2-15

 簡潔に言えば、補習を受ける羽目になった。

 竹内から電話が来た次の日に、六時間分の授業を受けさせられた。

 授業と言ってもひたすら六教科のプリントを解かせるだけの、どう考えても手抜きのものだ。

 しかし、ちゃんと回答しなければ説教が飛んでくるので、厄介な時間が長ったらしく続いたというわけだ。

 だが……。

 そんな状況よりも、気にしなくてはいけなかったのは。

 辻井が、ずっと同じ教室に居たことだ。

 当時者二人が、同じ補習を受けるのは当然だ。こうなる予感だって、ちょっとしていた。

 それでも昨日の今日で、俺はなんか変な気分だった。

 向こうが気まずそうな顔をするので、俺もそんな感じになってしまう。

 そうやって、四時間が過ぎ……。

 竹内が、昼食を取れと告げに来た。

 それを受けて、俺達が各々、持参した弁当を広げ始めていると……。


「補習頑張ってるー?」


 教室に、太知が入って来た。

 手には弁当を持っている。


「あれお前、今日部活だったのか?」


「うん、昼休憩だからこっちで食べに来たんだ。一樹達も丁度その時間だったみたいだね」


「そっか。じゃあどっかその辺、好きに座れよ」


「てかせっかくだしさ、三人で一緒に食べようよ」


 太知が勝手に机を移動し始めた。


「お、おいっ」


「ささ、早く」


 俺と辻井は引っ張られて、三つの机でできた島の前に座らされる。

 太知も同じ様に席に着いて、なんだか嬉しそうにニヤついている。

 辻井はまだどうしていいか分からない様子だ。

 全員が、互いの顔が見える位置に居た。


「じゃあまぁ……食べようぜ」


「あ、ああ」


 ◇


 弁当を食べながら、三人で色々と話した。

 俺と辻井は、ぽつぽつと。太知は、俺達がこうしているのが嬉しいようで……普段よりよく喋った。 

 そして、三人ともが食べ終えて、片付けを始めた頃。 

 俺が、今日ずっと頭に抱えていた言葉を言った。


「……悪かったな」


「……」


「あのとき、お前の心情を軽く見てた。デリカシーがなかったよ」


 勿論、辻井に言った言葉だった。


「…………」


 辻井はそれを聞いて視線を下げたあと、少しの間黙った。


「……俺も、悪かった。お前の足を引っ張るつもりはなかったんだ」


 太知が不思議そうに、俺達の顔を交互に見てる。


「けどあの時、なんか気に食わなかったんだと思う」


「そうか」


「多分……一人になると思ったんだ」


 初めて聞くような、辻井の素直な気持ちだった。

 俺はそれを聞いて、もう何も言う事はないと思った。

 なのでそれから、蚊帳の外だった太知に事の経緯を説明し始めたのだった。



 三人とも、密かに気になっていたことがあったみたいで、質問も何個も飛び交った。

 それでようやく、多くのわだかまりが取れた気がした。


「ていうか、こないだまで一緒に居たあのグループは一体なんなんだ?隣町から来たって言ってたけど」


「あれは、あっちの町の高校の不良のやつらだよ、ほとんどはな。少しこっちの人間も混じってるが」


「咲人はそんなの、どこで知り合うのさ?」


「うちの高校にもそういう奴等が居るだろ、少ないけど。そういうとこから繋がりがあったんだよ」


「ふうん、なるほどぉ」


「このあいだの夏祭りにもあいつ等がいっぱい来てたぞ。あいつら祭りが大好きなんだよ」


「まぁ祭りは皆好きだよねー」


「そういやぁ三十一日にも、今度は隣町のほうでもっとおっきな夏祭りがあるらしいな」


「ああ、あっちで毎年やってるやつか」


 向こうは大きな通りを通行止めにして、そのまま屋台を並べていた気がする。

 うろ覚えだがかなりの規模だったと思う。


「お前ら行くのか?」


「いや、俺はいいよ。もう夏祭りは十分」


「僕も、今のとこいいかなぁ」


 そのあと、補習を大人しく受け、三人で帰路に着いたのだった。

 太知は辻井と別れたあと……こにことして、「いやぁ。よかったよかった」とか呟いていた。

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