2-4

「……ここ?」


「そう、ここが寺島の家」


「結構おっきいね」


「まぁ親父の実家をそのまま使ってるから。元々祖父母の家だったんだよ」


「へぇー」


 青八木は家やその敷地を見回す。


「入っていいよ」


 俺が鍵を開けて、三人が入って来る。


「おじゃましまーす」


 家の中でも、青八木はきょろきょろしだす。なんだか恥ずかしいので、ほどほどにしてほしいのだが……。


「そこら辺座っててくれ。いまお茶出すから」


 食卓に三人を座らせた。

 だが、太知がすぐに立ち上がりついて来る。


「俺緑茶がいいんだけど」


「ああうん」


 そうして、自分でくみ始める。


「ごめんわざわざ」


「悪いねぇー」


「いーよ別に」


 青八木と野中のお茶を出して、俺も席につく。


「……じゃあ、昼食べるか?」


 太一もコップを持って戻って来たので、昼食をとることにした。

 青八木は自前の弁当を、他の三人は途中コンビニで買ったものを出して食べ始める。


「コンビニが出来てから、昼飯に困らなくなったよね」


「前までは親が作ってくれるか、そうじゃなかったら冷蔵庫を漁るかしかなかったからな」


「青八木さん、そのお弁当ってもしかして自分で作ったの?」


「うん、そうだよ」


「へーっ、料理するんだ?」


「たまにね、夏休みに入ってからはお昼を作ったりして」


「凄いなぁ……わたしはまったく駄目なの」


「きっと、野中さんも練習すればすぐ覚えられると思うよ」


「そうかなぁ」


 野中は当たり前に青八木と話すが、俺はまだこの状況に着いて行けていない。青八木が我が家のリビングに居るのが、とても違和感だった。


「おおーっ、すごいしっかりした弁当だ。ほら見てよ一樹っ」


「え?うん」


 俺も覗いてみる。

 控えめなサイズだがたしかに、品数も多くてバランスとか考えてそうな弁当だ。これは手間がかかってそうだなぁ。


「すごいなぁー……」


 太知がひどく感心する。


「あ……あーでもでもっ、実際女子のたしなみだよねー!料理って!」


「……え?そう、かな?」


「ていうかよく考えたら、私もできたわ料理。おにぎりとか美味しく作れるし。パパもそう言ってたし」


「へ、へー?そうなんだ……?」


 野中が急に釈変するから、隣の青八木が困惑している。

 こいつの目論見は失敗だったかもしれんな。青八木はとても女子力が高そうだから。


「寺島……なんで嬉しそうなの」


「いや別に?」


「腹立つからその顔やめろ!」


 野中がコップのお茶を俺にかける構えをとる。

 こいつ……!俺が注いだお茶を……っ!


「……寺島と野中さん、なんか喧嘩みたいになってるけど」


「うん。でも大丈夫。こっから仲良くなってくから」


「え……?」


「僕がさっきそう頼んだから」


「は、はぁ」


 そんなこんなで、昼食を食べ終わった。

 時間は一時半で、まだ余裕があった。


「なんか遊べるものないの?」


 野中がこんな事を言い出す。


「え?……うーん、ゲームくらいしかないけど」


「じゃあ皆でそれやらない?」


「いいけど、……青八木はいいのか?」


「うんいいよ。私ゲーム得意じゃないけどね」


「いいのいいの、やろうよ!」


 俺がテレビにゲーム機をつなぐ。


「皆でできるやつはこれしかないんだが」


 パーティ格闘ゲームのソフトを取り出す。


「ああこれ、弟とやったことあるわ」


 野中には、弟が居るらしい。

 青八木はそのゲームをやったことがないようだが、「なんでもいいよ」との事だったので、それを差し込んだ。

 それから三人で、ゲームに興じた。


 ◇


「あ、意外と強いねぇ青八木さん」


「あっ、そうかな?」


「じゃあわたしも、弟と鍛えた実力を見せちゃおっかな?」


 その数秒後、野中のキャラクターが画面外へ飛ばされる。そして一機減った状態で、ステージに戻って来る。

 そのまますぐに、すたすたと青八木のキャラクターの所まで歩いて行く。


「……ふふふ」


「…………」


 ……そしてまた、数秒で再び画面の外にふっとばされていた。


「ふふふふふふふふ……」


「こ、こえぇ……」


 結果この試合は、青八木が野中に勝って残りの三人で戦ったのち、太知が生き残ったのだった。

 そして第二試合。


「次は絶対勝てるよ、わたし!!」


 まず野中が退場するまでは同じ展開で、そのあとに青八木が退場。今度は俺が太知に勝って終了した。

 そして三回目は、まったく同じ展開で太知が残ったのだった。

 女子二人はゲームが得意ではないらしい。

 俺と太知の実力は同党か、太知が少し上回るくらい。なのでこういう結果になるのは当然と言えた。


「……もー、つまんないよ!」


「しょうがないだろ、こうなるのは分かってたし」


「はぁもういいや、あとは男子で好きにやっててよ」


「お前がやりたいって言いだしたようなもんなのに……」


「青八木さんも、もう飽きちゃったよね?」


「うーん。わたしはわりとまだ……」


「こっちで話そう!」


「あ、うん」


 女子二人はソファに座って喋り出した。


「俺達ももう一回やるかぁ」


「んー」


 それから一時間ほど、時間が流れたのであった。


 ◇


「じゃあまたねー!アオイちゃん」


「うん。またね彩ちゃん」


 女子二人が、やけに柔らかい空気感で手を振りあう。そうしてそれぞれの方向に帰っていった。


「……おそらく、今日で仲良くなりやがったな。あの二人」


「やがったなって……いいことでしょ?」


 ふむ。思えばさっきまでの野中は、いつもより太知太知していなかった。

 確かにそれは、俺にとって都合が良い。


「太知ももう帰んのか?」


「まだ三時でしょ?もうちょっと居ようかな」


「そっか」


 二人で家に戻る。


「もっかいゲームやる?」


 太知が聞いて来る。


「いや、飽きたからいいや……」


 俺はテレビを消して、ソファに横になる。

 太知は、なにやらテーブルの上のチラシに目を向けている。


「そういえば、今年は行くの?」


「……え?なにが」


 視線を向けると、太知が眺めていたのはこの町の夏祭りの広告だった。


「ああ、……多分行くんじゃないか?宿題がヤバくなければな」


「まだそんなに残ってんの?」


「……うん」


 最近はちょっとずつやってるんだけどね。いかんせん自堕落な生活が続いていたせいで、頭が回らずあまり進んでいない。


「夏祭りねぇ……」


 今年は、野中のやつも着いて来るのかな。別にいいんだが、なんだか俺が邪魔者みたいになりそうだよ。

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