第4話何しに来たんだ?

婚姻の儀式をしたということはキエルとローラふたりだけの秘密だった。

「天使と悪魔の結婚なんて珍しくないではないか」

「なんで、ボディーガードに来て婚姻しなければならないんだ……」

キエルの飄々ひょうひょうとした様子とは裏腹にローラはメンタル的にすでに疲れ切っていた。

そうは見えないが、ローラは数々の任務をこなしてきた、最も優秀な悪魔だった。

それが、1人の天使に振り回されているのはキエルの才能からなのだろう。


朝食の時間になり、キエルとローラは食事を始めた。

「あの……キエル姫殿下きでんか……」

「どうかしたか?」

「朝からすき焼きですか……?」

ふたりの目の前にはぐつぐつと煮える鍋が置かれていた。

「国を治めるとなれば、これくらい食べなければ体力が持たないのだよ」

ローラは呆れながらも、すき焼きに手を出した。

「う、うまい……」

「当たり前だ。魔天界を治めるすき焼きだからな」

理由にはなっていないが、ローラは夢中になってすき焼きを食べた。

鍋はあっという間にからになった。

「おかわりはいるか?」

「い、いえ、大丈夫です。もう、こんなの食べたら他のすき焼き食べられなくなるかも……」

「それにしても、人のベッドに寝るわ、婚姻するわ、朝からすき焼き食べるわで、ローラは何しに来たんだ?」

「ボディーガードだよ! 全部貴女の仕業でしょうが!」

ローラは危うく自分でも忘れかけていた。

「そういえば、そうだったな。私様わたくしさまの誕生日は二日後だぞ。しっかり、守ってくださいよ? 私の……」

「言うな……」

殺害予告よりも婚姻させられてしまったことがローラには何よりも悩みとなってしまった。

「ボディーガード様って言っちゃいけないのかな?」

「くッ!」

またしてもキエルに騙されたことにローラは腹が立ったが、キエルはローラの早とちり癖を完全に把握仕切っていた。

キエルは口角を微かに上げた。

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