4-2

 四月の末の土曜日。

 俺は家に居て、その日親父と裕子さんは出勤していた。

 部屋に籠って、漫画を読みふける。

 その日は古本を何十冊も用意していた。

 これを一日かけて読破することを想像すると、胸が躍った。


(ピンポーン)


 インターホンが、下の階から微かに聞こえて来た。


「……」


 なんだ、こんな午前中から迷惑だな。

 両親も居ないことだし、どうせ大した用じゃないだろうな。

 俺は、居留守を使うことに決めた。


(ピンポーン)


「……」


 居ませんから、はやく行ってくれ……。

 俺になにも気にさせないでくれ。


(ピンポーン)


「…………居ないってば」


(おおーい、一樹ぃー?)


「……」


 ……太知?

 今日は、約束していないはずだったのに。

 ずるずると布団から出て、下に降りる。


「……どうした」


 玄関を開けると、困った顔の太知が立っていた。


「一樹、まだ寝てたの?」


「ん、まぁそんなとこだ」


「駄目だよ。こんな昼まで寝てちゃあ」


「うん」


「……なんかね。さっきすれ違った板垣くんと畑くんが、一樹のことを探してたんだよ」


「……はぁ」


「心あたりある?」


「探すもなにも、俺は今日の遊びを断ったんだが」


「……約束してたの?」


「昨日の夜連絡したんだよ。気分じゃないから、行くのをやめるって」


「……それは、……ちょっと急だよ」


「まぁ、かもな。でもしょうがない」


 一人で休日を過ごしたい気分だったんだ。そういう日はよくあるんだ。


「……それじゃあ、僕からはなにも伝えなくていいんだね?」


「うん、なにも」


「そう……分かったよ」


 太知は一瞬手持ち無沙汰に、視線を俺の背後に運んだ。

 それから一歩足を引いた。


「じゃあまたね」


「ああ……」


 玄関を閉じた。

 家の中の静けさを感じながら、自分の部屋にそそくさと戻った。

 それからむさぼるように漫画に目を通し続けたのだった。

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