第3話 本業の話

 創業45年『尾張ツクモ工務店(株)』。

 安城ヒカリは22歳でこの会社のある『尾張ツクモ運輸(株)』のトラック運転手として入社した。

 『尾張ツクモ工務店(株)』とは愛知県の某所で建築資材の製造・販売を行う中小企業である。

 小さな会社で輸入・加工・販売一通り行うので、県内では『困ったらツクモに相談』と言われるくらいに有名らしい。その建物に隣接されているのがヒカリがいる『尾張ツクモ運輸(株)』である。

 もっと分かりやすく言うと、『尾張ツクモグループ』の『工務店』と『運送会社』。

 創業者のツクモ会長の“小さな会社でもノウハウが集まり支えあえば大企業にも時代の荒波にも負けない。”という理念から生まれたらしい。

 ヒカリが勤める尾張ツクモ運輸(ツクモ運輸)はグループでも特に小さい会社である。社員は15人。主な仕事は隣のツクモ工務店からの発送と契約している企業貸切のチャーター便。そしてヒカリの担当である、工務店の工場で作った商品をお客さんのところに直接運ぶ『地場配送便』。


「トラックだけじゃなくて、重機の免許も必要だよ?クレーンとかフォークリフトとか…。」

 面接をしてくれた守山所長とツクモ会長も目を丸くしていた。

 最近は『トラガール』なんて言葉もあるが、トラック運転手といば長時間労働が当たり前、体力仕事のイメージが強い業界である。そもそも会社自体に女性が在籍していないなんてこともあるので、募集に20代の女性が来るのはレア中のレアケースだ…。

「一応、経験者募集の求人なんだけど…。」

 守山所長は頭を抱えた。

「人材が欲しいと言っても、“経験者”の若手が欲しいんだよね。」

 唸る守山所長にツクモ会長がまぁまぁとお茶を渡す。

「その“人材”も法改正でほとんどがおらん。経験者ってだけでも取り合いやのに。今の20代は免許に中型どころか準中型もMTも無いしなぁ…。」

「それは分かってますけど、男性社会ですよ。うちも手作業で重たい荷物運ぶことありますし…」

 あーでもない、こーでもないと、

「どれぐらい覚悟してるの?」

 真剣な眼差しで2人は聞いた。

「正直、体力に自信ないですが、フォークリフト免許は取得済みです。」

「ほう」

「求人も経験者募集がほとんどなので、いっそやるなら20代のうちに経験を積んでおいたほうがやり直しも利くと思います。」

「たしかになー」

「この会社の求人のためにトラックの免許取りました。他の会社は考えてません。」

「改めて聞くと、本当に思いきった行動だね。」

 学歴・職歴の欄を見てツクモ社長は苦笑した。

「色々大変かもしれないけど頑張って。採用します。」

 

 

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