4-8

 次の日の、朝の通学路。……路と言えるのか分からないが。

 昨日に引き続きまた、畑の中を歩いているわけだが……。

 こうして周りをよく見てみると、いくつも人影が見えた。

 遠くに。近くに。各々の目的地へ行く人間の、歩く姿があった。

 その中には小中学生の姿もある。

 こんな右も左も分からないような視界の中で、小学生は迷わないんだろうか?逆に子供の方が、感覚で乗り切れたりするのだろうか?

 そして、成長する頃には、もう道を覚えているというやつなのかな……。

 今、隣を歩く太知の頭にも地図のようなものがあって……それで迷いなく歩けているのだろうか?

 俺もこのまま生活を続けていれば、そうやってこの町を何気なく歩けるようになるんだろうか?


「…………」


 ……ふとそんな、この生活を長い目で見ている自分に違和感を感じた。


 ◇ 


 その日の学校も、何のことなく授業を受けた。

 昨日は無かった体育の時間があり、外で二時間運動に勤しんだ。

 グラウンドを囲う網の向こうに向日葵がずらりと並んでいるのは、少し圧迫感のある絵だった。

 授業が終わり、教室に帰る際……次に体育を受ける三組と四組が、グラウンドへ向かっていた。

 その生徒たちの波とすれ違うときだった。

 ……ふと、引っかかったことがあった。

 生徒が仲の良い者同士で、複数のグループになっている。それはいつも通りなんだが……。

 俺が普段見ていたグループ構成とは、どこか違って見えた。


「……?」


 じろじろ見るのも変なので、通り過ぎた後で思い比べてみるが……自信がなかった。

 たった今まんべんなく生徒を見たわけではなく、そんなにはっきりと記憶しているわけでもない。

 小さく鼻を鳴らして、校門から覗く向日葵を横目で眺めつつ、玄関へ向かった。


 ◇


 そして放課後。

 太知いわく……「今日は部活あるから」との事だったので、一人で帰ることになった。

 心細さが残るが、往復で計三度も通ったため、家の方向は覚えていた。

 

(校門から出て右斜めに行くと、いずれうちに着くんだよな……)


 そう頭で確認する。

 そして他の帰宅する生徒にならって、畑に侵入した。

 そのまま黙って歩みを進めていく。

 時々不安になり周りに誰か居ないかと見渡しては、まだ結構人が居る事に安心するのだった。

 そうしていると、向日葵の終わりが見えてきた。

 知らない家だったらどうしよう……。という俺の懸念とは裏腹に、当然のように我が家が現れた。

 

(ああ……良かった……)

 

 と思うのもつかの間、家の前におばあさんが立っているのが目に入る。


「あらどうもぉ」


「あ、ど、どうも……?」


「ごめんなさいねぇ。花畑の中で休むわけにもいきませんで、ちょっと休憩させてもらってたんです」


「ああ……」


 たしかにこの中じゃあ、休憩とはいかないよな。


「……あのー……よかったらこれ、どうぞ」


 庭から、木製の椅子を持ってくる。

 親父が去年、日曜大工で作ったものだった。実は俺も少し手伝った。


「あらあら、いいんですか?ありがとうねぇ」


「いえいえ」


「優しいねぇ、お兄さん」


「ははは……」


 なるほど。この世界、こういうこともあるのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る