。貴方、私たちの力が欲しいのね」
「いいよ。力を貸してあげても」
妖怪たちが力を貸してくれる。
雪子は心の中で歓喜した。
だけどそれは束の間のことだった。
「ただし、条件がある」
「それは私たちに力を分けてあげる力があるかどうか」
「その試練を受けてもらう」
武器を得るための試練、それはここで力比べをすることだった。
「私は氷剣精霊の氷菓(ひょうか)」
「僕は氷蘭(ひょうらん)」
「私たちの力が欲しいならここで私たちが貴方に遣えるのに充分だと思える力を証明して」
双子の精霊は雪子に戦闘態勢で襲いかかってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます