2部 2話 お風呂での男女トラブル

 雪子が風呂に入った1分後。

 目の前に見慣れた天井と証明がある。

 ここは、拓狼が使い慣れた、部屋の天井だ。


 そして嗅ぎなれた匂い、16年間、過ごしてきた家である。

 からだを起こすと、扉の閉められた自室に拓狼1人だけがそこにいた。


「あら、ようやく起きたのね」

 扉を開けて入ってきたのは母親である花子だ。

「心配したのよ。拓狼、あなた帰ってきてから、2日も寝ていたのだから」


 慣れない妖術の使用で、どうやら2日間も寝ていたのだ。

「母さん。雪女の少女は、彼女はどうなったの」


「無事よ。あなたに感謝していたわ、命の恩人だってね」

 無事でよかった。拓狼は心からほっとした


「そう言えば、春香は」

 春香と言うのは拓狼の4つ下の妹である。

 今は小学生6年生だ

「今日は友達と約束があるようで朝から出掛けたわよ」


 日曜日の12時半。

 遊び盛りの年頃なのだから、家でゲームをしているより友達と外で遊んだ方がよっぽど良い。


「母さん。春香は、俺が半妖であることを知っているのか」

「知らないわ。あの子には言ってないから」

 拓狼の妹である春香は、拓狼と違って霊能力だけを持った少女である。


 つまり異父兄妹ということだ。

「拓狼。貴方、ここ一週間、お風呂に入って無かったでしょ。ちょっと臭いわ」

 花子の放たれた言葉に拓狼は心中でショックを受ける。


 それも当然の事だ、月曜日に妖怪に気絶させられて、4日も寝たきりになった後、妖怪になった時の疲労によって2日も気を失っていたのだから。


「まあ、6日も入ってないと当然だろうな」

 からだを起こして、拓狼は軽く背伸びをした。

「体はもう動かしても平気でしょ、だったらお風呂に入ってきなさい」


「あぁ、流石に自分でもこの匂いは気になるから風呂に入ってくるよ」

 タンスを開けて着替えを持ち、部屋を出た。

「え、もしかして。今から風呂に入るつもりなのかしら?」


「当然だろ。6日も入ってなければからだの至るところが痒くてたまらないからな。垢だらけだろうし、さっさと入るわ」

 母親の言葉が矛盾している。

「ちょっと待ちなさい」

 何か隠しているようで様子がおかしかった。


 いつもは、風呂に入るのがめんどくさくて、ダラダラしている拓狼に、さっさと入れって言う二人なのだ。

 それなのに、なぜか今は止めようとしている。


 それは当然だろう。今は雪子が入っていて、拓狼はこのままだと女の子のお風呂を覗く変態になってしまう。


 当然拓狼はそんな事を知らない。

「あ、沸いてなくてもいいよ。シャワーで済ませるから」

 階段を降りて浴室へと向かう。


「いや、そういうことじゃなくて。話を聞きなさい」

 なにか言おうとしているが、無視して拓狼は浴室の隣である洗面所の扉を開けた。


「え・・・」

 開けた瞬間、少女の可愛らしい、驚きの声が聞こえてきた。


「あ、あれ?」

 同じように拓狼も驚きの声を出していた。

 それも当然だろう。

 

 自宅の洗面所で、見知らぬ少女が、その場にいるのだから。


 濡れた茶髪のロングヘアーで、バストはEくらいありそうだ。

 胸から、腰とお尻のラインにかけてキレイなスタイルをしている。


 顔は、テレビのアイドルにいそうな、整った可愛らしい顔をしており、拓狼の好みの顔に近い美少女だ。


 その少女は、雪子なのだが、以前助けた時とは違う姿になっている。

 だから拓狼にとって誰なのか全くわからなかった。


 雪子は洗面所のドアを開けたのと同時に、使用していたであろうバスタオルを、洗濯機の中に入れるところだった。

 

 つまり、あられも無い人間の姿。全てが拓狼に丸見えなのだ。


 キレイな乳首に、下の方は脛(すね)だけでなく陰毛も剃り落としているのかというかのように、無駄毛のない美しい体をしている。

 さっき剃ったばかりだから綺麗になって当然だろう。


 だから包み隠さず男の子に、恥ずかしい所を全てを見られた雪子は思考が一時的に停止した。

 拓狼は、雪子の体を見ていたが、ふと我に帰り、そんな状況じゃないと気づく。


 何か言って誤魔化さないと、という思考が拓狼に働いた。


「あ、あの。その」

 

 だけどどんなに言葉を見繕っても、この状況はどう考えて、女子の入浴を覗きに来た絵面にしか見られない。

 

「キャヤヤァー」

 雪子は自分の胸元を両手で抱えながら内股で座り込んだ。

 男の子に裸を見られているのだから隠したくなるのは乙女として当然の事だ。

「ごめん。わざとじゃないんだ」


 必死に弁明しようとしたが、聞く耳を持ってくれそうにない。

 それもそうだ、お風呂から上がった瞬間。しかも全裸でいるときに、男が突然乱入してきたのだから錯乱するに決まっている。


 拓狼も拓狼で、自分の家で見知らぬ少女が勝手に入っていたのだから、驚くのも無理はない。


「覗く気は無かったんだ本当にごめん」

 拓狼は洗面所の扉を閉めた。

「拓狼。人の話はちゃんと最後まで聞きなさい」

 花子は息子の失態を見て、呆れている。

「はい。反省してます」


 母のため息に息苦しさを感じる拓狼。

 それから数秒後、花子の服を着て、洗面所の扉を開ける雪子。


 その様子は何処か元気がなく、拓狼に対して、目を合わせてはすぐに反らすを繰り返していた。

 裸を見られた後だから気まずいのだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る