2部 5話 雪子の覚悟
悲しみの感情を全て発散させた雪子。
マンションの管理人である男に別れを告げて、ダンボールに入れられた思い出の品を車に乗せてから乗車する。
雪子の父は自分がいなくなっても、娘が苦労しないようにと少額の金額を、自分が死んだ時の為に社会人になるまで苦労しないための金額を貯金してあると手紙で書いていた。
その金額は新車の自乗車が1台ほど買える貯金。
雪子が大学に行きたくなった時、アルバイトをすることなく4年間勉学に励むには充分過ぎる資金だ。
それともう1つ、雪女である母親が娘の雪子のため、いざとなった時に自分の身を守るため、自分が使っていた戦うための武器。
とは言っても、母の遺品はこの場になく。その在処を示す場所の地図があった。
「おとうさん。お母さんのことを知っていたのね」
そして父は最後に今まで話さなかった真実、今となっては雪子自身も気づいている事。
人間と妖怪のハーフであることを告げる内容を最後に父の手紙はそこで終わった。
身の危険を感じた時、これを使って逃げて欲しいと。
親からの最後の贈り物は2つだった。
「それで父の手紙は終わっています」
拓狼は手紙の内容に疑問があった。
「なんで身を守る武器を家に置かずにわざわざ遠いところに隠すなんて」
普通に考えたら理解不能である。
護身用の武器はいざとなった時のために近くに置いておくものだ。
隠すにしても、それは追い込まれた時、有利に持っていくため、自分や家族だけが知っている隠し場所を選ぶ。
だから家の中にあるのが普通だ。
つまり身近にない武器なんてなんの意味もないということだ。
「確かに普通の武器ならその通りよ。だけど雪子ちゃんのお母さんは妖怪なのでしょ。だったらその武器というのは、妖怪の使う代物であるということよ」
「母さんどういう事?」
拓狼の質問に対して。母親は説明をし始めた。
「つまりね、その武器を持っていると逆に危険が襲ってくる可能性があるということよ。あなた達2人とも半妖だから、妖術を使わない限り普通の人間とあまり大差がないのよ」
「確かに、今の増田さんに妖怪が発生させる、おぞましいオーラは出ていない。何処から見ても普通の人間だ」
「私も、拓狼君が同じ半妖だと最初は信じられなかった」
「拓狼の場合は御札で力を封印しているから少し話が違うけど、それでもね、ちょっとした事で半妖ということが霊能力を使える人間にバレてしまうのよ」
「つまりどういうこと?」
「拓狼、あなたと春香に霊媒師が使う霊能力を教えたのは何故だと思う。」
あまりの簡単な質問に拓狼は一瞬、戸惑ったがその答えを口にした。
「それは人間の生活に害を及ぼすかもしれない妖怪に接触した時、己の身を守るため・・・・・そうか」
「わかったかしら。そういう事よ」
母の質問に対して理解した拓狼。
妖怪を退治する人間、霊能力を持つ人間を、霊媒師と呼ぶ。
拓狼は、あくまでも護身用として母親から教わったが、本来霊媒師というのは人々の生活を脅かす妖怪を被害が出る前に退治する仕事である。
雪子は今まで妖怪の血を引いている事を知らずに、ずっと人間として生きていた。
それまで妖力を使ったことなんて1度もないからだ。
だけどもし、妖怪の武器を持つのなら。
妖気の溜まった物を身に纏う、それは霊媒師に自分が妖怪であるということを自らバラすという事になる。
「本当は多分貴方の父親も隠しておくつもりでいたと思うわ。だけど霊媒師の力がなければ妖怪であることを隠しきるのは難しいし、逆に妖怪には簡単にバレてしまう。だから命の危機に瀕した時のために教えたと思う」
このまま何もしないで殺されるのでは無く反撃する力を得て欲しいという事だ。
もう2度と娘を守ることが出来ないから、苦して出した選択なのだ。
「雪子ちゃんの母親は普通の雪女。普通の人間として生きていくためのカモフラージュをするなら必ず行う行動、それは妖気の溜まった自分の武器を隠すのが絶対にしなければならない行動なのよ」
雪子の母は雪子のために自分を護衛するために必要な武器を捨てたのだ。
無論、選ぶのは雪子本人だ。でもどっちの選択をしても命が狙われるのは、変わらない。
だけど違うのが、命を狙われる相手が妖怪だけでなく人間も一緒になるという事。
「雪子ちゃん、決めるのはあなた自身よ」
武器を持てば妖怪との戦闘には、少しだけ戦うのがマシになる。
だけど、それは妖怪だけではなく霊媒師からも命を狙われるというリスクもある。
「妖怪達に襲われた以上、また命を狙われる可能性があるわ。だけど母親の遺品を取りに行かずに妖術を隠し人間のふりして生きるのなら、狙われるのは妖怪だけ、それなら私が貴方を妖怪から必ず護ってあげる。
でも武器を持ち、戦う道を選ぶなら霊媒師から命を狙われた時、同じ霊媒師である私は何も出来ないわ。どうする?」
花子は霊媒師であるから、霊媒師の仕事を邪魔して、退治の標的である妖怪。
その血を引く雪子を守ることが立場的に出来ないのだ。
だけど妖怪だけなら、人間を守ることが仕事であるため、半妖とは言えど、人間の姿である雪子なら、身を呈して守ることが出来る。
母の遺品を取りに行って、自ら己の身を守るために戦う道を選ぶか、母親の遺品を諦めて、花子に守って貰い続けるか。
それはこれからの人生を決める、雪子にとって究極の選択肢と言っても過言ではない。
だけど雪子はもう心に決めている様子だ。
「母の遺品を取りに行きます」
それは日々の生活で妖怪と霊媒師に命を狙われる生活だ。
「妖怪から命を狙われた以上、もう普通の生活には戻れません。気持ちは嬉しいですが、お世話になった以上、これ以上迷惑をかけたくありません。己の身は己で守ります」
「いいのね、たとえ人間から命を狙われた時、私の力を頼れなくなっても」
「構いません。私は守ってもらうだけの人間になるわけにはいけません。自分の身は自分で守ります。それに戦うのは自己護衛のためで人を傷つけるためではありません。霊媒師は人間を守るのが仕事ですよね。話し合えば、戦わなくてもいい可能性があると思いますから」
霊媒師は人間の命を守る存在であるため。人間を襲わない、戦うのは自衛のためだと心の底からそれを伝えれることが出来れば、戦わなくても済むかもしれない。
あまい考えかもしれない、それは雪子も重々承知している。
だけど確率は0ではない。
「簡単なことではないわよ。それでも妖怪の血を引いているのだから命を狙われるのは間違いないと思うわ」
「もちろん。承知しています。それに隠していても霊媒師にバレる可能性もありますよね」
「そうね。拓狼と違って、私生活で雪子ちゃんは妖気を隠しきれてる訳じゃないわ」
「それなら狙われる事は一緒だと思います。だから私は母の遺品である武器を取りに行きます」
「分かったわ。それならあなたの母親の遺品を取りに行きましょう」
車は、手紙と共に書いてあった地図、雪子の母親が武器を隠したであろう洞窟へと向かった。
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