3-3

 ____それから数週間が経ち。

 季節は十月の後半になった。

 この時期の学校行事と言えば、文化祭だった。



 高校生活初めての文化祭。

 その一日目。 

 午前中俺は、クラスの出店の店番をした。

 そして午後から、太知と二人で色々とまわったのだった。

 流石に中学の頃よりもできることの幅が広がっていて、なかなか遊びごたえがあった。

 午後三時頃。

 遅い昼食を、適当な出店で食べた。

 それから中庭の芝生に座って、だらだらと喋り始めたのだった。


「……うちの学校。カップル、結構多いんだな」


「そうだねぇ」


 男女の二人組が前の景色を横切って行くのを、何度も眺める。

 そうじゃない生徒も大勢居るのだが、そこに目が行きがちになる。

 すると俺は、ふと例の件をおもいだしてしまうのだった。

 

「…………」


 隣の太知は、ただぼーっとしている。

 よく考えればこいつは、何を考えているのかわからないところもある。

 

「そういやさぁ」


「んー?なに?」


「……その、思ったんだが……」


「なに……?」


「野中ってさぁ、お前の事……好きなのかな」


「……」


 太知は俺の顔を見た。

 そして、芝生に手をつく。


「さぁ……どうなのかな?」


「俺の考えでは、好きなんじゃないかと思ってるんだよ」


 ここではそういう事にしておく。

 というか誰がどう見ても、そうだと思う。


「どうしたの急に?普段そんな話しないじゃん」


「いや、文化祭だからさぁ」


「いや関係ないよね……?」


「でも本当に、きっと好きなんじゃないかって思うぞ。……お前は、どうなんだ?」


「僕?……僕は……」


 目を伏せて、少し考える。


「……そうだね、全然嫌いじゃないよ」


「……ぜんぜん……か」


「うん。全然嫌いじゃない」


「むしろ本当は、好きだったりしてな」


 ははは……。と、俺が冗談のように言う。


「……」


 太知がまた俺の目を見る。


「……うん。……好きだよ」


「……え?」


 俺は呆気にとられる。

 太知はというと、息を吐いて肩を沈ませた。


「えー……っと……?あれ?」


 好き……なのか?

 こいつ、野中のことが。


「……あ、青八木さんだ」


「え……」


 言われて、見ると。

 前方遠くを青八木と、その友達らしき女子が歩いていた。

 楽しそうに、ドリンク片手に話している。


「……いや、違う。そうじゃない、ごまかすなよ!」


「別に誤魔化してないよっ、さっき言った通りだって」


「…………好きなのか?」


「……うん」


 照れながらもすんなり頷く。

 俺はやっと、そのことを飲み込める。


「……なんだよ……そういうことだったのかよ」


 二人は両思いだったんだ。


「じゃあもう、告白しちまえよ」


「いけるかなぁ」


「いける、絶対」


「そう思う?」


「うん……」


「そっかぁ」と太知がつぶやくのを聞きながら、視線を前に向ける。

 なんか、あっけなかったが……これでよかった、よな?


「じゃあさぁ、一樹」


「ん?」


「一樹も、気持ち伝えなよ」


「あ、え?……俺?」


「うん」


「……つったって、俺には……」


「居るでしょ?……ほら」


「…………」


 指差された方を見ると、そこには、青八木が居た。


「……違った?」


「……いや、俺は。…………別に」

 

 視界の前の校舎の壁に置かれたベンチに、青八木たちは座っていた。

 向こうがこっちに気づく前に、視線を外す。


「きっと手、降ったら返してくれるんじゃないかな」


「どうだかな」


 視線は外したままに、呟いた。

 そんな俺を見て太知が苦笑いをした。


「じゃあ、まぁ僕は……二日目にでも彩を誘ってみるかな」


「この後すぐ、言えばいいじゃないか。今日もあと数時間あるんだし、二人で回ってこればいい」


「……でも、それだと一樹が一人になる」


「いいよ、俺は。ここでぼーっとしとくよ」


「……そう」


 太知は、少し考える。


「でも、いいや。今日は一樹と居るよ。今日の夜、誘ってみるさ」


「……ふぅん、そうか……」

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