第4話 バイト編 出勤後と本業の月曜日
『今日で辞めます。』
同じ日に入社した何人かが、その日のうちに辞めた。
バイト初心者の高校生や大学生が特に目立った。なかには腰を
本当に大変だったと思う。
ここよりラクで楽しい仕事はいくらでもあるし、家族に頼れるうちは何度でもチャレンジできる、引き際は大事だ。
「残念ですが、お疲れ様でした。」
人事課の社員が書類にチェックを入れる。
採用した先から辞められるってこの人の査定どうなるんだろ…。
安堵の息を吐いて、颯爽と帰っていく背中を見送りながら、想いを馳せる。
同期の半分が辞めた。
社員の淡々と動くペンが、そう告げていた。
女子更衣室にはベンチで項垂れる人、床に座りこむ人、ベテランも新人もみんな疲れが滲み出てていた。この後に家事や勉強する人もいるのかと思うと、見ているだけで気が遠くなる。
そりゃ新人の心折れるわ…。
ヒカリは空気に呑まれる前にさっさと身支度を済ませてタイムカードをきった。
絶対に譲れない条件で選んだ唯一の仕事だからこそ、今さら心が折れるなんてゴメンだ。
「安城さんは大丈夫?」
隣で見ていた女性社員が声をかけてきた。たぶんヒカリと同い年。
「大丈夫です、来週もよろしくお願いします。」
「それは良かった…。」
あまりに辞めていくので、警戒されたのだろう、めちゃくちゃホッとされた。
「生活掛かってますんで、あとは…慣れです。」
「慣れ? 安城さんは、工場の経験者なの?」
「まあ、そんな感じです。」
「それは心強いです!!なんか元気そうですもんね~!」
「………は、はい。」
そのうち後述するが、そもそもドライバー職の前職は長時間労働、もといブラック企業だったのだ。今は疲れよりも、8時間で定時退社できる喜びを噛み締めているくらい。
元気というか、タフネス?どっちにしてもマヒしてる…。
「次回も頼りにしてますね~!」
「あ…、ああ、ありがとうございます…、お先に、失礼します…。」
お世辞なのか、本心なのか…。
ともあれ、辞めるなんてヒカリには関係ないことである。
苦笑いしながら工場を後にした。
絶対禁句だけど。
ぶっちゃけ、キツくて有難いって思うこともあるんだなーとか、スカスカな商品やステルス値上げの企業努力の有り難みとか、あまり世間では良いこととは言えないことに関心していた。
高いなと感じる1個¥300前後のスイーツやお弁当がこれらの労働でできてることや、その値段で何百人の作業員の生活を支えてるってことが、単純にめちゃくちゃ凄いと思った。
最低賃金レベルとか思ってゴメン。
ヒカリと同じように、減収で働く世代。
奨学金やお小遣いのために残る学生。
家族のために働く親。
老後のために稼ぐ中年や定年間近の人たち。
イヤでも働き続けないといけない時もある。
奇跡的に、今のヒカリにとって、この仕事が合っていた、というだけのことである。
「身体が動けるうちは、続けよう…。」
コンビニの求人誌を握りしめる。
中年や定年間際になっても同じ求人、同じ作業があるかなんて分からない。今ほどの体力も絶対にない…。
改めて『働く』って難しい…。
翌日。
決意も新たに固めた月曜日の夕方。
「~~~ッ!(泣)。」
まさか動けないとは…。
本業が運動不足の職業とはいえ、背中までめちゃくちゃ痛い。
今日は本業の仕事日ではあるが、休んだわけはでなく、仕事が無いため自宅待機のまま1日終わった。閑古鳥で助かった(汗)。
「ブラックが懐かしい、なんて思う日が来ようとはあ…。」
膝裏、立ちっぱなしの伸びきった筋肉がズキンズキンする。反対に旬の鯖みたく
足の裏、普段より薄い靴底のおかげでコンクリート床の硬さをダイレクトに受けてしまいタコになっていた。…靴底買おう。
背中、前屈みの体制で何時間も過ごした結果猫背で固まる。肩と首も同様。
「ジムだってこうはならないよ~(泣)。」
趣味のスポーツと仕事の体力は別モノ…。
と、改めて実感した1日であった…。
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