第29話 「メリークリスマス! ハッピーニューイヤー!」

「メリークリスマス! ハッピーニューイヤー!」

「「ハッピーニューイヤー!」」


 溜まり場にてクリスマスパーティで夜通し盛り上がり、翌朝から雪合戦にゲームセンターと遊び惚けたウィリアム達は、夕方になってからようやく解散となった。サムはまだ遊べると不満げだったが、風邪を引いてしまうと言いくるめられたのだ。


 激しく動いた後は、余計に体が冷めてしまう。手袋越しに息を吹きかけるも、ちっとも温まらない。コートの下の服が透けているのではないかと思うぐらい寒い。


 はらはらと白い粉雪がちらつき始めた空を見上げ、ウィリアムは心の中で寒いと叫んだ。隣を歩いているアレクはいつも通り平気そうな顔をしているものの鼻を擦っている。彼の服装は厚手の物ではないためだ。それでも凍えずに歩けるだけ充分すごい。


 寒いけれどまだ家には帰らず、アレクと駄弁った。


 街中に戻ると人通りが増える。イルミネーションがチカチカしていて、ウィリアムは「すげえな」と漏らした。


 写真を撮りつつ歩いていると、前方にあるスイーツ屋にアレクが入っていった。


(あっ)とウィリアムは声もなく口を開けた。今年は自分がケーキを用意すると宣言したのを思い出した。昨日のパーティには、その姿はなかった。わざわざ高価なものを買うよりは、いつも食べているお菓子を大量に用意するほうが良いという意見が上がり、皆賛成したのだ。

 毎年ジョエルに任せきりだったから、うっかり忘れてしまうところだった。


 慌てて追いかけると、彼はショーケースの前で立ち止まっている。


「買うのかよ?」


 ウィリアムが尋ねると、「親から頼まれてた」と言い、店員に予約番号を伝えていた。

 待つ間、二人はショーケースを眺めた。アップルパイにキャンディケーン、パネトーネもたくさんそろえてある。絶対に美味しいのだろうと、甘さと触感を想像して口が開く。


「お前も買う?」


 ぼんやりとしていたウィリアムは、不意打ちのような問いにドキリとした。思わず体をびくりと跳ね上がらせてしまったことに恥ずかしくなり、誤魔化しながら返事をする。


「べ、別に欲しいなんて思ってないから!」

「ふうん」


 バレてしまっただろうか。

 ドキドキしながらも平静を装うため、視線を落とすとそこにはホールのチョコレートケーキがあった。『Merry Xmas』と書かれた小さなカードまで付いている。チョコレートが表面を覆っていて、店内の照明でピカピカと光っている。思わず食欲がわいたウィリアムは、値段を見た。


「高……」


 ついポツリと言ってしまった。

 あっと後悔しても遅く、アレクの顔を見た途端、顔に熱が押し寄せてきた。きっと笑われるに違いないと思っていたが、予想に反して何も言われなかった。店員に声をかけられ、彼は箱を受け取った。


 どうしようと悩みつつも、アレクについていき店を出てしまう。アレクの歩調は気持ちゆっくりになり、箱を揺らさないようにしている。


「何のケーキ買ったんだよ?」

「ジンジャークッキーと、ミンスパイの」

「いいなぁ」


 アレクがイルミネーションを背景にこちらを向きながら、


「さっきのケーキ、買わないで良かったのか?」

「う……」


 物欲しそうな視線はやはりバレていたようだ。


「でも、予約してなかったから」

「ホールじゃなかったら買えるぜ」

「いや、まぁ」


 ジョエルはホールを用意していたから、自分もそれでないといけない気がするのだ。でも、またあのケーキ屋に戻るのも恥ずかしい。


「ホールがいいなら、スーパーで買えばいいじゃん」

「あ、そうか」


 彼の言う通り、スーパーでも冷蔵コーナーで売っているところはあるのだ。時間がやや怪しいが、店側も多く取り揃えているかもしれない。

 アレクにお礼を言って、ウィリアムは走り出した。

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