3-5

 次の日、太知は俺より先に学校に行くと言って別々に登校した。

 俺はいまだに太知の変わりように困惑していて、悶々としながら一人歩いた。

 学校に着いて、教室に上がろうと階段を登ると……。

 普段より騒がしい、廊下の様子に気づいた。

 ……俺は思った。

 きっと太知はもう……野中に伝えたのだ、と。

 そしてこのざわめきの感じは、それがいい結果で終わったことを予感させた。元は野中の方から告白したのだから、そうなるのは納得だが。

 俺は太知を探す。

 教室に入るとすぐに目に入る、太知が複数の男子に囲まれているのが。


「なぁ眞田はなんでさ、昨日すぐオッケーしなかったの?」


「それは、事情があったんだよ…………あっ」


 太知が俺に気づいてこっちに来る。


「一樹」


「おう……」


「僕、言ったよ」


「お、おう」


「野中に早くに来てもらって、皆が来る前に伝えたんだ」


「そういうことで先に登校したんだな。……で、良い返事だったんだろ?」


「うん」


「まぁそうだろうよ。……それで、その野中はどこに居るんだ?」


「なんか友達に報告して回ってるよ」


「……あいつは……」


 はしゃいでいる姿が目に浮かんだ。

 だが良かったと思った。あれだけ熱心に思っていたのが報われたんだから。


「本人が広めていて、それでこの広まりようか」


「うん。まぁ悪い気はしないけどね」


 目を細めて、へへへ……と頭をかく太知。

 こいつも大概だなぁ……。なんだか、あほなカップルが誕生してしまったかもしれない。


「はぁ……今回の件で分かったが……お前はなにかと言葉にしないきらいがあるな」


「……それは、一樹だってそうさ」


 後頭部に当てていた手を降ろして、そう言って来る。


「……俺も?」


「まだ、言葉にしてない気持ちがあるんじゃないの?」


「え……それって、一体……」


 太知は、廊下の奥を見る。

 俺もその方向に目をやる。

 ざわめく廊下に立つ、同級生たち。

 その間から見えたのは…………青八木の後ろ姿。


「青八木さん、髪伸びたね」


「ん?うん」


 髪は、肩よりも少し下まで下がっていた。


「似合ってるって、言ってこれば?」


「は?なんだそりゃ。そんなの変なやつだろ」


「…………」


「……なんだよ」


 太知は俺の顔を見て、それから腕を組んで「うーん……」と、目を伏せた。


「あのな、俺は別に……」


 俺はもう一度、ちらりと見てみる。

 しかし次は、他の生徒たちの姿に遮られて見えなくなっていた。

 

「別に…………いや……その」


 そう言いかけたままで、次第に顔がうつむくいていく。

 いつのまにか俺は、溜息でも出そうな気分になってきていた。

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