2部 1話 過去の悪夢
今でも時々思い出す。
父親が死ぬ直後の地獄の光景を。
思春期真っ只中の雪子は、父親と顔を会わせるのが嫌だから、友達と夜遅くまで遊んでいた。
当然、夜遅くに帰って来る娘を心配しない親なんていない。
「帰るのが遅いぞ雪子。どれだけ心配したと思っている」
毎日というわけではないが、聞き飽きた言葉に雪子はイライラする。
しかも月1のデリケートな日に重なってしまったのだから尚更だ。
「うるさいな。もう子供じゃないんだからほっといてよ」
雪子の父親は普通の会社員であり、家にいる時間が短い。
故に父子家庭で、いつも一人でいる雪子にとって、家族を蔑ろにして仕事をしているように思える父親が嫌いだった。
「父さんだって普段家にいないのに、そんなことばっか言わないでよ」
無論、仕事で帰るのが遅くなっている事くらい雪子にだって分かっている。
だけど、ほぼ毎日残業をしていて、休みなんて月に4日しかないほぼブラックな会社勤めだったのだ。
誕生日なんて、母親が死んでから1度も祝われてない。友達と一緒にいなければいつも一人飯なのだ。
「それは確かに父さんが悪い。だけどお前が生きていくために毎日必死に働いているんだ」
「そんな事ばかり言って、娘ために働く立派な父親気取りしているだけでしょ」
家に殆どおらず、しかも年頃の女の子だ。
父親を嫌いになるのも当然の事だろう。
「いつも偉そうに説教ばかりして、私の気持ち考えた事ないでしょ。死ねよ糞親父」
当然本気で言った言葉ではない。
だけど、その言葉が雪子の人生を変えた。
「じゃあ望み通り殺してやろう」
そう言って現れたのは気持ちの悪い容姿をした三浪鬼だ。
「な、何。あれ」
それを見て怯える雪子。
当然雪子の父親も目の前の怪物に怯えていた。
「何者だお前」
でも、ここで逃げようとせず娘を庇うように目の前に立ちふさがった。
「邪魔だよお前」
次の瞬間証明が壊れて真っ暗になった。
「キャア。何よ一体」
恐怖で頭を抱えながら倒れ込む雪子。
そして父の叫び声が耳に入るのと同時に目の前に何かが転がってきた。
それは父の切り離された首だった。
「え、お父さん。そんな・・・・・・」
それが事の始まりであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「イヤアァアァァアア」
叫び声と同時に目を覚ました雪子。
気がつくと目の前には見知らぬ光景が広がっていた。
天井があるから奥内であることは間違いない。
畳の上に布団が敷いてあり、そこに自分が眠っていたようだ。
和風感溢れる内装で、どこか落ち着く感じの部屋だった。
「大丈夫。何が叫んでいたようだけど」
雪子叫び声を聞いて慌てた様子で現れたのは美しい容姿をした女性だった。
「だ、大丈夫です。」
突然現れた女性に驚く雪子。
「すみません。貴方は?」
「私は青龍寺花子。拓狼の母です」
それを聞いた雪子は目を見開いていた。
「え、もしかして私を助けてくれた狼男の」
「そうよ。彼は私の息子」
雪子は毛布を取って正座した。
「この度は助けて頂きありがとうございます。拓狼君がいなければ私は生きていません。彼は私の命の恩人です」
「そんな土下座しなくていいのよ。顔をあげて、あの子昔から危なっかしい所があってね。母としては心配していたのよ。でも帰って来たし、貴方も何事も無く無事に生きているんだからそれでいいじゃない」
「だけど私は妖怪とのハーフで」
「貴方が本物の妖怪だとしても、人間を傷つけた訳じゃないんでしょ。普通の高校生として生きてきたならそんなことは関係ないわよ」
むしろ何も知らずに自分が半妖だと告げられて命を狙われていたことに、可哀想と思った花子。
「それより、雪子ちゃんだっけ。これからの生活の宛はあるの?」
雪子は首を横に降った。
「無いです。父と2人暮らしで、親族関係は全く知りません」
これから自分1人で生きていくのは正直辛いだろう。
身寄りも住みかもない女子高生が1人で生きていく唯一の方法は売春しお金を稼ぐ以外で方法はおそらくない。
そうじゃなければ公園でホームレス生活をすることになる。
「なら、家に住めばいいわ」
それを見越してか、花子は雪子に一緒に住むことを提案した。
「え、それは、住みかを提供して頂けて正直嬉しいですが。でもお世話になってばかりで申し訳ないですし」
「気を使わなくていいわ。夫が無くなってから使わない部屋があったから。それがもったいないし、ましてや行く宛がないんでしょ。身寄りのない高校生の女の子を1人、外に放り出すなんて事をする方が気分が悪いし」
「でも、生活費に影響が出ると思いますし、自分は妖怪達に命を狙われている身。貴女方の家族を私のせいで巻き込んでしまうかもしれません」
「たった1人増えたところで、家系の影響にはならないわよ。それに家は先祖から代々妖怪退治を生業としている家系よ。妖怪との戦闘が怖いからって逃げるようなら霊媒師としての家系の名折れよ」
1人の女の子を追い出す事に、花子のプライドが許さなかった。
「それとも、本当はこの家に居たくないのかしら。それなら無理に住む事を共用しないけど」
「そんなことは無いです」
「なら人の行為には、素直に甘えなさい。貴方は妖怪の血を引いていても、女子高生であるのは変わらないのだから。それなら今の内に高校生活を楽しめばいいわ。将来嫌でも家を出て働きに行かないといけなくなるのだから。1人で生活するのはそれからでもいいじゃない」
「それじゃあ。ご厚意に甘えて、しばらくお世話になります」
「いいのよ。そんなに謙遜しなくて」
花子は雪子の事を家族として迎え入れた。
それが雪子にとって嬉しかった。
「ありがとうございます。このご恩は何時か必ずお返しします」
「そんな改まった態度を取らなくてもいいって言ったのに、素直な子ね」
良い子だし、息子に嫁いでくれないかしら。と思う花子だった。
「それで、雪子ちゃん。過酷な環境下だったからまともにお風呂に入れてないでしょ。シャンプーとか勝手に使っていいから入ってきなさい」
そう言って花子は自分の服とバスタオルを雪子へ渡した。
「除毛クリームも有る物使っていいからね」
「はい」
雪子は渡された服とバスタオルを借りて風呂場へと案内された。
「それじゃあお借りします」
「ちょっと入るの待って、雪子ちゃん。ブラのサイズは?」
「Dの70ですが」
「じゃあパットを入れれば私のがギリギリ使えるわね。Dの80だから」
そう言って、雪子へ自分の下着と種類別のパットを3枚、計6枚渡す。
もし合わなければスポブラを渡しているところだった。
「私ので悪いけど一時的にこれを使って。後で服と一緒に買いに行きましょう」
「はい。ありがとうございます」
借りた下着とパットを持つ雪子。
「最後にもう1つ、拓狼が起きる前に聞かないといけない事があるんだけど」
「何ですか?」
「雪子ちゃんは、ナプとたん。どっち使ってるかしら」
それは息子とは言えど、男がいる前で出来ない話だ。
「私と娘の二人はナプなんだけど、雪子ちゃんがたんだったら新しく買ってこないといけないし」
「大丈夫ですよ。私もナプなので」
「なら大丈夫そうね。あれが来たとき対処できないと困るからね」
「そうですね。それではお風呂をお借りします」
雪子は身に付けている服を脱ぎ、風呂場へと入った。
久しぶりのお風呂で雪子は感動していた。
「お湯で体を洗い流せるなんて本当に最高」
そう言いながら鼻唄を歌う雪子。
「それにしても、1ヶ月手入れが出来なかったとはいえ。これは乙女としてちょっと」
足や腕はまるで男のように毛が生えて、裸が全く見えない。
近くにある除毛クリームを全身に塗る雪子。
「ついでにそろそろあれが来るから、ここもやっとくか」
除毛材を自分の又にもやる雪子。
女の子の日になると、股下の毛は蒸せて嫌な気分になるし、処理もめんどくさいのである。
無論沿ってチクチクするのが嫌な人もいてそれぞれだが、雪子は前者である。
何故なら、その後の匂いも気になるから、香水で誤魔化すより、トイレで洗い流す方が楽だからだ。
充分に身を清めて、乙女の柔肌になった雪子。
お風呂から出て体を拭き、洗濯機にバスタオルを入れたとき。
話し声が聞こえてきた。
それは徐々に近くなっていく。
「え?」
そして意図せず、目の前の扉が勝手に開いたのだった。
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