1-11

 今日は土曜日。

 だからといって太知の部活が休みなわけではなく、俺の一日の予定は白紙だった。


「…………」 


 ……白紙、だったのだが……。

 今日は休日らしい裕子さんに、「草むしりを手伝って欲しい」と言われてしまったのだった。

 一人でさせるわけにもいかないので、流石に断れずに手伝った。


「一樹君、手が止まってるわよー」


「はい……」


 白い大きな傘のついた帽子をかぶった裕子さんが、俺にそう言った。

 俺は家の庭で、日差しを目一杯浴びた。

 そうして黙々と作業して二時間ほど経ち、時間は丁度お昼時になった。

 今日の草むしりはこれで終わりという事で、俺と裕子さんは家に戻った。

 そして裕子さんは、昼食の準備を始める。

 俺はそのあいだ、部屋に居た(宿題やってる風)。

 

 

 ……その時間。

 ふと、複数人の女子が話している声が窓の外に響いていることに気づく。

 目線をやると……知った顔が、道路の向こう側の歩道を歩いていた。


「……」


 同じ学年の女子。

 そしてその中に居るのは……青八木だった。

 青八木は他の女子三人と、なにやらにぎやかに話しながら歩いている。

 なんとなく、これから出かける服装に見えた。

 自分の服装を見下ろす。

 部屋着として使っている、よれたTシャツと短パン。

 

「…………」


 これまたなんとなく、俺は窓から離れて、じっと彼女らが通り過ぎるのを待った。

 ……俺、何してんだ?

 と思いながらも、体は動かなかった。

 それから少しして一階から、裕子さんの「できたわよー」という声が聞こえて来たのだった。


 ◇


 時間は経ち、夕方になった。

 俺は、歩いて家を離れる。

 少しだけ散歩をするつもりだった。

 何を考えるでもなく、目的地もなく歩いて行く。

 するとその道中で、遠巻きから何人もの同級生を見かけた。

 一人で歩いてるやつも居れば、グループのように固まっている集団もあった。

 みんな部活が終わって、下校途中なんだろう。

 ……その時。

 やはり遠巻きに、一人歩いているのが見えた。

 

 (青八木だな……)


 なんと、さっきぶりにまた見かけた。

 今日は二回目だったので、すぐに分かった。

 もう帰って来たのか? 

 もしかして方向的に、あの場所に行くつもりなのだろうか?

 そうだとしたら、本当に好きなんだろうな……あそこに行くのが。

 歩いていたシルエットがふと止まり、俺に視線を向けてきた。

 そして、片手を挙げる。

 なので俺も、同じ様にして答える。 

 それから向こうは、腕をすとんと落として立ち尽くしている。

 だから俺は……。「じゃあ」と言うかのように、振り返って歩き出した。


「部活の後バイトだよぉー」


 帰り道で、向こうの歩道の集団とすれ違う時に、そういう声を聞いた。

 ああ、青八木の言ってた事は本当だったんだな……。ホントにこんな酔狂な生徒がいたんだ。

 隣町に憧れを持ってる子が多いと、あいつは言っていた気がする。

 それは女子生徒を指してのことだろうか?それとも、男子も似たような感じなのだろうか?

 いつも学年の中心に居る生徒たちがそういう風潮にあっても、繋がりの薄い俺には知るよしがない。

 青八木は、その風潮がよく分からないと言っていた。

 そして、共感できないことに悩んでいたようにも、俺には見えた。

 俺自身今、こうして散歩をしていて思うのは…………この町は居心地がいい。

 むこうの街に居る時には、少しだけ落ち着かない気持ちがあった。

 だから俺も、どっちかと言えば青八木の意見に賛同だった。

 憧れってのは……よく分からない。

 ひとしきり歩いて家に向かう頃。

 夕日は色が付き始めて、町を照らしていた。


 ◇


 家に帰ると、段々と眠気が出てきた。

 俺はとりあえず、部屋のベッドに座った。

 まぶたを落としたり持ち上げたりしながら、色々と考えた。

 ……宿題、そろそろちゃんと進めていかないとまずいよなぁ。

 ……太知の部活、ひと段落着くのはいつ頃だろう。


「…………」 


 ……ああ……。

 眠って時間を潰すのは、もうやめたいと思っていたのに……。

 なぜだろう。

 やはりどこからか、眠気が湧いて来る。

 そうしていつかベッドに倒れ込み、俺は眠りに落ちていたのだった。

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