告白

 遠く葵を離してしまった茜はバスを止めて待っていた。

 東部・桜育成所に入学してから一度も二人っきりで出かけることが無かった。

 そのためか茜は完全に舞い上がってしまっている。

 育成所ではカリキュラムも何もかもが男女別だ。

 そもそも話すこと自体相当久しぶりで、葵から電話がかかってきたときはびっくりした。

 葵の姿が見えたため、大きく手を振り叫ぶ。


「葵!早く来てよ!バス、待っててくれてるんだからさ!」

「ハァ...ハァ...。わかったよ!!茜ちゃんが早すぎるんだよ...。」


 ようやくバスに乗り込んだ二人。

 車内に人は全くおらず、一番うしろの席に茜が座ってその前の席に葵は座る。

 バスはゆっくり発進し、無機質な機械音声が次の停車駅を伝える。


 二人はいろいろな話をした。

 ルームメイトのことや進路のこと。

 葵が聞き役に徹してくれて茜も話しやすかった。

 話題が進級テストになり、葵が茜に問いかける。


「そういや、茜ちゃんは進級テストどうだったの?オレは全然ダメだった...。」

「私もダメかも。でも、全部埋められたからなんとかなるかもね。」

「全部埋めた!?あんなありえない問題数、埋められるわけないだろ。ついに茜ちゃん不正したか?」

「してないよ!!今回からコースも選択できるようになったし、成績開示もされるし、頑張ったんだよ!」

「オレはどうせ定員割れしたコースしか入れないしどうでもいいや。それより今年から成績開示あるのおかしくね?去年まで無かったじゃん。」


 育成所では毎年、進級前にテストが行われるが、今年は高等部に上がるということで特別だった。

 大学の学部・学科のように自分が学びたいカテゴリーを成績順に選択することができるのだ。

 茜は育成所内で最も人気のある「政治家コース」に入りたかった。

 政治家コースに入った先輩たちに話を聞きに行った茜だが、ほとんどコネや賄賂で入った人たちばかりであった。

 このような腐敗した状況を知り、茜は育成所を運営する「愛国党」の本部に実態を伝え、ダメ元で試験の改善を要求したのだ。


「なんか、一部の生徒が成績開示するように要求したらしいぜ?ホント迷惑な話だよな?」

「............。葵がちゃんと勉強しないのが悪いんだよ。そんな終わったことよりさ、もうすぐ誕生日でしょ?葵。」

「ん?誕生日プレゼントでもくれるの?今まで祝ってくれたことすら無かったじゃんか。」

「今年はの誕生日を祝いたい気分になっただけだよぉ?リコちゃんとかココロちゃんとかも呼ぶから遊園地でも行こうよ。」


 林道をバスがのんびりと小刻みに揺れながら進む。

 窓を開けて進行方向を見ると、遠くにうっすらと第八地区特有の高層ビルが見えた。


「いや、遠慮しとくよ。オレにはカノジョが出来たからね!4月27日はもう予定埋まってます~。」


 茜は葵がウソをついているとすぐに分かった。

 大体、葵は見栄っ張りで虚言癖がありすぐ顔に出る。

 そんな葵を無視して茜は次の話題を探す。


「茜ちゃん、ホントだって!!今朝、手紙入れに入ってたんだよ。実物もあるよ。ほら。」


 葵はリュックサックから封筒を取り出す。

 間違いなく自作自演だと茜は思った。

 勉強もできず、大してかっこよくもなく、妹をいまだにちゃん付けで呼んでくる葵にカノジョなんてできるはずがない。


「葵、この手紙まだ開けてないじゃん。しかもどう見てもラブレターっぽい見た目してないんだけど。」

「はいはい。茜ちゃんはこのオレにカノジョができるのが想像できないんだね!ってオイッ!!」


 調子に乗っている葵に腹が立ち、茜は強引にその手紙を奪い取る。


「どうせドッキリかなんかでしょ。手紙開けるね?」


 葵から奪い取った手紙を乱雑に開ける茜。

 中には1枚の紙が封入されていた。


『神宮寺様


 拝啓 花が咲き誇り過ごしやすい暖かで陽気な季節、ご健康でいらっしゃることでしょう。

 こうして手紙を読んでいるということは、無事この手紙があなたがたに届いたということでしょう。

 本題に入りますが、私はあなたがたご子息に告白することがあるのです。

 私は神宮寺様のご両親を存じております。

 20年ほど前に私は彼らと知り合い、ともに様々な活動をしていました。

 彼らは人徳がある方で、将来的にこの国を救う人であると考えていました。

 しかし10年前、彼らは殺されてしまった。いや、

 あなた方にはすべての真実を知ってほしい。そしていつか、』


 それ以降は丁寧に破かれていた。


「次は第八議会前、終点です。」



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