3章 アナザーシーズン

3-1

 始業式の日は、やけに寒い風が吹いていた。

 残暑をさらっていくような涼しい風が、朝から時折吹き付けた。

 太知と共に、自分の教室がある階へと上がっていく。

 その道中、生徒の喧騒が久々に校内を包んでいるのを聞いた。

 教室の前で話している生徒も多く、手前の一組の入口の前まで、人混みで溢れていた。

 教室の中でも、複数のグループが盛り上がっている。

 とりあえず俺は自分の席に荷物を置き、近くの席の男子に、「ひさしぶり」とか言ってみるのだった。

 それから太知のところに行って話していると、担任が入ってきてすぐにチャイムが鳴った。

 朝のホームルームでは担任が、どこかの部活の大会の成績を褒めたりしていた。だが正直、まだ早起きに慣れないせいで、ひたすらに眠いのみだった。

 それから俺達は、始業式のために体育館に移動した。

 


 全校生徒がズラリと椅子に座る。生徒が小声で話す声が、かすかに響いていた。

 俺はふと、視界の端で小さく頭を動かす生徒に目をやった。

 それは……隣の女子と楽しそうに話す、青八木だった。

 声を潜めて、くすくす笑っている。

 ……俺は、なんというか……。

 凄いな、と思った。

 見た所あれは、高木の周りの女子ではない。

 青八木はもう新しい交友を作っているんだ。新たな自分として、すでにスタートを切っているのだ。

 やはり、彼女は凄いやつだ。

 同級生の前で羨望の眼差しを送るわけにはいかないので……俺は心の中でその気持ちを留めて、普通に始業式に参加した。

 式が終わるとクラスごとに教室に戻る。

 そうして、担任が二学期のクラスの学習方針を話し出す。

 それが済めば、全員から夏休みの宿題を回収し始める。

 そのまま、流れるように帰りのホームルームも終わって、全員がガヤガヤと帰り始めた。


「太知、帰ろうぜ」


「うんー」


 太知と、教室を出る。

 二人で廊下に出ると、下校する生徒が教室前に溜まっていた。

 奥の三組の方は、特に人が多いように見える。

 皆、朝はだるそうに登校してきて……けど放課後になれば騒がしく下校していくのだ。

 これがまた数か月続くんだなぁ、と思いながら廊下で太知と話していた。

 だが……。 

 普段通り、だとは思うのだが……。

 俺はまだなんだか、奥の集団が気になっている。

 ふとその集団から、笑い声が上がった。


「なんだろう?やけに盛り上がってるなぁ」


「だよな?一学期のときは、あんな女子の大所帯なかった気がするんだが……」


 だからと言って、それがおかしなことだという事はないけれど……。


「……ああ、なんだ」


「ん?」


 納得したような顔で、人の合間に向かって指をさす太知。


「青八木さんじゃないの、あれ」


 太知の目線がさす方を見てみる。

 複数の集団の先の、一番大きい輪の中心に居る数人の女子。

 その中に、確かに青八木が居た。

 高木たちとまた居るのかと一瞬考えたが、そうじゃなさそうだ。

 なぜなら高木と三人の女子たちは、離れた所でまた別に固まっていた。


「それにしても驚いたよー、夏休み開けたらアオイちゃんがイメチェンしてるんだもん」


「イメチェンって……髪型のこと?」


「性格だよ性格!なんか明るくなったじゃん?」


「えー、私そんなに暗かったかなぁ」


「暗いっていうより、なんか大人な雰囲気だったよねー」


「うんうん、もっとクールな感じだった」


 青八木と三人くらいの女子が話していた。

 周りからそれを見ている生徒が居て、笑ったり、たまに会話に参加している。


「いやぁますます人気者になったねー、青八木さん」


「ああ……だなぁ」


 考えてみれば当然だ。

 元々青八木は他の生徒から一目置かれる存在だった。

 それはきっと、大人びた雰囲気と見た目の良さによるものだったと思う。

 誰にも気さくなところもあったし、そんな彼女がより社交的な性格になったのなら……周りがこういう反応になるのも、自然なのかもしれなかった。

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