第3話一夜のできごと

「ローラ。なぜ、キミは私の寝室に居るのかな?」

キエルは純粋に疑問に思ったらしく、ローラに問いた。

「寝込みを襲われる可能性もあってのことです。すみませんが、我慢してください」

「人に見られて眠るのは趣味ではないのだが」

「私も睡眠を観察するのは苦手です。しかし、警護となれば別です」

「なら、一緒に寝よう。そっちの方が確実だな」

姫殿下きでんかは少し、不用心ではありませんか? 私が犯人の可能性だってあるんですよ」

「何? ローラが犯人なのか? なら、今すぐメイド戦闘部隊を呼ばねば!」

「た・と・え・ばの話です!」

ローラの額には血管が浮き出ていた。

「わかりましたよ。一緒に寝ますよ」

嫌々、ベッドに入るとランジェリー姿のキエルが涅槃仏ねはんぶつのように寝転んでいた。

「ローラ……おいで……」

「…………」

ローラはキエルに背を向けて、横になった。

「それで私を守れると思っているのか?」

キエルがローラの背にピッタリとくっつき、腰を撫でてきた。

その撫で方が無駄にいやらしい。

「そんなこと、どこで覚えてくるのですか?」

「帝王学」

「そんなことまで教えるのか帝王学……ひッ!?」

「悪魔の羽は天使みたいにふわふわしてないのだな」

キエルはローラの小さく折りたたまれた羽を開いたり、閉じたりしていじっていた。

ローラはキエルに向き合って、言った。

「羽をいじらないで!」

「なんだ? そこが弱点だったのか? ピュアだな」

「いや、その……」

「元恋人に羽プレイでもされたか?」

「断じて違う!」

「まあまあ、私は秘密を守る主義なのでな安心しろ。お詫びに私の羽を触ってもいいぞ?」

キエルがローラに背を向け自分の羽を見せつけた。

目の前に純白の羽が現れ、思わず、ローラは胸が昂った。

天使と関わることがあまりなかったローラにとって、その羽に触れることに抵抗があった。

ふざけた性格とはいえ、国を治めている天使のモノだ。

それに触れられるのは限られているだろう。

「どうした? 怖いのか? ローラ・マルキフ」

フルネームで呼ぶことで煽っていく。

ローラは呼吸を整え、覚悟を決めた。

「触りますよ……」

純白の羽に触れた瞬間、電流が走ったかのような衝撃を受けた。

(これが天使の羽!? なんてふわふわしているんだ。手が包み込まれそうだ……)

ローラは羽を広げたり、閉じたり、何度も触れた。

羽に夢中になり、キエルの様子に気付いていなかった。

「あ、いや、ローラ……触りすぎ……だぞ……」

キエルは顔を真っ赤にし、肩が震えていた。

「は!? す、すみません、あまりにも気持ちよくて」

「そういってもらえるのは光栄だが、限度というものがあるぞ」

「これに関しては私が悪いです」

ローラはベッドの上で土下座した。

「顔を上げろ。ローラ・マルキフ」

キエルの声は聴いたことがないほどに優しく、まさに天使のようだった。

「ほら」

ローラの手に純白の羽を乗せた。

「これを私だと思い、持っていてくれないか? いつでも私を思い出せるように……」

「キエル……様……」

ローラは思わず涙を流しそうになったが、あることに気が付いた。

「あの、天使が相手に羽を渡す行為って……」

「もちろん……婚姻の証だが?」

羽を持つ手が震えてきたローラはそれを窓から投げ捨てようとするも。

「そんなことをしてみろ? お前は国中から恨みを買うことになるぞ? 王の申し出を断り、神聖な羽を投げ捨てたとしてな」

キエルはゆっくりとローラの手を取り、言った。

「お前を逃がさないからなローラ・マルキフ」

ローラの顔が蒼白になっていった。






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