2-6

 その後……野中が、こんな事を言い出した。


「明日も、寺島の家に集まらない?」


 ……と。

 俺はそれを聞いて、野中が太知に対してそう言ったのかと思った。実際太知は、「いいね」とか言って乗り気だった。 

 しかし、野中はこう言う。 


「アオイちゃんも、どう?」


「えっ。……うーん、いいのかな……」


 だが俺は、そう易々と許可するわけにいかなかった。

 たまったもんじゃない。

 俺だって宿題をやらなくちゃいけないんだ。三日も連続で入られたら、勉強ができないじゃないか。

 俺はそう抗議したが、それを聞いて、青八木が言った。


「もともと、全然進めてなかったじゃん」


「…………」


「なんなら、またわたし教えてあげてもいいけど」


 ……たしかに、それはとてもありがたい。

 青八木に宿題を手伝ってもらえば、夏休み最終日までに必ず終えることができるだろう。


「いいじゃん、楽しそうだしさー」


 太知の呑気な一言により、俺は渋々了承したのだった。


 ◇


 ということで翌日。

 今日も今日とて、勉強に勤しむ。

 こんなことならこまめにやって置けばよかった、と例年は考えるのだが……まぁ今年は、これでも悪くなかったかも。

 だって、女子に宿題を手伝ってもらえるんだから。

 ……俺にも、そういうたぐいの気持ちがある。

 しかしなんというか昨日反対しておいて、もうこれとは……。

 我ながらの、切り替え能力の高さだ。


(ピンポーン)


「おーいっ」


「空いてるから入っていいぞー」


 太知がリビングまで上がってくる。


「……お前はやっぱ暇なんだな」


「まぁね」


「しかも今日は朝から来やがって」


「今日も部活ないんだ。そんで僕も、あと数ページで宿題終わるから持ってきた」


「じゃあ一緒にやるかぁ」


 太知が同じテーブルでノートを広げる。ほんとにすぐ終わりそうな感じだな。


「お前そういうとこ、結構ちゃんとやるよな」


「うちの場合、お母さんがうるさいってのがあるから」


「あー……」


 確かにあの人は、そういうベタな母親って感じがする。

 それだけで会話は終わって、俺達は勉強時間に入った。

 それから何十分後か分からんが、野中も訊ねて来た。


「あ、やっぱり太知くん居たー」


「おはよ」


「まだ青八木ちゃんは来てないのね」


「ああ」


 もしかしたら、今日は来ないのかもしれない、そうふと俺は思った。

 そしてその通りに、青八木はその日、来なかった。

 野中は少し寂しそうな顔をしていたが、しょうがないと思う。

 なにか予定が入ったのかもしれないし、他に事情があるのかもしれない。

 まぁ、三日も続けてはそう来れないだろう。

 俺と違って友達が多そうだしな……。

 結局昼過ぎまでで、俺達は解散した。


「そういえば夏祭りどうするよ、何時に行く?」


 別れ際、二人にそう聞いた。


「あー、どうすっかねぇ」


「……野中も来るんだもんな?」


「当たり前じゃん」


 どうせお前は太知に話しかけまくるから、俺の方があぶれるんだよなぁ。

 と、心で呟く。


「たしか六時からだったはずだから、その時間にこの家に集まればいいんじゃないのかな」


「ん、じゃあそうするか」


 それから三日間、俺は一人勉強に勤しんだ。

 太一も野中も部活があるらしかった。

 青八木はその三日間も、うちに訪ねてくる事はなかった。

 来ないのなら予定があったんだろう。

 気分転換に一度向日葵畑に行ってみたが、そこにも彼女は居なかった。

 きっとまた隣町にでも行っているんだろうと考え、宿題を進め続けた。

 やはり一人だと集中力が続かないのが否めなかったが、青八木に教えてもらった時の勉強の感覚をひねり出しつつ、なんとか手を動かした。

 そうして三日の間に、俺は結構な進展を得ることが出来たのだった。

 残りは英語と、止まったままのスケッチのみ。

 ……だがなぜか、達成感は特に感じられなかった。

 ただ安心と、疲れから来る眠気があって、ソファに横になって残りの時間を潰したのだった。

 明日の夏祭りには、活力も戻っていればいいんだが。

 と……そう望みつつ、次の日を待った。

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