1-3

 俺は、家とは少しずれた方向へコンクリートの歩道を進んでいた。 

 向かうは、この町の端の方。

 そこにある、大きな向日葵畑だった。

 誰かは分からないが、毎年春に種を植えているのだろう。

 夏になるとそれが一斉に開花するのが、この町の唯一の特徴みたいなものだった。 

 帰って宿題をする前にせっかくだから見に行くことにした。毎年見るものだが、今年は初めてだ。

 海や山よりは幾分かいいものだろう。

 そう考えながら、向日葵畑へ向かって歩いている。

 住宅街の大きな通りから外れる。すると民家が少なくなってきて、道脇の水路が太くなってくる。

 散歩する老人も、ここまでは足が伸びない様だ。人っ子一人見当たらない。

 段々と、水路の草が長く、その向こうの木々も多くなってゆく。コンクリートのひび割れも増えてきた。

 そして…………見えてきた。

 緩くカーブする歩道の先に、奥まで続く黄色い花々が____。


「……?」

 

 ……ん……?

 向日葵畑の前に、誰か立っている。

 女の人だ。

 手を後ろで組んで、向日葵の花を見上げている。

 誰だろうと伺いながら歩いて行くと、横顔が見えて来た。


「あ、……青八木……?」


 まつ毛が長く、大人っぽい横顔。同級生の、青八木あおやぎだった。

 むこうもこっちに気付いたようで、顔を向けてくる。


「あ……寺島」


 俺は手を挙げて、小さく「よう」と返す。

 涼し気に微笑んでから再び花を見上げて、青八木は言う。


「今年も咲いたんだね」


 横顔は涼しげで、黒い髪は後ろで団子になっている。前髪が流れていて左目の上をぼんやり隠している。

 耳の前に垂れた髪が、首元まで下がっている。


「もう七月も、後半だからな」


「うん……」


 ホントはもっと前から咲いてたのかもしれないが、気がつかなかったので一気に咲いたような感じに思えた。

 青八木も、同じだったりするのだろうか。


「…………」 


 静かな横顔は、心意をうかがえない。

 学校で見かける時も、他の生徒とはある意味浮いているように感じていた。

 一つ年上くらいに見える、とも思った。

 だがそれを言うと、女性は怒る場合があると親父が言ってたから言わない。

 そもそも、そこまで仲良くもないんだ。クラスも別だし。


「……じゃあ、行くわ」


「うん。じゃあね」


 それから、家に向かって歩き始めた。

 この町には小中高、それぞれ学校がひとつずつしかない。だから青八木とは昔からの知り合いではある。

 だが高校生になった今、特に接点はなかった。

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