1-5
「今日も雲の少ない、晴れた一日になるでしょう」
翌朝。俺は、寝ぼけた頭で朝食を食べながら、ぼーーっとニュースを見ていた。
ふと気づくと、家には俺一人になっている。
そういえば親父の「行ってくる」という声を聞いたような気がする……。
……時刻は八時。
うーん、どうしよう。
今日は一体、どうやって時間を潰そうか。
予報を見ると、今日も一日中晴れるらしい。最高気温は……三十三度。暑そうだし、する事もないし、外には出たくないなぁ。
八月に入ればきっと、さらに暑くなるんだろう。
……そうなったとき、俺はどうすればいいんだ?
家にこもって、一日が過ぎるのをひたすら待っていればいいのか。それとも暑い中、見飽きた町をただただ歩き回ればいいのか。
どちらにせよ、想像するだけで退屈そうだった。
夏休みはまだ始まったばかりなのに、すでにこんな見通しで溜息をつく。
……おかしいな。
小学生の頃はどんなに暑かろうと、夏休みには毎日町に繰り出していたのに。中学校の頃だって、どれだけ部活が億劫でも結局は毎回参加していた。
けど、今の俺にはその行動力がない。
その頃と今では、一体何が違うというんだろう?
(ピンポーーン)
「……ん?」
こんな朝から誰が来た?
食パンを飲み込んで、玄関に向かった。
「やぁ、おはよー」
「……え?太知?」
数日ぶりに見た、同級生の顔があった。
「遊ぼうよ」
「あれお前、部活じゃないのか?」
吹奏楽部はコンクール前だったと思うんだけど。
「いやあなんか、顧問の都合で午前中だけ空いちゃったんだよね」
「あー、そうなの」
てっきり今日も一人だと思ってたが、思わぬ来客に少し救われた。
当たり前のように家に上がって来る太知。
実際、もはや当たり前になっていた。
廊下を歩く太知の身長は、知っている通り俺より少し低いくらい。
だがこいつ、最近身長が伸びてきてるんだよなぁ……。
「ちょっと待って、朝飯食ってっから」
「もう、さっそく生活リズムが崩れてきてるじゃん」
「これが帰宅部の特権だよ太知君」
「あと美術部もね」
「そうあと、茶道部もだ」
「茶道部はないようちは」
そうだったのか……。
「いいな、一樹の朝飯美味しそうだ」
太知は比較的童顔だと言えるその顔を、皿の上の料理に向ける。
「……お前、まともな朝食食べさせてもらえてないの?」
「そうじゃなくて、腹減ってるんだよ。六時くらいに食べたから」
「六時……?」
「今朝顧問から連絡あったから、それまでいつも通り部活行くつもりだった」
「お前っていつも何時に起きてんの……?」
「五時半。七時から練習あるからね」
「はあー……」
普段の登校日より早いじゃないか。
「大会前だからねぇ」
大変だなー。やっぱ部活、入らなくてよかったな。
数分で朝食は食べ終わった。
その後、二人でテレビゲームをして過ごした。
そして十一時に差し掛かる頃。
「あー……、……飽きたな」
「うん……」
「ちょっと腹減ってきたな……部活って何時からなんだ?」
「一時からって言われた」
「ふーん……」
あと二時間か……。
家にあるものを食べるか?
「そんじゃ、行ってみようよ」
「……行くって?どこに」
「コンビニ!」
「……ああー。そういえば」
俺が昨日たばこを買ったコンビニ。
そこは先週開店した、この町唯一の店舗だった。
「じゃあ昼飯買いに行くか……」
「うんっ」
とりあえず俺は連れ出してくれる友達が居れば、暑い中でも外に出られるらしかった。
◇
俺がこの町に来たときからずっと、町の一角に、空っぽになったコンビニ型の建物が放置されていた。
そこで先月、なんと工事が始まった。
町の住人たちはざわつき始めた。ついにこの町に、コンビニが戻って来るんじゃないかと。
そして工事が進んでその全貌が見えてくると……それが歓喜に変わったのだ。
隣町で見た看板が、その駐車場に立っていたからだ。
かくしてそのコンビニは、期待を背負いつつやっとの開店を迎えたのだった。
……とまぁ……色々と脚色をしてみた。
「着いたな」
「うむ」
家から十分強歩いて目的地に到着した。
海沿いの道路に面したその店の前には、やけに大きい駐車場がある。
多分、トラックが止まるからだと思うけど。
「コンビニで買い物なんて久々だ」
「俺も」
……嘘だけど。
「いらっしゃいませー」
「おお……コンビニだあ……」
入店したとたん太知がそんな当たり前の感想を言う。
「やっぱおにぎりの種類多いなーっ、スーパーとは比べ物にならないね」
真っ先におにぎりコーナーに向かった太知。
俺も着いて行こうとしたとき……雑誌コーナーからこっちを見ている集団が居た。
「あっ、寺島だ」
同じ学年の、男子三人だ。
「……おう」
その中の二人は小学校から知っているので、普通に話せる。
……はずなのだが……。
なんだか、見ない間に雰囲気が変わっていた。
もう一人が、よその中学から来た生徒なのも少し気が引ける。
俺は未だに、隣町から通っている生徒と誰一人、近しい関係になれていなかった。
「じゃあな」
「おー」
俺は何気ない風に、だらっと手をあげた。
そして、もう一人に軽く会釈して太知の所へ向かった。
◇
コンビニを出て家に向かっている途中、太知に聞いてみた。
「なぁ。お前って、隣町の奴らと遊んだりする?」
「え?……どうしたの?」
「いやなんとなく、気になったから」
「……うーん、まぁ学校の外で会ったりはしないかな」
「ふうん?」
「でも部活入ってたら関わることは多いよ、どの部活にも数人は居るみたいだから
「なんでそんな詳しいの?」
「いや、だってもう一学期も終わったしなぁ……」
……ふぅん、そういうもんか。
「てか、一樹はなんで部活入んなかったの?」
「え?いや別に、なんとなくめんどくさく感じちゃったからだよ」
「めんどくさいって、なにが?」
「……なにって……なんか、こう……」
「……?」
「……ううん……」
「あっ!眞田(さなだ)居た!おおい!」
前方から太知の苗字を呼びながら、夏用の制服を着た人間が、小走りに近づいてきた。
「藤田?」
太知がつぶやく。同じクラスの吹奏楽部員、藤田だった。
「はぁ、探しても居ないと思ったら、こんなとこ歩いてたのか」
「おう藤田、どうした?」
「おう寺島、ちょっと悪いんだけどさ……眞田を借りたいんだよ」
「えっ?僕がなに?」
「……今日の部活……十二時からになったってさ」
「ええっ!?」
「河田の用事が早く終わったから、その分早くなったらしい」
河田は吹奏楽部の顧問。
「ええ……勝手だなそれぇ、一時間ぐらいどうでもいいいじゃんかぁ」
「コンクール前だから張り切ってるんだよ多分」
「なんで藤田は制服を着てるの?」
「家で着てきたんだよ、時間無いから。お前も早く着替えてこい」
「えぇー?……僕、今日休むわ」
「何言ってんだコンクール前だってば。ほら行くぞ!」
「えぇー!今から昼食だったのにー!!」
コンビニのビニール袋を持ったまま、太知が引っ張られていく。
「悪いな、寺島ー!」
「あ、うん……」
口をはさむ間もなく、太知は連行されてしまった。
「僕コンクールメンバーじゃないのにぃーっ!!」
ああ、そうなんだ……。
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