2-16

 やはりというべきか。夏休みも残り少なくなってくると、一日一日が惜しくなってくる。

 もう二学期までのこり、一週間となってしまった。

 午後の四時。

 無為に過ごしてはならないと、一人で居る時も何かしていたくなる。

 しかし思いついたのはせいぜい勉強するか外に出ることで。宿題はもう終わっているので、俺はウォーキングに出かける事にした。

 外に出ると、もう、日が大分傾いている。

 今日はだらけて過ごしたつもりはないのに、なんだか惜しい気持ちになってしまう。

 そしてとぼとぼと、歩き始めた。

 六時近くなってくると部活を終えた奴らが下校してくるので、それまでには家に戻ろう。

 ……いや、なんとなくね……。

 にしても太知は……夏休み終盤でも部活有り、かぁ。

 青八木は、部活に入ってないから今日は暇だったのかな?

 向日葵畑の向こうに居たりするかな。

 そういや、しばらくあいつとあそこで会ってない。

 俺が行かないだけかもしれんが。


 ◇


 ということで、畑まで来て、その向こうまで来てみたわけだが。

 青八木は居なかった。

 ……なぁんだ。

 でもまぁ、そりゃそうか。

 いつもここに居るなんてわけもなく。家に居る事の方が多いだろうし。


「ふう……」


 ベンチに腰掛ける。

 少し暗い空の具合を見て、日が短くなっているなと思った。もうこの時間になると、少しだけ暑さが緩くなってきている。

 こんな風に夏が終わりに差し掛かっていることを、真剣に物悲しく思ってしまう。  

 それは毎年少なからず感じるものだが、今年はなんだかやけに切実だった。

 ……なんでなんだろう?そう思いながら、空を眺める。

 そうすると、耳に入る波の音に意識が向いていく。

 …………海、か……。

 今年は、休みの始めの頃に一人で行っただけだったな。

 きっともう同年代のやつらは、近場の海に飽き飽きしている。そうして外に興味が向いているのだ。

 俺もすっかり、海に入ることが無くなっている。

 別にそれでいいのかも知れない。

 多分、そういうもんなんだな。


「…………」


 もう帰ろう。

 そう思って、立ち上がった。

 そうやって見えた海の、手前を走る道路。

 その歩道と砂浜を区切るコンクリートの塀に、ひとが一人寄りかかっている。

 それが見えたとき、俺はすぐに誰なのか理解した。

 

 ____青八木。


 俺はこの町で、夏休みに一人であんな風に海を眺める高校生を、彼女以外に知らなかった。

 西日できらつく海面と、それを眺める、白いワンピースを着た青八木。

 ワンピース。そんなものも着るのか、と意外に思った。

 よく見るとスカートの裾の部分に、模様が刺繍されている。詳しくは見えないが薄緑色の糸で、控えめに植物のようなものが縫ってあるように見える。

 今の彼女は、まるで少女のような雰囲気をまとっていた。

 いいや違うな。その感じは、最近の表情からも受け取ることができた。それに服装が追いついただけか。

 そうやって俺は少しの間、青八木の後ろ姿を見ていた。

 だがふとした時。

 ……そんな自分にはっとして、すぐに畑を引き返したのだった。

 空腹を感じながら家路を辿った。

 今日ももう終わる。町を包む夕暮れがそう感じさせた。

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