暗殺兄妹 操られるものたち

かみそん

ラブレター

 「パタパタパタパタパタパタパタ」


 早朝から大きなヘリの音が響き渡り、神楽坂 あおいは目を覚ました。

 先日行われた進級テストがからっきしダメであり、ストレスで寝不足だったためにすぐ二度寝した。

 数時間後、再び目を覚ました葵は朝食を食べに寮の真横にある食堂に行く際、部屋の前にちょこんと置いてある薄い茶色の手紙入れの中に黒い封筒のようなものが丁寧に入れられていたことに気がついた。

 通常、この手紙入れは指導官が毎朝寮の部屋ごとに一日のスケジュール表を入れるためだけのものであるため、葵はラブレターかなと冗談のように思っており、スルーしていた。


 

 東部・桜育成所は進級前の長期休暇に入った。毎年ルームメイトは各々実家に帰省するが、葵には帰る場所は無かった。

「あんなのところに帰ってたまるか」と毎年のように葵は言っているが、妹のあかねはマコトの家に帰るのであった。

 葵は育ててくれた坂本マコトには感謝はしている。

 だが、マコトは茜ばかりを可愛がって、いつも自分は叱責されていたという記憶がこびりついている。

 しかし、今年は茜も寮に留まっている。「マコトさんと二人きりになると、なんか心苦しいし。」という理由だからだそうだ。


 そんなこんなで現在寮にいる生徒は葵と茜しかいない。

 葵はせっかく妹と二人きりだし、試験の出来とかいろいろ聞きたいことがあったから、部屋に備え付けられている電話をかけて茜を昼食に誘うことにした。


「もしもし...。葵?どうしたのー?」


 寝ぼけた声で電話に出た茜。部屋中に波のBGMが爆音で流れているようで、なんかうるさい。


「茜ちゃん?もしよければ久々に一緒に昼食べない?」

「いいよー。じゃあ10分後に女子寮の下に来てね!」

「10分後ってまだ10時じゃ...オイッ!」


 一方的に電話を切られた。仕方ないから急いで準備をする。

 妹の前ではかっこいい兄でいたい。そんな思いが幼いころから潜在的に存在していたため、無駄に身だしなみを整えていて時間がかかった。

 部屋を出て待ち合わせ場所に行こうとして部屋を出た際、手紙入れの中の封筒を思い出した。

 開けてはいないが、たぶんラブレターが来たということでそれを妹に見せびらかすためにその封筒もリュックサックに入れて持っていった。


「遅いよ葵。せっかく待ってたのに全然来ないから男子寮の前まで来ちゃったじゃん。」


 男子寮を出たらすぐに茜はいた。


「ごめんごめん。ちょっとトイレ行ってたわ。てか、今何時だと思ってんの?」

「え?10時30分でしょ?お昼食べに行くんだったら第八地区の味噌ラーメン店だよね?」

「何言ってんだ茜ちゃん。第八地区ってここから2時間くらいかかるじゃん。俺行ったこと無いし。食堂でいいじゃん。」

「は?ふざけんなし。じゃあ一人で行くね。せっかくと一緒にデートできると思ったのになぁ。」


 茜が大きな目をさらに大きくし、背伸びをして葵の目を見つめて言う。

 もうこうなったらもうお手上げである。


「ハイハイ...。わかったよ...。行けばいいんだろ?茜ちゃん、案内してよ。」


 葵は赤面して言う。

 正直、茜は可愛くなりすぎたのではないかと葵は思っている。目がパッチリしていて真っ黒な髪の毛はサラサラ。ちびっこいけれどどこか大人びている。


「やったね!じゃあいつも行ってるようにタカハシくんを呼んで...あぁ!今日は祝日だからいないかぁ。しょうがない、バスで行こう。」

「あぁ、いいけど...。ってかタカハシって誰だ?茜ちゃんの彼氏か?」

「何言ってんの??そんなわけないじゃん。もしかして私、タカハシくん紹介してなかったっけ?今度会ったら紹介するね~。」


 ちょっと怒った表情で茜は言う。


「ほら、ちょっと先にバス停あるから。早く行くよ!」


 茜は走り出す。

 置いていかれないように葵も走るが、一瞬で離されてしまった。


 季節外れの暖かさで雲ひとつ無い天気の今日。

 これから暗雲が立ち込めるなんて知る由もない無邪気な二人であった。

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