2-3

 無事向こうのベンチに着いた。


「やー、ほんと久々だなぁ」


 そう言って、野中はベンチに座った。

 それで隣のスペースを、手のひらでポンポン叩く。


「太知くんも座ってみてよ!」


「え?ああうん」


 二人が並んで座る。


「……俺の落ち着く場所がないんだが?」


「ああ、地面にでも落ち着いてればいいんじゃない」


 ああ、こいつほんと……。


「あ、変わる?俺は別にいいけど」


「あーいいからいいから!太知くんはここに居て!」


「……なるほど、お前の方がどいてくれるわけか」


「うるさいっ」


「はぁ……なんで二人は、こうすぐに喧嘩するかなぁ」


 太知が困った顔をする。


「まぁいいよ、俺はここに座るからよ」


 昨日と同じベンチの隣に座り込む。

 見た目的には完全に、俺が二人にあぶれる形になっているな。野中の太知への媚び媚びタイムが始まると嫌なので、俺が太知に話しかけて主導権を握りたいところだ。


「太知は」


「それで太知くんって、好きな人とか居るの??」


「…………」


 ……えぇ??

 ちょっと直球すぎやしないか?

 案の定。太知も、急な質問に驚いている。


「す、好きな人……?」


「うん、せっかくだし恋バナしようよ!」


「恋バナってあんまり異性でするもんじゃないんじゃ……」


 関係ないよ!と野中は笑顔で話を進めようとする。

 俺はなんとか割り込もうと、言葉をねじ込む。


「あっ、ちなみに!俺の好きな人はー……」


「おおっ!それぼく気になるなぁ!」


 野中がこっちをにらむ。

 しかし。

 そんなことはどうでもよくて、俺の頭の中は真っ白になっていた。

 …………。


「……あー、いや。……別に居なかったわ、好きな人とか……」


「えぇっ?」


「ふんっ、そんな事だろうと思った」


 くそっ。


「で、太知くんは?誰か居るの?」


「……いやぁ居ないなぁ」


「…………」


 野中の表情が固まる。

 まさか、いきなり自分の名前があがると思っていたわけではあるまいな。


「は、ほら、ちょっとでも誰か気になる人とかは?居ないの?」


「えー?……いやぁ、居ないけどなぁ」


「くっ……!」


「はっはっは、居ないってよ!」


「こいつが普段くっついてるせいで作る隙がなかったんだ!可哀そう!」


「いつもくっついてんのはお前だろっ、お前友達居ねーのかよ!」


「いや、居るし。うちの吹奏楽部は仲いいからね。寺島こそ太知くん意外と遊んでるとこ、見たこと無いけど」


「……太知以外にも、話す奴は居るよ」


「なるほど。話すだけでそれ以上はないのか」


「…………なぁ太知、いい加減こいつに付きまとわれて迷惑だよなぁ!?」


「いや、喧嘩されるほうが迷惑」


 …………。


「二人が言い合ってる間、僕がすることなくなるし」


「あー……なんか、ゴメン」


「……ごめんね、太知くん」


「うん」


 太知が真顔で頷く。

 これからはなるべく喧嘩にならないよう、気を付けることにしよう。

 しかしなんか、気まずい空間になってしまった。太知はキョトンとしているが、俺と野中は微妙な気分だ。


「…………ん?」


 そのとき太知が急に、花畑の方を見た。


「あれ、何か……誰か来てる……?」


「へ……」


「誰かが歩いて来てる音がする」


 そう言われて俺も耳を澄ますと、確かにがさがさと畑を通って来る音が聞こえた。もうすぐそこまで来ている。

 俺はさっき野中が言っていたことを思い出す。

 青八木は、今日は来ないとか言ってたし……。


(……って、…………え?)


 出て来た人物を見て、俺は素直に驚いた。

 太知と野中も驚いているのが空気感で伝わる。

 だが、その感情は二人の方が大きいものだっただろう。


「……あ、青八木さん?」


 そう野中が口を開くまで、全員が青八木を見つめたままだった。

 当の本人はというと、俺達三人を見て目をぱちくりさせている。それはこっちがしたいもんなんだが。


「あれ青八木……、今日は来ないって言ってなかったか?」


「え?……あー、うん」


 上の空な返事をした後、あらかた太知と野中のことを眺めてから俺の方を見て言う。


「ちょっとね、早く帰って来た」


「はぁ、そうなの」


「そっちこそ、今日は友達連れてきたんだね。てか女友達居たんだ」


「居るよ」


 俺はそんなにも、そういう男に見えてんのかよ。

 野中の方は、「友達……??」と呟いているが……。別に、悲しくは……ない。


「いや、いつも一人で暇そうにしてるからさぁ」


「こいつらが部活で忙しかったんだよ」


「ちょ、ちょっと待って。……二人って、仲良かったの?」


 野中がそんなことを言ってくる。

 隠す理由もなく、軽く説明をする。

 青八木が、俺より先にこの場所を知っていたこと。

 たまにここで出会って、何度か話したことを。


「へーっ、一樹と青八木さんが友達だったのかぁ」


 太知も物珍しそうな口調でそう言ってくる。

 だが俺もこう、改めて言葉にされると、変な感じだ。


「以外だなぁー、寺島なんかが青八木さんと関りがあったなんて」


「別に、たまたま話す機会があったからな」


 ふと、青八木の手に、包みが下がっていることに気が付いた。なんだろう?

 青八木も俺の視線に気づいたようで、包みを上げて言う。


「ああこれ、いまからここでお昼食べようと思って。お弁当持ってきた」


「あー、そうなのか」


 俺は太知と野中に向き直る。


「じゃあ、俺達はもう戻ろうぜ。俺も少し腹減って来たし」


「あ、帰んの?」


「えーっ、せっかく青八木さんと話せるのに」


「いいから、ここに何人も居ちゃゆっくりできないんだよ」


 二人を連れて行こうとする。

 野中がごねているが関係ない。ここは青八木にとって特別な場所なんだ、静かに過ごさせてあげたほうがいい。


「あ!そうだ!……青八木さんも寺島のうちに来れば?」


「……は?」


 なに言ってんだ、こいつは?


「わたし、青八木さんと仲良くなりたいと思ってたんだ。だから来ない?お弁当も家で食べればいいじゃん!」


「は、はぁ」


 青八木が困惑と驚きの表情で答える。なんか俺が恥ずかしくなってくる。


「あのなぁ……青八木は、ここで食べるために弁当を持ってきたんだぞ?」


「嫌なの?」


「嫌だとか、そういう話はしてない」


「ひどいね青八木さん!寺島は家に来てほしくないみたい」


「いっ嫌じゃねーけど、向こうの都合があるだろ!」


「うん。わたしも悪いから、遠慮しとくかな」


 青八木が苦笑いでそう言う。


「あー寺島、断られちゃった……」


「野中がな」


「それは残念。だけどまぁしょうがないね。またね、青八木さん」


 太知が余所行きの顔とセリフで、手を振ってその場を離れようとする。


「うん。じゃあね」


 そうして俺は、二人と畑に入った。


「なぁんだ。いい作戦があったのになー」


 野中がそうつぶやく。

 なんだ作戦って。どうせろくなもんじゃないんだろ。


「コンビニでも寄って、昼飯買って帰るか」


「うん。……て、あれ」


「ん……どうしたの太知」


「青八木さんが……」


 太知が振り返った先に、青八木が早足で歩いて来る姿があった。


「青八木?」


「ん、ねぇ……やっぱ行っていいかな?寺島ん家」


「え?……な、なんで急に……気が変わったのか?」


「あっいいよ!行こう行こう!」


 なぜか野中が許可する。


「ちょ……っ」


「嫌じゃないんでしょ?」


「そうだけど……」


「……いいかな、行っても……?」


「いやまぁ…………いいけど」


 じゃあ決まりだね!と言って野中が、なぜか太知を先頭に立たせる。

 そして野中はその後ろにつく。

 野中と太知の後ろに居る俺の後ろに、青八木がついた。

 そのまま四人で進む形になる。野中は、太知と話し始める。

 こいつの作戦とやらが分かったかもしれない。

 こいつ……女子を一人入れることで必然的に、太知と自分とが隣り合うようにしたかったんだろ。

 なんてやつだ……。青八木と仲良くなりたいなんて、嘘っぱちじゃないか。


「策士っていうか……陰謀だな……」


「ねぇ……野中さんって、眞田君のこと好きなの?」


 青八木が、小声で話しかけてきた。


「えっあ、ああ。まぁ……多分ね……」


「ふーん……そっかぁ」


 微笑みながら前の二人を眺める青八木。

 彼女も彼女で、何を考えているのか分からないところがある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る