2部 3話 生まれ育った街へ

「まあ、先に言わなかった私だって悪かったけどね、言い終わる前に動かないの、いつも人の話は最後まで聞きなさいっていってるでしょ」


「はい。おっしゃる通りです」

 

 雪子と入れ替りで拓狼が風呂に入り終わった後。

 風呂場から和室に移動して説教を受けている。


「見られた。私の全てを、恥ずかしいところを包み隠さず見られた」


「息子が不甲斐なくてごめんね」

 涙目の雪子を慰める花子。

 好意じゃないのに、母親の言葉で拓狼の方が泣きたくなってきたい。


「母さん。その女の子誰なの、親戚の女の子が泊まりに来てるの?」

「え?」


 拓郎の質問に、なに言ってるんだ。

 そんな表情をする花子。


「それ、マジでいってる?」

 しかも表情の通りの言葉を投げ掛けられたのだ。


「何だよ。その言い方、まるで俺が彼女を知ってなければいけないような感じたな」

「あの、私。増田雪子です」


 彼女の言葉に、一瞬固まる拓狼。

 増田雪子、何処かで聞き覚えのある名前、そういえば、たしか半妖の雪女の少女もそんな名前だったような気が。


 そこまで思考が働いてようやく気がついた。

「え、もしかして君が、妖怪に追われていた女の子」

「はい」


 雪子の言葉に拓狼は驚きを隠せなかった。


彼女は100人中の内の1人に選ばれると言っても過言ではない、容姿の整った美少女である。

夜真っ暗な中でしっかり顔を見ていなかった拓狼、正直こんな美少女とは思ってもいなかった。


そして風呂上がりという事で、悪臭ではなく、今では華やかな香りがしている。

人間、嗅覚によって見た目を判別するという事があると海外で研究した人間がいたが、事実その通りなんだなと、改めて実感した拓狼だった。


「あれ、でも確か、あの子は白髪だった気がするんだけど」

真っ暗な夜道だろうと白と茶髪を間違えるわけが無い。


何故なら真っ白な髪は夜でも、他の色より明るく見えて区別が付くのだから。

「妖怪になっている時は髪色が変わるのよ。貴方だってそうだったじゃない」


「そういえば、確かに耳としっぽが生えて髪が長くなったな」

その髪色は白髪だった。

雪子の言う通り、拓狼も髪色が変化したのを見たからこそ、納得がいった。


「なあ、母さん。気になっていたんだが、春夏も俺と同じで半妖なのか」

「あの子は拓狼と違って普通の人間よ。死んだ旦那の本当の子供だからね」


 花子は結婚するとき、赤子の拓狼を連れていたのだ。

「まあ、春香も霊媒師の家庭の人間だから私や拓狼と一緒で霊能力を使えるけど」


春香も拓狼と同じで霊術を母から学んでいるから、力は強くないが霊媒師である。

「それじゃあ、雪子ちゃん。そろそろ行こうかしら」


「はい」

「行くってどこへ」

出かけようとした2人に言葉をかける拓狼。

「雪子ちゃんが住んでいた家、多分もう何も無いと思うけど念の為にね」


雪子と拓狼の母はこれから隣県の彼女が住んでいた家に向かうのだ。

「万が一荷物があった時のために拓狼も着いてきなさい」


「何で俺、しかも荷物持ちかよ」

「男ではないよりあった方がいいでしょ」

「はいはい」

父親がいなくなった今、青龍寺家の荷物持ちは拓狼である。


車は父が亡くなる前に使っていた一般のファミリーカー8人乗りだ。

勿論母は運転手、助っ席に雪子で後へ拓狼が車に乗った。


・・・・・・・・・・・・・・・・


車を走らせること1時間半。

高速道路を使用して隣県へ、雪子の住んでいた家の近くまでやってきた。

住んでいたところは拓狼の思った以上に発展した街並みだった。


拓狼の住んでいた所、その隣の市ほど栄えていた訳では無いが田舎に近いところの景色になれていれば充分、都会に感じた。


「ここが雪子ちゃんの住んでいた町なのね」

「はい、鬼童丸達に追われる前まではこの近くの女子校に通っていました」

この話をしているとちょうど目の前で光ヶ山女子高等学校という門の付いた建物が目に入った。


「ここに通っていたのか」

「うん。あ、ちょっと止めて貰ってもいいですか」

「いいわよ」

雪子にお願いされた拓郎の母はナナコンの駐車場に車を止めた。


雪子は車が止まるとジャージ姿で歩いていた女子高生2人に駆け寄った。

「高校の友人と話がしたかったのか」

「ねぇ、拓狼。あなた一昨日、鬼童丸という妖怪と戦ったの」


「そうだけど」

「何で命を狙われていたか分かる?」

「まあ、奴らの言いようでは、彼女の母親が裏切ったとかという理由だったけど、それは建前で本心はハーフの半端者の存在が許せなかったとかだと思う、俺も彼女も半妖だからな」


ハーフ妖怪は人間だけでなく妖怪の世界でも不謹慎にあしらわれてしまう存在である。

だから雪子や拓狼のような半妖は本物の妖怪にとっているだけで不可解極まりないのだ。


純血の人間なら食事になるが、妖怪の血が混じっていると不味くて食べられないし妖怪同士縄張り争いもあるから半妖はいるだけで迷惑なのだ。


「その妖怪集団のリーダー的存在だったんだ」

「え、鬼童丸が。本当なの」

拓狼の言葉に驚く母。

「なんだそれ、鬼童丸がリーダーじゃあ可笑しいみたいな言い方だな」


「そりゃそうでしょ、だって鬼童丸って・・・」

「え、それ本当か。母さん」

「うん、本当の事よ」

母の言葉に今度は拓狼が驚きの表情をしていた。


車から降りた雪子は車内から見つけた女子高生2人に駆け寄った。

「2人とも」

「あれ、ユキちゃんじゃない。どうしたのこんなところで」


「ユキちゃん夏休み始まってから全く連絡してこなかったから心配したよ。学校だって1週間も休んで何をしていたの」

「それはその、私夏休み初日に事件に巻き込まれて」


雪子の話に女子高生2人が察しが着いた。

「まさか1か月前のマンション最上階で起こった30代の男バラバラ殺人事件ってユキちゃんの家だったの」


「うん。私命からがら殺人鬼から逃げてここ1週間まともなご飯も食べられなかったし風呂も入れず寝床にだって困ったわ」

「それじゃあまる1ヶ月の間ホームレスだったってこと」


「そうね」

「ユキちゃんを追っていた殺人鬼はどうなったの」

「逃げてる時に男の子に助けて貰って、一時的にだけど追っ払うことが出来たんだ。だから今は助けられた男の子と一緒に行動している」


同級生2人から同情の目を向けられる雪子。

「明日は学校に来れるの?」

「分からない。お父さんが死んだからもう学校に通えないかもしれない」


その時、拓狼が雪子に駆け寄ってきた。

「増田さん。話が終わったら出発するから、ナナコンの駐車場に戻ってきてね」

「分かった」


拓狼の姿を見た2人はえっ、となった後に、ニヤニヤした顔と声を出した。

「もしかして、さっきの男の子が」

「助けてくれた男の子」


「付き合ってるの」

「そんなわけないでしょ。じゃあそろそろ行くから」

そう言って雪子は2人にお別れの言葉を告げた。


「何かあったら電話してきてね」

「元気でね」

「今までありがとう。じゃあね」

永遠と言う訳では無いが、二度と会えないかもしれないという表情で友人たちに別れを告げるのだった。


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