1-9

 その次の日の夕方、いつも通り帰って来た裕子さんが、リビングにあがるなりこう言った。


「……はい。一樹くん、あげる」


「え……?」


 買い物袋から、なにか差し出してきた。

 紺色の箱に入った、たばこ型の駄菓子だった。


「これ……」


「今日ちょうど見かけたから買って来たの」


「ああ、はは……なるほど」


 昨日のあれを覚えていたんだな。


「ありがとうございます」


 ソファに座っていた俺の手に、小さい箱が乗った。


「まあ今はひとまず、これにしときなさい?」


「……へ?」


 なにかにこりと微笑んで、そのままキッチンに入って行く裕子さん。

 ……なんだか、怖いな。

 今のはどういう意味だったんだろう?

 裕子さんの表情をうかがってみるが、何の気ない顔で手を動かしている。

 分からないまま、二階に上がって自分の部屋に入った。

 机に座って、お菓子の箱を眺める。

 

「…………」


 勉強机の横の、ゴミ箱を漁る。


「……ある」


 もしかしたら、と思ったんだが、昨日捨てたタバコは変わらずにあった。

 そうだよな、だって見つかるようなタイミングはなかったんだから。

 じゃあさっきの言葉はなんだったんだろう……?まさか、ハナから昨日の嘘がバレていたってことか?

 あの時点で裕子さんは気づいていて、それでこれを俺に渡してああ言ったとか。

 さっきの裕子さんの表情を想い浮かべる。

 

「……うーん……?」


 とりあえず、もらったお菓子を食べてみた。

 咥えて、ポキンとけっこう硬い感触で折れる。そして口の中でぼりぼり噛み砕く。

 なんか、美味しいのかよく分からない味だと思った。とりあえず甘いというのは分かる。

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